決裂
「へっ」
思いもよらぬ返事に、私は間抜けな声を上げる。
「リリアが悪いとかじゃ全然無いんだけど
…いや…悪いのは…俺…で
俺…今回の事でも思ったけど
自分の事…嫌いなんだよ」
ゆかりが?寧ろ初めて会った時は自信があるように見えたのに。
「弱くて、中途半端で
馬鹿で…
そんな自分に嫌気が刺してた時に
リリアやレッド先生に会ったんだ
…この人達がいるなら…俺、
変われるかなって」
「ゆかり君…」
「だけど今日フユキに助けられて思った!
まだ俺…全然弱いままだ…
フユキを助けようとして
逆にやられたあの日から…
何も変わって無かったんだ」
助けようとした…?
もしかして「例の事件」の…
「こんなダサい俺とリリアが付き合うのが、
どうしても…許せなくて
だからリリア…
俺が強くなるまで待ってて欲しい!
そしたら俺、リリアに相応しい男になって
君を守るから!」
想像以上の彼からの熱い気持ちに
驚いて困惑してしまう。
私、この子をレッドから助けただけよ!?
なのにこんな…!
…でも、彼は真剣だし無下にしちゃいけない!
「…わ、解った…嬉しいわ、ありがとう
でも聞いて…!その、あの告白…
実はあの場を切り抜ける為の嘘だったの!
ごめんなさい!」
「えぇ!?」
ゆかりは身をたじろがせながら驚く。
「誰が見たって解る事だったでしょ、
ゆかり君ちょろすぎ」
彼の様子を見て、ホワイトが呆れたように縁に言い放った。
「でもね!…その…
そこまで真剣に思ってくれるのは嬉しいわ
…だから…またあなたの事も
1から知っていきたいの
強くなるまでとは言わず、
友達としてこれからも関わりましょ」
私がそう言って握手を促すと、彼は私の手を握り
「うん…」と小さく呟いた。
フユキは眉を潜めながらその様子を眺めた跡、
「やっぱり俺との事気にしてたんだ、
もう俺は大丈夫って言ってるのに」
と吐き捨てる。
「…は…?
お前だって…いつまでも俺とのこと気にして能力使わない癖に…!」
和やかな空気から一変、2人は火花を散らすかのごとく睨み合う。
「ちょっと!何で急にそんな喧嘩になるのよ!」
「ゆかり君が意地張るからですよ!」
「フユキが弱いフリやめないから!」
2人はほぼ同時に言い放つ。
そしてまた睨み合ってしまった。
「あーもー!そんなに言い合うくらいなら決闘で決着でも付けたら!?」
収集のつかない状態に痺れを切らし、
私はとんでもない提案を2人にしてしまう。
すると、2人のすぐ後ろの窓が開き
「それはいい案ですねー」
と、穏やかな声が響く。
声の主は、穏やかに笑うレッドだった。
「「レッド先生!?」」
レッドの腕の上には氷が置かれている。
ああそっか…ここって医務室のすぐ裏だっけ
だからレッドがこの話聞けちゃったんだ…
「何でここに…?」
「フユキを探しに行こうと思ったら医務室の窓から見えたから話しかけちゃった
…ゼリーいる?」
「いらないです」
ゆかりは動揺しながらも即答した。
…ん!?待って!?
レッドが今の話聞いてた!?
どこから!?
まさか2人の告白(?)を聞いちゃったんじゃ…!
ま、まあ聞かれたって別に困る事ではないし!?
レッドに知られたからって…
もう、関係無いじゃない…
「レッド先生、いい案って…リリア様の言った事がですか?」
フユキがレッドに問いかける。
「うん!
コズミック5式の和解案もそうなんだよ
とりあえず揉めたら戦って決着を付ける、
勝った方が正義!って」
提案しといてなんだけど脳筋すぎない…!?
「…いいですよ、俺やります
俺が勝ったらもう俺から逃げないって
約束して下さい」
「俺がいつ逃げたんだよ!
