監視
「ゆかりが……?な、なんで!?あいつはエリヤさんの裏任務にだって関与してないし、消される理由がないだろ……!」
凛太郎は「黄瀬ゆかり」の名前を聞いて焦ったように声を上げる。
「あ、ああいえだから……!多分本人が悪さをしたとか何かを知ってしまったとかじゃ多分ないんです!
憶測ですけど、「怪人にしたいヒーロー」を弱らせる為に必要な人選……なのかなって。」
珍しく熱の高い凛太郎をなだめるように灰原が言うと、凛太郎は少し冷静になった後で「ごめん」と呟いた。
(ゆかりがいなくなって困るメンバーなんていすぎて特定できない……兄ちゃんは助手として頼りにしてるし、ナギともプライベートで遊ぶ仲で……いや、一人だけ明確にダメージを受けるメンバーがいるな。)
「……同じく憶測だけど、そいつらが「怪人にしたいヒーロー」って……多分フユキだと思う。」
凛太郎は少し考えた後でそう口にする。
「え……ホワイトさん!?確かに強いけど……コズミック7のエースと言えばレッド隊長かブラックさんなんじゃ……」
「人をまとめる資質とか考えたらそこだろうけど……単純な戦闘力でいったらフユキはまだ伸びしろがある。
俺でもあの子がどこまで強くなるのかは想像がつかないくらいには。」
凛太郎が答えると、灰原は少し考えた後で
「確かに能力からして底の見えなさはありますよね。」
と返した。
「その精神的な支柱を壊そうとしてるとか、その可能性はないかな?だからゆかりが狙われた。」
「有り得ない話じゃないと思います。」
凛太郎の推理に、灰原は冷静に肯定する。
「……その討伐っていつの予定?妨害しよう、ワンチャン時期がわかってるならゆかりに予告してもいい。」
「すみません、まだ時期までは……恐らく近い時期に決行しようとしてることだけはわかるんですけど。」
灰原が申し訳なさそうに言うと、凛太郎は「そっか……」と小声で呟く。
「でも予告はまだしない方がいいと思います。
まだ相手が情報を隠し持ってる以上、裏をかかれて標的を変えられたりしたら逆に危険だ。」
凛太郎は灰原の言葉に納得したように頷き「時期がわかったら教えて」と言い放った。
「……じゃあ、今日は解散ですかね。」
灰原がそう言ったところで、凛太郎は少し黙り込むと、灰原の顔をただじっと見る。
「え、な……なんですか?俺あんまり女の子以外に見られたくなくて……」
そう意見する灰原の顔を掴むと、凛太郎は「灰原君、最近ちゃんと食べてる?」と尋ねた。
「え……ああ……えっと。」
言い淀む灰原を見て、凛太郎は「これから美味しいもんでも食べに行こうか」と提案する。
あまりに唐突な提案に、灰原は目を瞬かせた。
「どうしたんですか急に?」
「いやなんか顔色悪いから心配になってさ。頑張ってるし労ってみようかなと。俺たち仲間な訳じゃん?」
凛太郎の発した「仲間」と言うワードを聞いて灰原は目線を落としながら
「……ヒーローにもなれなかった俺がブルーさんと仲間なんて……」と言う。
凛太郎はその姿がまるで先刻ゆかりと話していた自分を見ていたようで、少し可笑しくなってしまう。
「あ!何笑ってるんですか!?」
「……いやごめんごめん、デジャブで……俺たち確かに仲間だよ、ヒーローになれなかった仲間。
ほら、俺の気が変わらない内に何が食べたいか教えて。肉?魚?」
凛太郎が尋ねると、灰原は小さく「……お寿司食べたいです。」と答える。
そして一緒に部屋を出る時、灰原が(俺みたいな奴がブルーさんと仲間でいいんだ。)と思いながら少し微笑んでいたことに凛太郎は全く気付いていなかったのだった。
★ ★ ★ ★
凛太郎と灰原が話している頃、リリアはヒーロー本部の会議室にてフユキと合流した。
「フユキ!」
