若葉と緑川
アニメのコズミックグリーンだ……!
なんて清楚で可憐かつ、笑顔が素敵なのだろう。
「わー!緑川君だ!こんな所で会うなんて奇遇だね!」
「あー……若葉ちゃん、見てわからない?俺デート中だよ」
緑川はバツが悪そうにそっぽを向く。
……女好きの緑川が素っ気ない……?
こんな美少女相手に?
「この前デートしてた子と違う……って言うか若くない?
あはは、もう見栄張っちゃって!どうせ親戚の子にご馳走してあげてたとかなんでしょ!偉いなー、緑川君!」
なんて浄化能力だ、悪しき緑川の態度が小さくなっていく……!
「何でこんなとこにいんの?バイト別のとこだったよね」
「臨時バイトだよ!時は金なり!学費稼ぐために頑張ってるの!」
「おーい若葉ちゃん!次運んで!」
「いけない、そうだ!私そろそろバイト上がれるの!一緒してもいい?」
グリーンと一緒に食事!?
「いい訳な」
「是非!是非一緒に食べましょう!」
私は緑川の言葉を遮り、目を輝かせながら言う。
「……じゃあ、仕事ちゃんと終わらせてから合流しな」
緑川は私の手前断れなかったのか、しぶしぶ了承した。
「いいの?リリア……部外者を混ぜたら面倒な事にならない?」
ナギが私の耳元で囁く。
「大丈夫、考え無しな訳じゃないわ、任せて」
私がそう返すと彼は少し頷いて再度緑川の方を向いた。
そう、確かに私情もあるが
「何故緑川は本来グリーンになる予定だった
佐伯若葉の代わりにグリーンになろうとしてるのか」
それは私が転生した後の事件の中で最も大きい謎と言っていい。
リリアの見せた夢では「緑川の件」がトリガーとなって、ブラックホール団はネメシス側に付くことを決めた訳だが……
詳細は不明だった、ここで何か解るかもしれない。
「お待たせ―!合流、制服のままでいいって店長に言われちゃった」
若葉ちゃんはそう言ってにこやかに緑川の隣に座る。
「制服、大正レトロみたいな感じですごい可愛いです!」
カフェの制服である袴と緑色の着物は
若葉ちゃんの清楚なビジュアルに合っていてとても輝いて見える。
「えへへ、褒められちゃった……!
緑川君、そんなに似合うかなー?」
「……戦闘服よりはいんじゃね」
「わーい!」
いつもヘラヘラしてる緑川が終始真顔で一切若葉ちゃんの方を見ない……
もしかして何か因縁があるのかしら?
「あの、二人はどんな関係なの?」
「クラスメイトなんだよ!
双星って言う学校で一緒なんだー!あなた達はどういう知り合い?」
「あー……私は須藤リリア!同じ双星の後輩よ。この前コズミック5の事務所で緑川先輩と会ったの。
この子はナミ、今回は付き添いで来た感じ」
「うす……」
「そうなんだー!私は佐伯若葉!
可愛い後輩と知り合えて嬉しいなあ」
若葉ちゃんはそう言って私とナギに握手を促す。
緑川の態度にイラついていたナギも、彼女の癒しのオーラに少しニヤついていた。
「……で?何で合流したんだよ
グリーンになれなかったあてつけ?」
「グリーンになれなかった……?」
ナギが不思議そうに聞き返す。
「実はね、私もコズミック5のオーディション受けてたの!本当だったら私がコズミックグリーンになれてたのに、私が『後もうちょっとでヒーローになれるんだー!』って話したら、
緑川君『君がなれるなら俺もなれる』とか言って滑り込みでオーディション参加して受かっちゃったんだよねー」
要するに横取り……!?本当に嫌な奴だ。
「僕の方が優秀だったんだ、こんな当てつけされる筋合い無いんだけど」
「当てつけじゃないよ!普通に話してみたかっただけ!緑川君いつも女の子と一緒にいて話しかけ辛いんだもん」
若葉ちゃんはそう言って無邪気に笑う。
緑川はずっと壁の方を向いて彼女と目を合わせようともしなかった。
「でも次はがんばってコズミック5に…!」
「やめとけよ」
若葉ちゃんが言い切る前に、緑川が言い放つ。
「え?」
「君ってさ、ヒーローとか戦うとかそういうの向いてないと思う。
諦めて好きな動物の研究でもしてた方が……性に合ってるでしょ」
「何それ?女は動物と戯れてなって言いたいわけ?やだやだ!私はお母さんみたいな立派なヒーローになるの!
緑川君みたいな捻くれた悪い人を退治しちゃうんだから!」
へえ、お母さんもヒーローだったのか。
目指す動機まで若葉ちゃんらしい。
「戦うって事は傷ついたり……傷つけたり、時には命のやり取りだって要求される。
君にはそういうの、向かないって言ってるんだよ」
……あれ……何か、この男の言ってる事、単なる意地悪じゃないような……?
「君みたいな奴は人を癒す方がまだ向いてると思うんだけど」
まるで、
「ヒーローみたいな危険な職に就いて欲しくない」って言ってるみたいだ。
それなら行動にも合点が行く、
「佐伯若葉のチャンスを奪った理由」は
彼女の身を案じたから……
それに私とピンクはこれを「改変された未来」として認識してたが、
「原作通りの正史」だったなら?
「惚れた女の為に組織を裏切った緑川にボスが怒った」
と捉えることもできる。
そうなればきっと緑川は長生きできなかったはず。
だから、5年もしない内に若葉ちゃんに担当が変わった……とか。
……いや、まさか。こんな軽薄な奴がそんな理由で動くわけがない。
ましてや、組織を裏切ってまで若葉ちゃんの代わりになろうとするなんて
余程惚れなきゃそんな選択しない筈だ。
最近結婚だの告白だの色々ありすぎて恋愛脳になっているかもしれない。
「あ!ごめん!次のバイトがあるから行かなくちゃ……!二人とも、これ私のID!良かったらまたお話ししてね」
若葉ちゃんはメモにSNSのIDを書くと笑顔で私達に渡した。
コズミックグリーンの連作先……!
なんだかいい匂いする気がする。
彼女が帰ったことを確認すると、私はナギに目配せした。
佐伯若葉と言う光は去った……思う存分可愛がってやらねばなるまい。
ナギは緑川が若葉ちゃんに気を取られていることを確認すると、
バレない様に彼のドリンクに「何か」
を入れる。
「それ……何なの?」
「医療班特性『超即効眠り薬』……
これ、本当は使っちゃ駄目なんだけど、緊急だから。ウリュウ様には内緒ね」
おっかない……そんなもの持ち出すなんて
ナギは余程緑川にイラついてたようだ。
まあいい、さあ緑川……!尋問の時間だ!