フィルターを外して
中学時代、夢中になって推してたキャラクター……
顔も声も大好きで、境遇から何まで愛してた。
グッズだっていくつ買ったか解らないわ。
そんなブラックが……!私に告白……!?
「まだ緑川に憑依されてる!?」
「正気だよ!」
うそみたいだ、頭がぼやけて上手く頭が回らない……!
「わ、私がすきって……つまり私が好きってこと?」
「うん、大丈夫?」
信じられない...…!私だってブラックが好きだ。
本当に、彼の全部が好き……!
……でも……
どうしてだろう、何かがつっかえた感じがするのは。
「俺……今のリリアを見てるとレッド先生が好きなのかな……って……思っちゃって……」
「はあ!?そんな訳ないでしょ!」
「そっか……!でも、ウリュウ様とかミカゲ様とシノ様とも婚約だか何だかって話になってるし、このままじゃ……気持ちを伝えないまま誰かに取られそうな気がして。」
ナギはそう言って私を見る。
そんなの、比べるまでも無い。
ブラック一番素敵に決まって……
突如、フユキの告白と焔の顔を思い出して混乱する。
そう、その筈なのに……なぜ腑に落ちないのだろう。
焔とはもう友達にすら戻れない、終わったのだ。
フユキも推しの一人だが、最推しはずっとブラックで……!
……いや……
違う、そういうことじゃない。
彼らは確かに私が憧れて来た推しそのもの。
寸分違わず等身大の本人。
……でも、「私は」今スクリーン越しじゃなくて本人達を直に見てるんだ。
「最推しは誰か」は抜きにして、リアルな人間として見なければ失礼になる。
「私も……好き……なんだけど……ごめんなさい、あなたのことずっとどこかフィルター越しに見てたの。どこか一つ壁を作ってたというか……」
「うん、何となくそんな気はしてた。
俺っていうか……俺みたいな概念が好きっていうのかな、上手く言えないけど。」
「ちゃんと『ナギ』として見る時間をくれない?そうしたら私……」
「別に、すぐどうこうなりたいわけじゃ無いんだ!
好きって伝えておきたかっただけ。……俺、役職柄人って信用出来ないけど、リリアの事は何故か信じちゃうんだ。
君ってめちゃくちゃだけど最後はちゃんと結果を出しちゃうだろ?……そんなとこも好き」
私は赤面しながら目を逸らす。
ナギを改めて男性として見るって思うと……
彼は私の中学では見かけなかったくらい大人びていて、落ち着いていて……
「リリア、辛い時は頼って欲しい。
俺……君のヒーローになりたいんだ」
その上、凄く優しい。
本当にこんな人が私に好意を寄せているのだろうか……?
私は高鳴る心臓を抑えてナギの顔をじっと見ると、
「もっと頼るわ……その、ちゃんと男な人としても見るから……少しだけ時間が欲しい」
「うん、待ってる」
ナギはそう言ってにっこりと微笑んだ。
ああ、やっと解った。
フユキに告白された時の違和感……
私はフユキをホワイトとしてしか見ていなかったんだ。
アニメでは見た事の無い面を目の当たりにしたからって、理解を拒んで……私は最低だ。
フユキにも、しっかりした返事をしなければならない。
ーーー
ウリュウの屋敷で、緑川が縛られたまま地下室に放り込まれる。
「手続きに凄い時間がかかったよ。2ヶ月も報告書サボりやがって」
僕はユウヤ君にそう言い捨てる。
2ヶ月分の報告を整理してたらもう夜の22時……こんな奴許すんじゃなかった。
「ごめんごめん……」
「しばらくはそこにいな、メイドつけてやるから」
「ひゅー!流石話がわかるねえウリュウ君は!天才!」
縛られながらもユウヤはご機嫌に身体をくねらせる。
好きな女がいるんじゃなかったのか?現金な奴。
「……言っておくけど、内心穏やかじゃ無いよ。こんな事で君が組織を裏切るとは思わなかった」
恋だなんだのうわごとで組織を裏切る輩は非常に多い。
……しかし、ユウヤ君がその手の人間だったとは少しがっかりだ。
「失望した?」
「勿論」
「僕も驚いてるよ、まさか自分がこんなに馬鹿だったなんて……これまで裏切り者達を見て馬鹿にしてきたのに立場が無いね」
ユウヤ君はそう言って寂しそうに笑う。
「次のチャンスをやったんだ、うじうじやった事を後悔してないで次のミッションの事でも考えたら?」
「ウリュウ君、やっぱり君は『優しい』な」
「侮られるのは好きじゃない」
「……違う、侮ってないよ、尊敬の意味。
君は、昔から殺すとかすぐに言う癖に、命を投げやりに使われるのが大嫌いだった」
緑川の言葉に、僕は眉を顰める。
リリアの事もそうだが、自分を理解されてる風な態度を取られるのは嫌いだ。
どいつもこいつも知った風な口を効いてくれる。
「だから簡単に『捨てない』。人の話も否定せず一度は聞く……君は優しい人だ、ボスになれる器だよ」
緑川は僕にそう言って微笑む。
……典型的な点数稼ぎだ、放っておこう。
「ヨイショしたって縄は解かないよ」
「解ってる。ウリュウ君、もう一度チャンスをくれてありがとう」
緑川がそう言って笑いかけるのを見ると、僕は舌打ちをしながら部屋を離れた。
玄関に戻ると、エントランスにリリアが立っている事に気づく。
「リリア?何してるのそんなところで」
「あ……えっとぉ……」
ああ、最悪だ。「やらかした」テンションじゃないか。
一体寝れるのはいつになるかな。
「何だよ、見ての通り今は機嫌が良くないんだ、早くして」
「実は……」
リリアはバツが悪そうに、ヒーロー達の事について話した。
「……は?ピンクが転生者でレッドにリリアの正体がバレたあ?」
「ごめんなさい!そうなの!」
リリアはそう言って頭を下げる。
僕は彼女の髪に触れると
「……へえ、最近の幽霊って触れるんだな」
と言ってやった。
「違うわよ!何故かわからないけど……泳がされてるの、私。」
わざわざ指名されてたくらいだ、
元々気に入られてたか……疑われてたか。
急に態度を変えたあたり前者かな。
惜しい事を……、ピンクの邪魔さえなければ緑川など使わなくともヒーローサイドの中核をレッドが見せてくれたかもしれないのに。
それにしてもこいつは本当によく事件を起こす。
まさかあのボスさえもこんな女の進言で動くなんて……
「怒ってる……?」
「いや?ピンクが転生者なら仕方ないと思うよ、次は期待してる」
「あ……ま、待って!」
僕が立ち去ろうとすると、リリアが服の裾を掴む。
「何?」
「今日……ドアの前で聞いちゃったのよ。混血とか、なんとか……」
どうしても気になるって?
どうしてこう、この女は人の都合に首を突っ込みたがるんだか。
「ごめんなさい、知られたく無いような事を盗み聞きしてしまって」
「……は?」
思いもよらなかった言葉に僕は目を丸くすると、リリアの顔を見る。
リリアは困惑したような表情でこちらを眺めていた。
「それだけ、また明日ね」
帰ろうとするリリアを、今度は僕が手を掴んで引き止める。
「いいよ、教えてあげる……僕の秘密」