強く産まれた者の定め
「私、ヒーロー本部で嫌なヒーローに会ったの!偉そうで、自分の権力振りかざして、弱いものいじめするような奴に……
全員が全員そんなんじゃない事は知ってる!……でも……その、友達に聞いたんだ、結構そういう人が多いって……焔はどう思ってる?」
顔色を伺うように、レッドの顔を覗き込む。
「もしかして、今日したかったのってそんな話?」
私は思わずギクリと体を震わせる。
バレている……それに焔はすこし落胆しているようだ。
遊びに誘われてまでこんな話をされればそんな反応になるのも無理はない。
「良くは……思ってないよ、勿論。
というか最近のヒーロー本部は……少し様子が変だと思う。ヒーローを命を守る人間って言うよりコンテンツとして見てる感じ。
コズミック5はまだ大丈夫だけど、その内ブルーさんが辞めさせられるんじゃないかって噂もあるし……
これ、俺が言ったってこと内緒ね!」
ブルーは渋くていい人なのに、そんな話が出ているとは。
……そういえば、ブルーはアニメのレッドとも似た部分があるように思えた。
きっと焔はブルーをお手本にしてヒーローを頑張ってきたのだろう。
「そう……あの……さ、焔ってどうしてヒーローやってるの?あんな怪我までして」
「俺が世界を守れるくらい強いから」
「……それだけ?」
「強く産まれた者の定めってやつ!母さんもそう言ってた!」
あの母親の言葉はあまり真に受けないで欲しいのだが……
「……なんて嘘、本当はね、最初にオファー来てたのは俺じゃなかったんだ。」
「そうなの?」
「俺の双子の弟……凛太朗って言うんだけど、能力がすごく強いからオファーが沢山来てさ……でも凛太朗は怖がりだからストレスだったみたいで、それで俺が『代わりにヒーローになるから凛太朗にオファーしに来るな』って言ったんだ!かっけー兄ちゃんでしょ?」
……ん?凛太朗……?
「もしかして弟さんの能力って……水を操るとかそんな感じの能力?」
「あれ、正解!何で知ってんの?」
それって……それって……コズミックブルーじゃないか!?
双子でヒーローをやっていたとは……苗字も違うから気づかなかった。
そう言えばやけにレッドとブルーは仲が良かった。
レッドのブルー愛が重いって一部界隈で盛り上がっていたが、こんなところで答え合わせすることになるとは思わなかった。
どれだけ巧妙に個人情報を隠してたんだ、この男……!
それに、アニメの通りならレッドの頑張りは無駄になってしまったのではないだろうか?
結局「青木凛太郎」はコズミック7に入っていたのだから。
しかし、やはりこの人は何処までも正義の人のようだ。
きっかけからずっと、この人は誰かを守る存在であり続けている。
……いや、死ぬ間際までホワイトを守り抜いた本物のヒーローだ。
この人なら、異星人のことも理解してくれるかもしれない。
「焔、あのね」
言いかけたところで、焔の携帯が鳴る。
「あー……母さんだ。中々帰ってこないから怪しんだみたい、もう帰るね。」
焔はそう言って残念そうに携帯を鞄にしまう。
「これからはこういうの、やめておこう。リリアが母さんに敵視されたりしたら可哀想だし。」
焔はそう言ってにっこりと微笑む。
授業の時に見る、「大人みたいな笑顔」だ。
……少し……距離が出来たような……
色々聞かれるのが嫌だったのだろうか?
アニメでも焔は自分語り等が好きではなさそうだった。
しかし、嫌な予感がする。
今焔を帰してしまえば、もう二度と相手にされないような、そんな予感。
「焔!まだ料金分歌ってないじゃない!勿体ないしまだ歌いましょう?」
私は立ち上がろうとする焔の手を掴み、言う。
「いや、でも怒られちゃうし、俺料金払っとくからリリアは歌ってなよ。」
「帰ったら私が怒るわよ!氷漬けにしてやるんだから!」
「ええ……?」
焔は困った様子で私を何度か見る。
「もうちょっとだけ……そうだ!焔の家まで私ついていくわ!一緒にお母さんに謝ってあげる。」
「い、いいよ……!母さんあんまり俺を女子に近付けたがらないんだ、昨日もピンクとは仲良くしすぎるなって言われたとこで……」
私は何を焦っているのだろう?
帰ったら焔が死ぬ訳でも無いのに。
……でも
もう遊びに行けなくなってしまったら、いつ焔と呼べばいいのだろう。
もしかしたら、焔の私への好感度が高いのではなく、私が焔を好きになっていたのかもしれない。
エリヤから私を守ってくれたあの日から……
この人の事を考える時間が増えた気がする。
せっかくここまで仲良くなれたのに、ここで元の距離戻るのが……怖い。
「な、何でもするから……!帰らないで……!」
私は咄嗟にその言葉を発すると彼を見る。
………おっっっっも!
恥ずかしい、これでは必死に言い寄ってるみたいじゃないか!
私はどうして言葉を選ぶのが下手なのだろう。
よりにもよって……こんな……!
こんな奴、きっと嫌われたに違いない。
もう焔の顔が見れなくなってしまった。
私は顔も上げないまま、掴んでいた手を離す。
「ごめんなさい……いいわよ、帰って……」
私が言うと焔は立ち上がり、何も言わず部屋を出ていった。