引き抜き
「あの……あの!今日の戦闘見てました!とってもかっこよかったです。
えっと、グリーンさんはすっごく強いのに何でコズミック5を辞めちゃうんですか?」
グリーンはカメラがいない事を確認するように周りを見渡すと
「移動しながら話すわ」
と言ってヒーロースーツの変身を解いた。
その姿はどこにでもいるような綺麗なママさんという感じで、思わず驚いてしまう。
「ふふ、普通のおばちゃんでびっくりした?」
「ああ、いえ……!」
「私、もう20年以上ヒーローやってるのよ。
勿論ずっとコズミック5だったわけじゃなくて、色んな場所を転々としてたの」
ヒーローを20年……!?強い訳だ。
「私は見ての通り、全然現役で頑張れるんだけどね?一番上の娘が『もう無理しないで』って毎日言ってくるもんだから……
それで代わりに娘がコズミックグリーンになるって張り切ってたんだけど、双星の優秀な子に試験で負けちゃったらしいの。
それで後任があのイケメン君に決まったって訳。」
なるほど……特にヒーロー本部と揉めたとか、そんな事情ではないようだ。
「でもねえ、それだけでもないのよ。あなた焔ちゃんのお友達なんでしょ?
何か気にされてた感じだったし、悪い子じゃないと思うのよね!
だから内緒の話してもいい?」
「!き、聞きたい!聞かせて!」
「最近、本部からの指令が過激なの……『異星人を殺しても構わない』とかね。
私達は比較的温厚にやってるけど……他はそうでもないみたい。
まだ末っ子が10歳なのよ。異星人であれ何であれ、そういう事があったなんて知られたくないし……やりたくないわ。
イエローちゃんも同じ理由で辞めようか考えてるらしいわ。」
イエローも……
「何で焔の友達ってだけでそんな重要な情報を教えてくれるの……?」
「私ねえ、人の親だから……焔ちゃんのこと見てると心配で仕方ないのよ。『俺は大人びてて強いです』みたいな顔してるけど、どんなに凄くたってまだ子供だもの。
……それに彼の家庭環境も……私ブルーちゃんやピンクちゃんみたいに勇敢じゃないから、他所の家に口出しとかは出来ないけど、普通じゃないとは思っているわ。」
「事情は何となく……知ってる。」
「焔ちゃんがあんなに素を見せても平気な相手って、私仲間以外で始めて見たのよ。
あの白い子とあなたで……焔ちゃんを守ってあげて欲しい。
彼がもし、道を違えそうになったら、その時は」
グリーンはそう言って真っ直ぐ私を見る。
焔はいろんな人間に心配されているようだ。
私は焔の傍にいることを許されているのだ、
守りたい、それに……
「ね、ねえグリーンさん!ヒーロー本部よりちゃんとした正義のある場所があったら、あなたはその場所に移りたいと思う!?」
「え……?うーん、今は無理よ。私って義理堅いの!お世話になった場所を裏切ってまで
どうのこうのって言うのは難しいわ。」
20年ヒーロー本部にいるのだ、そう簡単には行かないか。
「でもそんな場所が出来たらきっと、ブルーちゃんとかは入りたがるかもね。
彼も今の体制に満足していないようだから」
ブルーが?イエローとグリーンだけではなかったのか。
「あ、あのバスに乗らなくちゃいけないの!またね、お姉さん。」
グリーンはそう言うと私に名刺を押し付けてバスを追いかけていった。
グリーンを見送った途端、携帯がせわしく鳴り出す。
焔から……!?
事務所に急いで向かうと、焔は若干メラメラと燃えながら
「今日も怪我したのになあ。勝手にどっか行くなんて……」
と言ってむくれている。
「レッド先生子供みたいです、お姉ちゃんと離れられない弟的な!」
ホワイトのノンデリ発言で、焔の炎はさらに大きくなる。
「ご、ごめんね!……薬は塗って貰った?」
「もう湿布したよー!包帯も巻いたし!
でも……ふふ、リリアちゃまに冷やして欲しかったんだって!」
ピンクの巻いた包帯、まるでプロの看護師が巻いたみたいだ。
アニメではそんな描写無かったのに、こちらではやけに手当が上手い。
私はピンクに一切干渉していないのにどうして……
私はピンクの事を考えながらも焔の包帯の上から冷気を当てる。
「やっぱりこれ痛くなくなっていいな……」
最近適切な処置を受けるようになったからか、火傷跡は殆ど消えかかっているものばかりだ。
後はしつこそうな跡が消えてくれれば……しかし、それらは深いし一生残るのかもしれない。
……あれ?腕に大きな痣がある。
「ねえほむ……レッド、この傷って何?」
「ああ、敵に殴られた時に出来たんだよ。
別に気にしなくっていいから!俺最近リリアに手当して貰えるようになって能力使うの楽しみになって来たんだー」
楽しみって……状況が悪化していないだろうか?
「前も言ったけど傷が出来ないように気を付けなさいよね!」
「解ってるって」
「あ!ねえ焔君!そう言えばさっき事務の人が資料に不備があったって騒いでたよー?」
「え!?本当!?完璧だと思ったのに……ちょっと確認してくる!」
焔はそう言って医務室を出る。
ピンクは微笑みながら彼が廊下の奥に走って行った事を確認すると、ドアを締め、鍵をかけた。
……どうして鍵を……
「焔君、リリアちゃまのこと本当に大好きだよね。微笑ましいなあー」
「だ、大好きなんてそんな……!」
私は顔を赤くしながら首を振る。
レッドは私の能力を欲してるだけだ、それ以上の感情などあるわけがない。
「俺から見てもわかります、レッド先生って本当にリリア様のこと気に入ってますよね!」
フユキが笑顔で言い放つ。
「うんうん、本当に尊い……尊かったんだけどね……」
「も、もうからかわないでよ2人とも!」
「で?いつ裏切る気なの?」
ピンクのその言葉に、私は真顔になる。
何……て、言ったの……?今……
「とぼけるのもうやめにしようぜ、内通者さん。」
ピンクは冷酷に言い放つと私たちに銃を構えた。
私もフユキも状況が呑み込めず硬直してしまう。
「えっと……ピンクさん……何のつもりって……はは、銃なんか構えて冗談やめてよ。」
「それはこっちのセリフ……なあリリア、あんた『ブラックホール団』の団員なんだろ?」
ピンクは冷たい表情でそう言い放った。
10万字行ったみたいなのでまた1日1更新に戻ります!
休日は2度更新するのと、
夏休み期間私が暇なので更新多めになると思います