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むかしばなし

若葉さんは少し深呼吸をした後で

「これは、昔大きな栄光を掴んだ男の人のお話。」と、まるで読み聞かせでもするかのような口調で話し始める。


「むかしむかし、レンジャー5という部隊に1人の天才がおりました。

……彼は仲間たちに、『グリーン』と呼ばれていました。」


そこで私は気付く、この物語が「笹木八角」の物語である……と。


「グリーンは同じ隊にいるブルーが好きでしたが、ブルーは他の人と結婚し、そして……愛する者を庇って命を落としてしまったのです。

……グリーンはそこから、狂ってしまいました。」


私は少し不気味に思いながらも、息を飲んで若葉さんの話に耳を傾けた。


「グリーンはある日、『自分の最高傑作を作りたい』と思い立ちます。……それは、発明品のことではありません。

…………自らの子供を自分の一番誇れる作品にしたいと、そう考えたのです。」


(子供が……作品……?)


「そして生まれた息子は、グリーンに似て何でも知りたがり、沢山知識を詰め込むことに喜びを感じる子供でした。

グリーンもそれを「知識を際限なく食べる、暴食の天才だ」と周りに自慢する程でした。

……そして……息子はある日、天才的な発明をします。」


若葉さんはそこまで言うと、唇を噛んだ後再び口を開く。


「その発明はとても子供が作ったとは思えない物で、

グリーンは、恐ろしくて仕方がありませんでした。

『作品』だと思っていた息子が今まさに自分を越えようとしている……その事実に耐えかね、嫉妬に狂ってしまったのです。」


「若葉さん……その、話……」


私が言い切るのを待たず、若葉さんは淡々と続ける。


「そして、『息子の発明品は不完全なおもちゃだ、自分ならもっと凄い物を作れる』と息子の発明を改悪し……世に放ってしまった。

それがバレて罪を追求されたグリーンは苦し紛れに『息子があんなものを発明したりしなければこんなこたにはならなかった、俺は悪くない』と叫びます。

親を尊敬するよう教育されていた息子は、自分のしたことを深く後悔し、責め続けたのでした……終わり。」


……何も言えることがなく、私は若葉さんの顔をじっと見ていた。


「お母さん、コズミック5になる前はレンジャー5の一員だったんだ。

だからロクタ君の受け持つ研究生になるって決まった日、これを聞かされたの。」


確かに先代グリーンのみつばさんは元レンジャー5の赤松と親しげだった。

繋がりがあってもおかしくはない。


「ロクタ君、焦ってるから倫理的に危ないこともしちゃうし、ちょっと変わってるけど……

ちゃんと叱ればわかる子だし、本当は人を心配できる優しい子なんだよ。」


「……ええ、よく知ってる。」


「ロクタ君に……勝ってね、リリアちゃん。

リリアちゃんに負けた人たちって、どこか幸せそうでしょ?

ロクタ君もそうなるんじゃないかって期待しちゃってるんだ、他力本願でごめんね。」


「そんなことない……!若葉さん、ロクタに『あなたの発明は凄い、もっと誇って』って言わなかった?」


私の言葉に驚きながら、若葉さんは「言ったよ、どうして知ってるの?」と返した。


(やっぱり……この言葉を投げた3人のうち1人は若葉さんだったんだ。

じゃああと一人は誰なんだろう?尊敬してるみたいだったしゆかりかしら。)


「ロクタはこれを言われたこと、しっかり覚えてて嬉しそうにしてたわ。

若葉さんだってロクタを救ってる、今大事なことを教えてくれたしね!

