告白
「何か気配が戻って来るのが早いように感じたんですよね。リリア様がブラックホール団員ってあたりから、多分耳に入ってます。」
フユキは淡々とそう続ける。
……聞かれてた……?焔に、私が異星人だって……
胸がぎゅっと苦しくなるのを感じる。
なら、手をはたかれたのは……
「あー……これ、俺が悪い感じかな、冬樹君……」
ピンクがおどおどとしながらフユキに目配せをする。
「はい!お二人の仲を裂いちゃったかもですね!」
「うっわ、にっこにこでえぐい事言うなって……」
「……でも、俺はリリア様が異星人でも、ブラックホール団員でも……全然気にしませんよ?あんなに執着してたのに態度変えちゃうなんて、レッド先生も酷いです。」
「……焔君は……あまりにも『ヒーローすぎる』んだよ。君みたいに柔軟に物事を考えられない。
リリアちゃまがブラックホール団員ってわかった時点で、多分……敵対することしかできないと思う。」
私はピンクの言葉を呆然と聞いていた。
『殺したいとは思わないけど、殺さなきゃいけないだろうね』
夢で聞いた焔の言葉が頭に響く。
そうだ、焔はどこまでも正義の人。
私であっても、きっと刃を向けてくるのだろう。
今度こそ、終わったんだ。
泣きたい気持ちが伝わったかのように、外には土砂降りの雨が降り出す。
「げっ……おいおいこんな状況で!予報には無かったぜ?通り雨かな、傘持ってる?二人とも」
「俺、折り畳み傘持ってますよ!
リリア様も入れてあげます、一緒に帰りましょ!」
フユキはそう言って無気力な私の手を引く。
「気を付けて、しっかり送ってあげるんだよ。……ごめんね……」
ピンクはそう言って医務室の扉を静かに閉めた。
事務所の外に出ると、バケツをひっくり返したような大雨が降っている。
フユキは自分の肩を半分濡らしながら、小さな傘を私に傾けてくれていた。
「大丈夫ですか?リリア様。
すみません、レッド先生の事黙ってて」
フユキが申し訳なさそうに言う。
「……いいの、どっちにしたって結果は同じだったと思うから。」
私がヘラヘラと笑うと、フユキは珍しく目を伏せて
「俺だったらそんな無理させたりしないけどな……」
と呟く。
「……え……?」
「今のリリア様、見てて痛々しいです、無理に笑わなくたっていいのに。
前言ったでしょ?俺はリリア様の事好きですよ!俺だったらそんな顔絶対にさせません!
だからね、レッド先生じゃなくて俺の方が良いと思います」
……あれ……何だこの違和感。
フユキは何が言いたいのだろう…?
「俺はリリア様がどんな立場の人でも気にしません!
……あれ、もしかしてバレてないと思ってました?最近リリア様がレッド先生のこと気になってたの、俺解ってました!
だからって今日の事黙ってたわけじゃないですよ……言い出すタイミングが無くって。」
気になってた……?私が……焔……を?
戸惑う私の手を握ると、フユキはアニメでも見た事も無い静かな笑みを浮かべながら、
「でも、きっと俺が一番リリア様の事好きです。ね……だから……俺とずっと一緒に居ましょ?」
と言った。
これって……告……白?
あのアニメでも恋愛と無縁だったホワイトが?
フユキの言う「一緒にいる」の意味は単純じゃない、
軽い気持ちで了承したつもりが家まで付いて来たくらいだ、それが「ずっと」なんて強調までされるのならきっと……
その意味は人生単位にまで及ぶのだろう。
勝手に、フユキは恋愛感情など抱かないタイプの人間なんだと思っていた。
「い、色々急すぎて付いて行けないわ……!
今までと同じ距離感じゃ駄目?ただでさえ婚約の事とかで私、混乱してて。」
「勿論!リリア様がしんどいならそれでもいいですよ!でも絶体絶対、最後は俺が一番いいってきっと言うと思います。
俺、リリア様が好きな気持ちじゃ誰にも負けませんから!」
フユキの、いつもの無邪気な笑みを見て何処か安心する自分がいる。
本当にこれで良かったのか……?
告白してくれた男子に対して、こんな対応……
そんな考えで頭をいっぱいにしていると、雨が上がり駅に到着した。
「あ!良かったー、あがりましたね!
リリア様、最近顔色がずっと悪いですけど大丈夫ですか?」
「え……ああうん、大丈夫よ!送ってくれてありがとう。」
もうあれをする必要も無くなったのだろうか。
私はフユキを見送ると、不安や葛藤を押し殺して電車に乗り込んだ。