お前こそ俺が勝ったら
もう2度と弱いフリするなよ」
2人は再び睨み合う。
その様子をレッドは穏やかに眺めた後
「明日の放課後、模擬戦闘スペース開けておくから思う存分暴れていいよ
俺も冬樹がどのくらい強くなったのか見たいし」
と言って微笑む。
「…逃げるなよ」
「そっちこそ」
と言って睨み合ったまま裏庭を後にしてしまう。
え!?ちょっと待って!2人にしないで…!
私は窓に頬杖をついて2人を見送るレッドと2人取り残されてしまった。
「あ…レッド先生!私もこれで…!」
私がそう言って立ち去ろうとすると、彼は一瞬顔を顰める。
「…君って、よくモテるんだね」
彼はそう言って呆れ気味に私を横目で見た。
う…やっぱり聞かれてた…!
「モテるなんて…とんでもない!
たまたま流れでこうなっちゃっただけよ」
私は言いながら、
包帯も巻かれずただ上から氷を乗せた腕に違和感を覚え
「…腕…包帯巻かないの?」
と、興味本位で聞いてしまった。
「母さんに言われたんだ、
この傷は勲章だから消したらダメだって
俺が頑張った証だからって…
だから残すことにしたんだ」
それって…手当もせず悪化させるって事!?
「…でも、そんな氷乗っけるくらいだから痛いんでしょ?
ちゃんと手当てした方がいいわ」
私は彼に近寄るとそう言ってまた腕を掴む。
本当に酷い状態になってるじゃない…
この様子じゃ能力を気をつけて使ってた感じも無さそう…
「ほ、ほっといて!
もう関係ないだろ!」
彼はそう言って私の手を振り払うと
「…君は敵なんだから」
と呟く。
いざ、本人から浴びせられるときついものがあるわね…
「敵とか関係ないわ、こんな短期間の内にそんな傷作ってたら次は死ぬわよ」
「別に…いいよ」
「…は?」
別にいい?
…別にいいってどういう事…
「死んでもいい」って言いたい訳…?
「何…言ってんの
死ぬのよ?もう生きてられなくなるの」
「…誰かの為に死ねるならそれでいいよ
俺…ヒーローだから」
私は諦めた様な顔でそう言い放つ彼を見て、
また怒りが込み上げて来る。
だめだ、抑えなきゃ…
私は思わず出てしまった手を
自分に向けて打つ。
パチン、と音がして焔は動揺した様な顔をしていた。
「え!?自分の事叩いたの!?何で!?」
「殴りたいけど殴ったら負けだからよ!
あんたって…本当最低…!
いつも本心を握りつぶして
平気なフリする!
本当に馬鹿みたい!」
「これは…俺の本心だよ」
「じゃあ本当の本気で馬鹿!
生きる気のない奴も
自分を助けられない奴も私軽蔑してるの!
何が勲章よ!そんなに傷つきたきゃ
傷つけばいいじゃない!」
言ってる内に涙が溢れてくる。
ああ、こんな事言いたくない、
違うの…本当は傷ついて欲しくないし
死んでほしくないだけなのに…
こんな泣きながら怒鳴る気なんか無かったのに…!
「あんたなんか…あんたなんか…!
大っ嫌い…!」
…言ってしまった。
心の中のどこかで、「仲直りできるかも」
なんて期待してたのに、
カッとなって自分でふいにするなんて…!
「あ…」
彼の手が伸びて来て、思わず避ける。
「触らないで!
あんたの手…私には熱いのよ…!」
私は必死に涙をぬぐいながらその場を後にした。
どうしよう、沢山酷い事言っちゃった。
…でも、このくらいの最後の方がレッドからしたら後腐れ無いかしら…
本当の、本当に終わりなんだ。
私はそこで初めて彼への気持ちを自覚する。
前世でも感じた事の無かった気持ち
多分、初恋だったんだと思う。
こんな泣いてる所を誰かに見られたくなくて、
人気のない教室に入ろうとした時
そこから出て来ようとする人間とぶつかってしまい、慌てて謝罪する。
「ご、ごめんなさ…」
私にぶつかられて、
呆然と私の顔を見ていたのは…ナギだった。