……絶対、勝つから。」


言うと、若葉さんは安堵したように微笑んだ。

そして、何かに気づいたように私の肩越しの何かに目をやる。


「どうしたの?何か珍しいものでもあった?」


私が後ろを振り向くと、若葉さんは

「さっき走って通り過ぎて行った茶髪の人、ブラックさんっぽかったなって。」

と呟く。


「え?……いくらナギでも、体力測定の後にジョギングなんてしないでしょ。」


答えると若葉さんは不思議そうに

「うーん……そうかなぁ」

と眉を下げる。


(……そういえばナギ、今日別れた時ちょっと悲しそうな顔してたな。)


「若葉さん、その人どっちに行った!?」


「え?交差点の方に走っていったけど……」


「ありがとう!ちょっとやらなきゃいけないことあるからこれで!」


私は若葉さんにそう言い残し、交差点に向かって走り出した。


★ ★ ★ ★


一方その頃、ナギは家の近くで走り込みをしていた。

体力測定の後だというのに走るのは、そうでもしないと余計な思考に押しつぶされそうだったからである。


(……フユキは、最近ちょっと変わった。昔に戻っただけじゃなくて、希望で目がキラキラしてて……悔しいけどちょっとかっこいい。

比べて俺は……)


ナギはエリヤの顔を思い浮かべる。


(……中途半端だ。エリヤさんが白か黒かも判断できない。)


ナギは灰原の言葉が嘘ではないかもしれないと思い始めていた。

何故ならナギは凛太郎が定期的に嘘を吐くことを知っており、灰原とエリヤが繋がっていることも把握していたからだ。


迷っていると、ふいにナギの携帯が鳴る。

見ると、フユキから【灰原君の言葉が本当か、確かめられそうです。

ナギ君、もしあれが真実だったらどうしますか?】

というメッセージが来ていた。

ナギは並木道で立ち止まると、休憩も兼ねてベンチに座り込む。

空は暗くなっていて、そろそろ街灯が道を照らしだす時間になっていた。


(もし、エリヤさんが灰原君に怪人化チップを渡していたなら。

『これはナギにしかできない正義の形』と言う言葉を信じて従ってた俺は……)


フユキのメッセージを見ながらそこまで考えて、ナギは身震いをする。


(……そうだ、何勘違いしてたんだろう。

フユキは俺と違って堂々と正義を掲げられる人間。

根っこから何もかも、違うだろ。

なのにフユキに『置いてかれた』なんて考えるなんて馬鹿げてる。

須藤にだって、仮に気に入られたんだとして……須藤の経歴詐称を突き止めたのが俺だってわかったら嫌われて、諦められて……!)


「……はは……」


(欲張りだな、吐き気がする。ヒーローでもいたいし、エリヤさんを信じたいし、須藤に救って欲しいとすら思ってる。

……全部叶うわけない、叶える資格もないのに……)


歪な笑顔を浮かべながら自己嫌悪に陥るナギの肩に、誰かが触れる。

メッセージを見るのに夢中だったナギは大声を上げながら落としそうになった携帯を何とか掴んだ。


「あ……ごめんなさい。声をかけたけど反応がなくて。」


振り向くと、ナギの後ろにリリアが立っていた。


「須藤……!?何で……フユキたちといるんじゃ……」


「話し合いはすぐに終わったの、今その帰り。

驚きたいのは私の方よ、あんなに動き回った後でジョギングなんてしたらいつか倒れるわよ。」


リリアが言いながら隣に座ると、ナギは彼女から目を逸らす。


「……汗臭いだろ、ほっといて。」


「迎えに来てとかほっといてとか、あんたも勝手よね。」


苦笑するリリアをちらりと見たあとで、ナギは少し考え込むように俯く。


「あんただって……俺といると嫌そうにしたかと思ったら、話しかけてきたり……なんなんだよ。」


指を組みながら言うナギ。

リリアはそれを聞いて「あなたといて嫌だと思ったことないわ、複雑だったことはあるけど。」

と答える。


その言葉は救いでもあり、同時にナギの後ろめたさを強めた。


「……なあ……須藤。俺さ……須藤に迎えに来て貰う資格とか……本当は、無いんだよ。」


ナギは途切れ途切れに言ったあと、組んでいた指を握る。


「……どういうこと?」


リリアが尋ねると、ナギは全ての終わりを覚悟して目を閉じ深く息を吸い、目を開けてから

「須藤の経歴詐称を突き止めてエリヤさんに報告したのは……俺なんだ。」

と告白した。

友人から当作品内での誤字が多すぎると報告を頂き、原因は恐らく怪我の影響で手の動きが完全に自由でない為と思われます。

なるべく自分で確認して修正しているのですが、もし誤字だらけで読みにくかったらすみません……

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