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「何……言ってんの、リリア。出会い頭に言うことじゃないでしょそれ。」


少し苦笑いしながら凛太郎がそう答える。

確固たる証拠がある訳ではないが……まず大前提として怪人化チップのことを知っている人物じゃなければ名乗り出ることはできないし、ロクタと親しいならそのハードルは下がる。


……何より、以前から笑顔の下から浮き出るファンデーションで隠された隈や少し荒れた毛先などに、凛太郎の自暴自棄さを感じていたのだ。


怪人化チップを知っている人物の中で、最も被検体に名乗り出そうな存在。

それが凛太郎だった。


「いいえ。いつとか関係ないわ、大事なことよ。

答えて、被検体に名乗り出たのはあなたなの?」


「違うよ……って答えても、リリアはどうせ『女の勘』とやらで嘘って決めつけるんでしょ?

好きに解釈したらいいじゃん。」


凛太郎が言い切った後で、私たちは睨み合う。

一触即発の空気が漂いだした頃、「はいストップ、そこで終わりな。」と言ってゆかりが間に入ってきた。


「ゆかり……!今大事な話をしてて……!」


「わかるよ、でも今明確に敵がいて皆でなんとかしようぜって団結しようとしてる時に味方と揉めてどーすんの。

リリアからしたら凛太郎って仲間なんじゃないの?」


ゆかりに言われ、私は俯く。

凛太郎は皆が私を忘れている中、唯一裏でバックアップしてくれた人だ。

勿論信じたいが、彼の自分を顧みない態度を見ていると、少し心にモヤつきが残る。


「……そうよ。でも、凛太郎には隠し事が多すぎる気がするの。

ちょっとくらい話してくれたって……」


「仲間だから何でも話さなきゃいけないの?凛太郎には凛太郎の事情があんだから、こいつが準備出来てない時に話してって言うのも酷だろ。」


――正論だ、ゆかりが正しい。

私は凛太郎の顔を見ると「ごめんなさい、失礼なこと言って」と謝罪した。


「……いいよ。それよりほら、フユ吉の件忘れてね?早く行けって。」


凛太郎に言われ、私はゆかりにも一言断るとその場を後にした。


……


★ ★ ★ ★


凛太郎とゆかりの2人はリリアを見送ると、少し気まずそうにお互いを見やる。


「ありがとね、フォローしてくれて……でも別に良かったのに。ゆかりだって俺のことあんまり良く思ってないんだろ?」


凛太郎が暗い笑顔で言うと、ゆかりはため息を吐いてから腕を組んだ。


「まあそうだけど、リリアも俺も別にお前を敵だとは思ってないんだって。心配してんだよ。

何企んでるんだか知らないけど、一人で突っ走って気付いたら命を落としてましたなんて誰も望んでない最悪の結末だぜ、わかってんの?」


「……俺なんか心配するだけ無駄だって。

嘘つきで、弱くて、今まで兄ちゃんに守られて幸せにここまで生きてきた癖に……幸せになってく皆に嫉妬して。

……俺なんかヒーローじゃないんだ、だから……あんたらの仲間なんかじゃ……ないんだよ。」


凛太郎は言いながら自分の左腕ギュッと掴み、握る。


「……何も知らずに幸せに生きてきたから、今度は自分が何も知られずに皆を助けようって?」


ゆかりは冷静な眼差しを向けながら凛太郎に尋ねる。

凛太郎はただ目を伏せながら、

「……助けようとか、そんな上から皆のこと見てないから。」

と、消え入りそうな声で呟く。


「嫉妬するくらいならこっちに来いよ、フユキもきっと喜ぶぜ?

お前が何してきたとか知らんけども、今なら絶対引き返せる。」


ゆかりの言葉に少し顔を上げるも、凛太郎はまた躊躇うように俯く。


「……できない。俺はエリヤちゃんのそばに居るし、裏切る気も……」


言いかけた所で、ゆかりが「お前はさ、隊長を見てきてどう思ってたわけ。」と口にする。


「え……」


「毎日火傷だらけで帰ってきて、無理してる隊長を見てどう思ってたんだよ。

……相談してくれたらいいのにって……思ってたんじゃねぇの。」


凛太郎は図星を突かれ押し黙る。


「お前の周りにはこんだけヒーローがいんだぜ?助けを求めろよ。

一緒に解決しよう、凛太郎が何と言おうと……俺はお前のこと仲間だと思ってるから。」


ゆかりが口にした言葉を聞いて、凛太郎の目が少し潤む。

そして少し間を置いた後で

「違うんだって……ゆかりみたいな本物のヒーローと……俺は……!」

と呟き、部屋を出ようとする。


凛太郎の背中にゆかりは「ならさ!」と大きな声で呼び止めると、

「仲間じゃなくても、いつでも頼ってよ。俺は……ヒーローなんだから。」

と続けた。


凛太郎は少しうしろめたく思いつつも、「考えとくわ」と言ってその場を後にした。


……



――ゆかりと話した少し後で、

灰原からの連絡受けると凛太郎は以前のように灰原の家を訪ねる。


するとまた少しやつれ気味の灰原が凛太郎を迎えた。


灰原の部屋には相変わらず何も無かったが、部屋の端にぽつんとそこそこ大きなダンベルが置かれている。

また畳の部屋に腰を落とすと、凛太郎の視線を追った後灰原が口を開く。


「……ああ、それ……先週の土日兄さんと会ったんですけど……なんか、買いすぎたからっておすそ分け貰っちゃって。」


灰原は珍しく、少し楽しそうにそう語った。


(ダンベルの……おすそ分け……?)


気になりつつも、凛太郎は「いいじゃん!良かったね!」と明るく灰原に笑いかける。


「……そうだ、情報でしたよね。

どうやら……エリヤさん率いる怪人組織は、彼女の護衛目的に集まった訳じゃないみたいなんです。」


明るい話から一転、不穏な情報を耳にして凛太郎は息を飲んだ。


「名前こそわかりませんが……ヒーローの誰かを怪人集団に引き入れようと狙ってるみたいで、今怪人達にトレーニングさせたり戦力を拡大するように動いてるようです。」


「ヒーローを怪人に……?そんなことしてどうする気なんだろ。」


「これは噂ですが、ヒーロー本部の上層部に、『ヒーローアンチ』がいるという噂がありまして。」


「ヒーローアンチ……?」


「名の通り、ヒーローが嫌いなんだそうで……それに対抗するために最強の怪人を作ろうとしてるとか、そんなデタラメな話題で怪人たちが盛り上がってました。」


若者のする噂話だ、大部分は誇張だろうが……本当に「最強の怪人」なるものを作ろうとする人物がいるならば、自分の兄……

そうでなくともコズミック7の誰かが狙われている可能性が高いと凛太郎は考察した。


「それで……その、標的のヒーローとはまた別人らしいのですが、とあるヒーローの討伐を今日言い渡されまして……そのヒーローの討伐が目的達成に必要不可欠なんだとか……」


「……それって、誰のこと?」


凛太郎が真剣に尋ねると、灰原は少し言い淀んだ後に口を開き

「コズミックイエロー……黄瀬ゆかりです。」

と言い放った。

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