決闘
私は言われた事への理解が追い付かず混乱する。
え……結婚?結婚と言われたのだろうか?
「あんたグレイシャ家の後継なんだろ?
俺と結婚して財産分けてくれよ、開発費が足りねぇんだ。」
そうか、この男は確かアニメ序盤で変な機械ばかり作って、後半では兵器を作っていたメカニック……!
開発費欲しさに結婚を申し出て来るとは、なんてクズな男なのだ。
「何で私があなたなんかと……!」
「いいのかなー……ユウヤのこと、今二人に伝えてもいいんだぜ。」
シノが2人に聞こえないぐらいの声量で私にそう囁く。
「!」
ま、まずい…!それは凄くまずい!
変だとは思っていたのだ、盗み聞きしてた癖にどうして緑川のことを告げ口しなかったのだろうと……
私を強請る為だったのか!
「あったり~」
どうすればいい……?
私が中途半端に内緒にしたせいで取り返しのつかない事態になってしまった……!
「ちょっと!リリアはまだ14歳だよ、結婚なんかできない。
できるのは婚約だけ。」
ウリュウがため息交じりに言う。
一応助けてくれているみたいだ。
「じゃあ婚約しようぜ!そんで開発費を毎月振り込んでくれよ!
老後はヒモになれて最高じゃあん!」
絶対に嫌だ!こんな性格の悪い奴と結婚するくらいなら死んだ方がましだろう。
しかし緑川のことを今言われるのは困る。
ウリュウはなんとか解ってくれるにしても、ミカゲに知られるのはバツが悪い。
「受け流していいんですよ、リリア様」
「俺も受け流してくれて構わねーけどよ?
自分の立場くらい解ってるよなあ。」
いやらしい笑みでシノが笑う。万事休すか……!
「解ったわ!婚約……あくまで婚約なら……!了承する……」
「リリア様!?なぜそのような……!」
後で破棄でも何でもしてやればいい、こんなのはただの口約束なのだから。
「やったね、記者会見開かねえとな!
あとはボスに報告しにいくだろー、そんでグレイシャの当主にも挨拶しねえとな。」
「はあ!?何でそんな話になるのよ」
「君の家柄だとそのくらい大事になるんだよ。
誰にも悟られず男性とお付き合いなんて難しい。」
ウリュウが興味無さそうに言う。
嘘だ、外堀りまで埋められたら詰み……一生シノに食い物にされて終わる!
私が青い顔をしていると、シノの顔に手袋が投げつけられる。
投げつけたのは……ミカゲのようだった。
「名家の誇り高き令嬢に対しての非礼の数々……我慢の限界だ、君に決闘を申し込む。
どうせこの婚約もリリア様の心を読んで強迫の末結んだのだろう?俺が勝ったらこの婚約は私が結ぶ事にさせて貰う。」
……ん?あれ……それってどっちにしろミカゲと婚約するって話……?
何で!?
「待ってよミカゲ君!何で君がこんなちんちくりんと結婚するとかそんな話になる訳!?
僕より10倍は顔のいい女じゃなきゃ付き合うなって言っただろ!?」
ウリュウはウリュウで何を無茶なことを言っているのか。
「リリア様は家柄的にもその立場を狙われやすい……
今後幹部会議等で顔を出す度こういった輩が出てくることは明白。
先手を打って俺が彼女の立場を守って差し上げたいと、そう考えただけだ。」
ミカゲ……いや、ミカゲさん!なんて良い人なのだろう!
悪人面とひねくれ者しかいないブラックホール団においてナギに次ぐ聖なる光だ……!
こんな人が闇堕ちなんて、何かの間違いなのではないだろうか?
「やだやだやだーっ!リリアなんてどうせ成長したってロリ顔ちんちくりんにしかなんないよ!?色気とかほぼ0だって!」
痛いとこを突いてくれる。
確かに3年後もリリアは歳の割に幼い見た目をしていたが、まだ17歳だったしあと数年生きてればナイスバディになっていた可能性もあったはずだ。
「ウリュウ、失礼なことを言っちゃいけないよ。
それはそれで若々しくて好ましいと捉えるべきだ。」
「じゃあ僕も二人に決闘する!勝ったらリリアは僕の婚約者ね!
ミカゲ君の婚約者になるくらいなら僕がこいつと婚約してやる!」
「……ヒュッ」
ナギの気持ちが解った、見たくないものを見た時は声が出ないのだ。
ウリュウの婚約者なんて世界で一番不幸な立場の人間に違いない。
理由も「ミカゲと婚約して欲しくないから」って……愛がないにも程がある!
「嫌よ!ミカゲさんはともかくウリュウまで……今の言葉取り消しなさい!」
私は焦って彼の胸ぐらを掴んで揺するが、シノがニヤっと笑い
「今の一連の流れ、配信してたから無理だな」
と言ってスマートフォンを見せて来た。
配……信……?
【謎の女性を巡り幹部や幹部補佐が決闘!】
【時期大幹部とも名高い3名が取り合う女性、その正体とは!?】
私は空き教室でネットニュースを見て頭を抱える。
「うわああぁ!私の人生終わった!」
「でも良かったね、まだ若いって事で実名報道されなくて。配信にも顔までは映って無いし……すぐにリリアのお父上が消したらしいよ。」
ナギは私の背中をさすりながら言う。
「そこは良かったけど……!ミカゲさん以外に決まったら私の人生終了じゃない……!ナギ、何とかできない?」
「俺は……今はあの面子に勝てる自信ないけど、リリアが結婚できる歳になる頃には強くなってるから!
絶対婚約なんかさせないよ、約束する。」
ああ、ブラックはなんて頼れるのだろう。
これでこそ私のヒーローだ。
「ねえ!その話俺にも聞かせて下さい!」
突如、ロッカーから出て来たフユキに私とナギは驚愕する。
「ぎゃっ……!いつからいたのよ!場合によっちゃそこで全部聞いてたでしょ!?」
「いえ、寝てたので聞きそびれました!
だって酷いんですよ~?レッド先生、俺だけすっごいハードなメニューにしてくるんです。
今日も教室で寝てたら『まだ元気そう』って言って走り込みさせられたんですから。」
ホワイトとレッドが話してる所はあまり見かけなかったが、師弟関係らしきものは既にフラグが立ち始めているようだ。
良かった、これならフユキもヒーローを嫌いにならずに済むかもしれない。
「リリアを巡って3人の男が婚約を申し込んで……大事になったんだよ。」
「えー!?何でそんな事になっちゃったんですか!?
リリア様ってばまた変な事に首突っ込もうとしたんでしょ。」
「今回は違うわよ……!私だって困惑してるんだから!」
「でも大丈夫かなあ、ゆかり君もリリア様と変な感じになってませんでしたっけ?
そろそろきっぱり振ってやらないと余計面倒なことになりますよ。」
「まっさかあー……!こっちじゃ縁と何かあったって取り合うような人がいないもの!」
「マジで言ってます?いるじゃないですかすぐ隣に」
「フユキくーん!?放課後だし美味しいパフェでも食べに行こうぜー……!
リリアも早くレッドのとこ行った方が良いんじゃない?」
フユキが何か言いかけると、ナギがそれを大声で遮りそう促す。
「え!?何で知って……」
「そりゃ見てれば解るよ、手伝ってるんだろ?
狙いは解んないけどさ、頑張ってな!」
ナギはフユキを羽交い絞めにしながらにっこり笑う。
なんか照れ臭いけど……結局バレていたようだ。
今回の事でも思ったが、私はあまり隠し事が得意ではないし、ナギには隠しごとは無しにしよう。
そう心に誓って教室を出た。