白い髪が目に入り嬉々として呼びかけると、その奥には黒い髪の青年が座っている。
「うわっ……」
思わずリリアが声を上げると、ナギは意地悪な笑みを浮かべながら
「あ、俺がかっこよすぎるあまり倒れちゃった人だ」と口にした。
「え?なんですかそれ?」
フユキが尋ねると、ナギが「あのなー?」と言いかけたところでリリアが止めに入る。
「あーあー!なんでもないの、今朝ちょっと私が貧血で倒れちゃって……!」
「え?そうなんですか?心配です……」
リリアは眉を下げるフユキの奥でニヤついているナギを睨むと、
「で……話があったんでしょ?どうしたの?」と切り出す。
そしてそれにフユキが答えようとした所でふいにナギが「エリヤさんって本当に素敵だよな、欠点がない。」と声をあげた。
「……は?」
「あの……ナギ君、もしかしてまだ……」
フユキとリリアが困惑していると、ナギはやけに大きな声で
「みんな集まったことだし、カラオケでエリヤさんを賛美する歌でも歌おうぜ!」
と言って立ち上がる。
フユキとリリアは顔を見合せつつ、ナギの後をしぶしぶついて行った。
……
カラオケについたところで、ナギが部屋の扉を閉めると深く息を吐く。
「ね、ねえナギ?様子がおかしかったけど大丈夫?」
リリアが尋ねると、ナギはリリアの隣に座ろうとしていたフユキを軽く押すと、当然といった表情で彼女の隣に座り
「あんまり事務所で謀反の話とかしない方がいい。
あらゆるとこに耳があるって思いながら慎重に動くことをおすすめする。」
と一言呟いた。
「え……あらゆるとこにってそんな……」
そこでリリアはハッとする。
凛太郎も事務所では自分に素っ気なかったことを思い出し、ナギの言葉もあながち嘘ではないのだと言いかけた言葉を飲み込んだ。
「あー……えっと、それで話って?」
リリアがそう切り出すと、フユキは「そうでした!」と呟いた後
「なんと!今日からナギ君が『エリヤさんの悪事暴き隊』に参加することになったんです!」
と明るい笑みで言う。
(このチーム、そんな名前だったんだ……)
ナギとリリアは心の中でそう呟きつつ、顔を見合せて少し微笑んだ。
「あれ?驚かないんですね、リリア様……」
「まあね、ナギならその内こっちの味方になるだろうなーって思ってたし?」
リリアがどこか得意気に言うと、ナギは少し耳を赤くして「わかったような態度取られるのって嫌い」と顔をしかめた。
「なんかずるいなー、ナギ君……俺もリリア様に理解者面されたいです。」
フユキが口を尖らせながら言うと、リリアは「もうそれは再会直後に沢山やったでしょうが」とつっこみを入れる。
「んで?これからどうすんだよ、エリヤさんのことを調べる感じ?」
ナギが頬杖を付きながらフユキに尋ねると、フユキは少し上を見ながら
「えっと……まず灰原君の証言が本当か否かの確認からです。
ナギ君もそれの裏が取れなきゃ手を貸さないってことでしたし……」
と呟く。
「なら、シノに話を付けるのが最優先ね。……事務所で詳細を話す訳にもいかないし、今声をかけましょうか?もしかしたら来てくれるかもしれないわ。」
フユキはその言葉に「本当ですか!?お願いします!」と反応する。
リリアはスマートフォンの画面に目を落とし
【シノ、今事務所近くのカラオケにいるんだけど……いちごパフェを奢るから今から話せないかしら?】と打ち込むと、
程なくして既読が付き【行く】とだけ返事が来た。
「良かった、来てくれるって!」
リリア達がポテトなどを食べて待っていると、ふいに扉が開いて赤髪の男が顔を覗かせる。
そしてフユキとナギを見て眉間に皺を寄せると、そっと扉を閉めた。
「……リリア?なんか帰っちゃったっぽいけど……」
ナギが冷静に言うと、リリアは大きな声で
「なんでよ!?」
と口にしたのだった。




