混血
私はウリュウの屋敷に辿り着くと、チャイムを鳴らす。
「ウリュウ様!ちょっとお話しが……!」
「この気色悪い混血が!」
しかしウリュウは出てこず、ドアの奥から男の怒声が聞こえ、思わず体を強張らせる。
「混血」……?
もしや、ウリュウのこと言っているのだろうか……?
「失礼、客人のようだ……すぐに戻りますのでお待ちを。」
ウリュウ声がして、ドアが開く。
「……」
ウリュウは私の顔を見て眉を少し動かすと、またいつものうさん臭い笑顔を浮かべ、
「どうかした?息が切れてるけど急ぎかい?」
と言った。
「えっと……緑川を捕獲して屋敷に隔離してるの。あなたにも来て欲しかったんだけど……」
私は奥にいる人物を見る。
ウリュウの面影があるような……顔の整った紳士風の男が苛立たし気に座っていた。
ウリュウはまるで都合の悪いものを隠すかのようにドアを閉めると、
「今から行く、少し隠れてて」
と言って私を庭の茂みの影に押し込んだ。
「……誰だ?女の声のようだったが、まさかグレイシャの」
「とんでもない!リリア様が身一つで外出するわけ無いでしょう。大丈夫、彼女にはバレないように気を遣いますから。」
「……ふん、あんな庶民共に負けるんじゃないぞ。」
険しい顔をした男は、そう言って屋敷から出て行ってしまった。
「ごめんね、行こうか」
暫くすると、茂みに向かってウリュウが言う。
「あれ……どなた?すっごく怖い顔してたけど……」
「ん……俺の母さんの兄だったかな?成人するまでの腐れ縁だ、いちいち気にしてない。」
「ねえ、私には『バレないようにする』ってあれどういう事?」
「詮索が行き過ぎてるんじゃない?君と僕ってそんなに仲良かったっけね」
ウリュウはそう言うと静かに私の屋敷の方向に歩きだす。
最近は少しだけ距離が縮まっていたと思っていただけに、ウリュウのその言葉は少しショックだった。
屋敷に戻ると、先ほどより少し緑川の元気がなくなっているように見えて思わずナギの方を見る。
ナギは笑顔で「おかえりなさい」と言うだけだった。
「やあ……本当に緑川……いや、ユウヤ君じゃない。
大分ナギに可愛がられたみたいだね、油断してた?」
「油断は間違いなくしてたね……あの気弱なお嬢様がいつの間にやら君の部下になって仕事してるのも驚いたよ。
で?僕の事どうするつもり?」
精一杯の虚勢を張ったような様子で緑川が言う。
「内容と事情によるかな?何で報告をサボって連絡も無視した?」
「忙しかったんだ……急なチャンスが舞い込んでね。
『ヒーローになれる』っていう……より内部の情報を渡す為にチャンスを逃すわけにいかなかった。」
「そのチャンスを掴むかどうかは上司の僕がする判断、独断で行動しておいて僕が『そう、がんばったね』とでも言うと思ったの?」
ウリュウは緑川を見下しながら、冷たい表情で言い放つ。
「君が医療班トップになってることも知らなくってさ。
舐めてたわけじゃないんだよ?でも別に処分するならそれでも構わない、どうぞ。」
緑川がヘラヘラと返すと、一瞬無表情だったウリュウの眉間にしわが寄る。
「……解ってて言ってるんだ、やっぱり舐めてるよね」
「僕は殺せって言ったわけじゃない、『処分』するならどうぞって言ったんだ。何か気に障ったなら謝るよ」
緑川が言うと、ナギが再び彼の体に手を伸ばす。
ウリュウはそれに気付くと、
「やめろ、そんな安い挑発に乗るほど幼くない」
と言って制止した。
「言いたいことは解った、でも君にしては『忙しかった』なんて理由はとってつけた感じがするね。
本当のことを言わないと君が大嫌いなあの男に真偽を確かめて貰うことになるけどいいの?」
やまり、シノの話になるか……
「ま、待って!私も事情を聞いてるわ!こいつの説明へたくそだし、私が代わりにやる!ね?いいでしょ!?」
「……リリア……僕ってそんなにちょろそうに見える?」
「………へ……」
「今まで君の説得を聞いてきてやったのは『利害が一致する』と判断したからで、別に甘やかしてたわけじゃない。
簡単に融通が利く相手とそうじゃない相手くらい見分けろよ。」
「……!」
私は普段と違う様子に思わずたじろぐ。
そうだ、この男は一応悪の組織の幹部なのだ。
油断してはいけない。
「甘やかされてるだなんて思ってないわ!
あなたの事は大嫌いだし充分畏怖してる。……多少最近は尊敬も……
でも緑川じゃ絶対提示できない解決案を私は提示できるの。聞きたくないって言うならいいけど、こういうの、あなたの性格なら聞くだけ聞きたいって思う筈。」
「……はあ……その通りだよ、そういう理解してますみたいな態度取られるの嫌いなんだけど。
……さっさと話せよ」
「リリア……!大丈夫なの?」
ナギが困惑した様子で言う。
「ええ、平気!まず単刀直入に言うわ、緑川の事情は聞いたけど……
現状ブラックホール団への裏切り行為と判断してもいい内容だった。」
「……」
緑川は静かに床を見つめている。
諦めたような顔をしているが、この男は殺させない。
若葉ちゃんは緑川と親密そうに見えた。
この男がいなくなれば彼女は多かれ少なかれ悲しむ。
「コズミック7」のオタクとして、推しを泣かせるようなことだけは絶対にしない!