幹部補佐会議
「こ、こんにちは~……あの私、実は少々記憶が曖昧でして……」
「ああ、そう言えば……その旨、事前にウリュウから説明を受けていたのでした。
失礼……リリア様、どうぞ私の隣に座って下さい。」
「まって!」
凄い気迫でウリュウが止めに入る。
いつもニヤニヤしてて気味の悪いウリュウがこんな真剣な顔を……!
まさか、そんなに私の事が……?
「ミカゲ君、僕のことが目に入ってない訳じゃないよね?」
……ん?
「入ってますとも、相変らずお麗しい。」
「じゃあ僕にも手にキスしなさいよ!」
ウリュウはそうミカゲに言い放つ。
あれ……私……じゃ……ない!?
「……失礼、これでよろしいか、では席に着いて頂いて……」
「ミカゲ君の隣は勿論僕だよ!?リリアなんてぺーぺーは適当に端っこにでも座らせておきなってー!」
何なのだこの男、ミカゲに異様に懐いている?
ミカゲ君に色目使ったら殺すと言ったのは……ミカゲが好きだから言っていたのか!?
「あの……お二人はどういうご関係で……?」
私は引きつった笑みで尋ねる。
「腐れ縁です」
ミカゲは落ち着いた様子で言い放つ。
「違うよ~!もっと色々あるでしょ?同じ学校に通っててぇ、ミカゲ君は1番しか取ったことなかった僕に初めて成績も実技も勝ったことのある初めてのライバル……
家柄だけは勝てなかったから幹部は僕が先になっちゃったけど?それはそれは深い仲なんだから……」
要するに優秀過ぎるがあまり厄介な奴に好かれてしまったということか。
「勝手に付き纏われているだけで迷惑しているのですが。」
「心中お察しします……ミカゲさん。」
悪者だと思っていたが、これは同情の余地がある。
「君がグレイシャ家のご令嬢か」
「可愛いー!」
「氷の魔法見たいです!」
ミカゲに続き、見覚えのある幹部補佐達がどんどん私を囲んで話しかけて来る。
今まで無視されていた分、こんなに関心を持たれるのはちょっと嬉しいかもしれない。
あそこで寝ているのは……あの特徴的な赤髪、大幹部になる「シノ」だっただろうか?
見るからに不真面目そうなのが未来の大幹部とは、誰がどうなるかわからないものだ……
「ほら、皆さん……リリア様が可憐だからってそんなに囲んでは失礼でしょう、席に着いて下さい。」
ミカゲに言われ全員が席に着く、
この時点でここを取りまとめてるのは彼の様だ。
ウリュウと違って人望もありそうだし、ボスになるのも納得できる。
しかし、ミカゲは地球人を殲滅するという目標を掲げていた男、気を許してはいけない。
「今日って何話す予定なの?」
ウリュウがミカゲの隣に座り訪ねる。
そこは私が座るように言われた席なのだが……。
まあいい、シノの隣が空いているし、いつ起きるか見ていてやろう。
「今日は妙な異星人組織の事を話したかったのですが……そういえばウリュウ様、緑川君のことについては何か解ったのですか?」
「僕は何も知らないよ、どうなのリリア?」
まずい、今突っ込まれると都合が悪い。
「わ、私も何も知らない……成果は出てないわ。」
私は目を逸らしながら言う。
今緑川が「報告も無しにヒーローになろうとしてる」なんてバレたら大変なことになる。
夢で見たような事態にもなりかねない。
「そうですか、残念だ」
ミカゲは肩を落としながら言う。
「そういうことだから妙な異星人組織の話聞かせてよ。」
「ヒーローに住居を奪還された異星人達が徒党を組んで『ネメシス』なる組織を作っていると情報が……」
ネメシス!夢で出て来た名前だわ!
双星を襲ったっていう……!
「おや、何か知っているんですかリリア様」
「えっ……」
私はウリュウの方を見る。
夢の事をここで相談できたらいいのに、ウリュウとの距離が開いている。
意地を張らず、近くに座っておけばよかった。
「『ネメシス』が双星の事襲撃しようとしてるんだとよ」
刹那、私は何が起こったか理解できず、隣の席に座っていた男の顔を見る。
「どうしたリリア様?寝起きでもイケメンすぎる俺っちに惚れそう?」
男はそう言って頬杖を付きながら嫌味な笑いを浮かべた。
シノ……!?なぜ彼は『ネメシス』が双星を襲撃しようとしてることを知っているのだろう。
「何ですか?シノ君……ソースの不明な情報を垂れ流すのはやめなさい」
「不明じゃねえ、リリア様の考えてたことだぜ。グレイシャ家のご令嬢を疑うのかよ。」
……こいつ……私の心が読めるの!?
「読めるよーん。というより……聞こえるって感じかな?」
「ちょっと、勝手に聞かないで!プライバシーの侵害よ!」
「そりゃ失礼、嫌でも聞こえるもんでね」
しまった、下手なことを考えられなくなってしまったではないか。
ウリュウめ、こんな男が会議に出るなら席くらい気を使っておいてくれてもいいものを。
「あ、今リリアが何考えてるかは僕にも解るや……ごめんごめん、シノ君が起きてるのって珍しいからさ。
……それでリリア、『ネメシス』が双星を襲撃するって本当?」
「ええ、恐らくだけど……来月にある双星の創立15年を祝したイベントを襲撃するはず。」
そこでリリアとレッドは戦って……いや、考えたくもない。
「流石リリア様、どこで知ったか解りませんが情報が早い!
一応こちらでも裏を取っておきましょう。もしその情報が本物なら………彼等に助太刀するのも手かも知れません。」
まずい、話が急に進んでしまった。
そんな事をしたらヒーロー側とこちらの関係は修復不可能になる、そしたらこの組織は……破滅……!
「助太刀するとこの組織が破滅するっt」
私は焦ってシノの口を塞ぐ。
「黙りなさい!貴方何なのいちいち鬱陶しいわね!」
「お褒め頂きありがとう」
褒めてない、この組織ってこんな嫌味な奴しかいないのだろうか。
「破滅?どういうことですかリリア様……」
どんどん墓穴を掘ってしまっている気がする。
それもこれも全てウリュウのせいだ。
責任を取ってもらおうか!
「……仕方ないな」
ウリュウは一息吐くとこちらに歩いて来て軽く机を叩く。
「リリアには氷の能力の他に予知能力みたいな物あるんだよ、君と同じ能力が2つある人間がいたって不思議じゃないだろ、シノ。
でも盗み聞きは感心しないね……楽しんでるだろ、君。」
ウリュウはそう言ってシノを睨んだ。
初めてウリュウが上司らしい事をしてくれた気がしする。
「そりゃ失礼、でも組織の破滅が絡んでるのに黙ってんのってどうなの?何もしないで滅び行くのを見てるだけってそれ、裏切り者とやってる事変わんねーじゃん。」
シノはそう言って私を見た後に
「ウリュウ様にも内緒にしてる事があるようだし?」
と私の耳元で囁く。
それって……!緑川のこと!?
この男、寝たふりをして聞いてたのか……!