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ロクタの能力

私が焔と話したいと呼び止めると、焔はニヤつきながら口を開こうとする。


「あ、違う!貴方が好きとかそういう関係の話じゃないの、模擬戦について話したくって……」


言うと、焔は一瞬真顔になった後で「わかった、誰かに聞かれると困る話?」と尋ねてきた。


「そうね」と答えると、焔は「どうせ帰るとこだったし、家で話すか」と言って歩き出した。


……


焔の家に到着すると、私はすぐに模擬戦のことについて切り出す。


「焔、模擬戦のルールを今回に限り少し変更して欲しいの。」


「どんな風に?」


あまり誤解させるような表現をしてもいけない、慎重に説明せねば。

少し息を吸った後、「焔、あなたなら本物の怪人化チップについて知ってるわよね?」と尋ねる。


すると焔は「グリーン先生の作った初版だよね」と答えた。


(やっぱり、コズミック7の間では周知の事実なのか……)


「模擬戦でそれを使わせて欲しいの、相手にも相応の有利条件を追加していいわ。」


それを聞いて目を丸くする焔。


「どうしてルールを変更してまで使いたいの?リリアって元々異星人だよね?」


「ロクタの発明を肯定したい。私の考えでは……『怪人化チップ』が流行った経緯にロクタの責任はあまりないと思ってる。

大人が子供の発明を消費して、悪意ある改変をしたうえ世に放つなんておかしい。」


「……なるほど。確かにそこは俺も思うところはある。

彼は必要以上にこの件に関して責任を負い過ぎてるよね。

だからといって本人の覚悟を否定できる権利もないからここまで来ちゃってるけど、ああいうの……見てると辛いな。」


焔は「何か」を思い出すように目を逸らしてからそう言って、アイスティーの入っていたガラスのコップを強く握る。

急激に熱が伝わったせいか、コップはピシッと音を立ててひび割れしていた。


(昔の自分と重ねてるのかしら。)


3年前の焔も大人の承認欲求に振り回された被害者だった。

それを思えば内心穏やかでもないのだろう。


「……うん、いいよ。本物の怪人化チップの使用を認める。その代わりロクタの能力と武器の使用も一緒に認めるよ、それでいい?」


(能力はまだしも、武器も解禁するんだ。)


意外に思いつつ、私は焔を真っ直ぐ見ながら「いいわ、問題ない。」と言い切る。

ロクタの能力……そういえばまだ知らされていない。

パワードスーツでの戦闘は大変強力だが、流石にそれだけがロクタの強みではない筈だ。

過去コズミック7内部で行った模擬戦で彼は確実にあかりに勝っている、その事実だけで「戦える能力」を有しているのだと判断できる。


(まずは情報を集めないと。)


心の中でそう呟いた後で、私は話もそこそこに焔の家を出た。


……


(後はゆかりに話を聞く……か。ゆかりならロクタの能力もわかるかしら?)


並木道を歩きながらゆかりにメッセージしようかどうか迷っていると、目の前でカラスが列をなして歩いているのが目に入る。


(うわっ!びっくりした!鴨ならともかくカラスがこんな風に列を作ってるとこ初めて見た。)


何が起こっているのか気になって列の先を追ってみると、公園でカラスに囲まれている若葉さんが目に入った。


「若葉さん!?」


思わず声を上げると、若葉さんはこちらに気付いて手を振ってくれる。


「何してるの?こんなところで……」


恐る恐る近付きながら言うと、若葉さんは「情報収集だよ、何か変わったこと無かった?って聞いてたの。」と答えた。

動物全てと対話できるなんて相も変わらず強力な能力だ。

と言っても対話ができるだけで言うことを聞くかどうかは動物の意思だから、能力ばかりが強いということでもないのだが……


「リリアちゃんは何してたの?」


「ああ……えっと、さっきまでコズミック7の体力測定の測定係をやっていたの。それが終わって、今帰るところよ。」


「ええ!?それは大変だったねえ。お疲れ様。」


若葉さんは言いながら天使のように笑ってみせた。


(ああ……!なんて可愛いのかしら、原作グリーン!)


この瞬間を最大限楽しもうと瞬きを極力せずじっとその笑顔を見ていたところで私はハッとする。


……若葉さんはロクタの助手もしていると耳にした。もしかしたら彼の能力についても知っているかもしれない。


「あの……休みの日にごめんなさい。ちょっと相談があるんだけどいいかしら?」


申し訳なさそうに言い放つ私を見て、若葉さんは不思議そうに目を瞬かせた。



「へえ、今模擬戦でロクタ君と戦ってるんだあ。」


私が概要を話すと、若葉さんは言いながら宙を見る。


「ロクタ君の能力、知りたい?」


すこしもったいぶりながら若葉さんが言う。

彼女のことだから素直に教えてくれるだろうと考えていた私にとって、その反応は意外なものだった。


「し……知りたいです。」


答えると、若葉さんは目を伏せ

「ごめんね……本当はこういうの好きじゃないんだけど、交換条件でどうかな?

私の質問にも答えてくれたら教えてあげる。」

と口にする。


(なんだか、思いつめてる感じ……)


「ええいいわ、何かしら。」


「最近ね、裕也君と一緒にいると視線を感じることがあるの。最初はやっかみか嫉妬かなって思ってたんだけど、そうでもないみたいなんだよね……

リリアちゃん、ウリュウさんとかミカゲさんとか……シノさんといる時に視線とか感じたことない?

もしあるとしたら、ブラックホール団について嗅ぎまわってる人が尾行しているって線が強いと思うの。」


若葉さんは心配そうに言い放つ。

そんなものを感じたことはないが、恥ずかしながら私は大変尾行等に疎い。

アンナやナギ、灰原さんが様子を伺っていても気付けなかったくらいだ。


「……それって、いつ頃からいつごろまでの話?もし少し前なら、灰原先輩がエリヤさんに言われてつけてたとかないかしら?」


「それが……3日前くらいにもあったから可能性は低そうなんだよね。

エリヤさんが絡んでるのはあり得るにしても灰原君ではないと思う。」


その答えを聞いて私は頭をひねる。


「視線を感じたことはないけれど……私、ちょっと感覚が鈍いの。

今度から幹部やウリュウといる時は注意してみる。」 


言うと、若葉さんは「ありがとう、でも無理はしないで」と答えた後で

「……そうだ、ロクタ君の能力だよね。」と切り出す。


(ロクタの能力……今まで一度も視認したことないし、相当秘密にしてるのかも。きっととんでもない能力に違いないわ。)


ドキドキしながら答えを待っていると、若葉さんは「ロクタ君の能力は、『操作』だよ」と答える。


私はあまりピンと来ない回答に首を傾げた。


「あーごめん!漠然としすぎてた……正確に言うと『機械の操作』だね。

初めて手にした物でも思いのままに動かせるし、複数同時にも動かせる。

……例えば、知らない乗り物でも乗りこなせる、みたいな!」


若葉さんの説明でやっと腑に落ちる。

なるほど……それなら発明とも相性のいい能力だし、あのパンダ頭の無機質な大男達の正体にも説明がつく。


あれは人間ではなくロボットで、ロクタが都度動かしていたのだろう。

私は知らず知らずの内にロクタの能力を目の当たりにしていたのだ。


焔が何故、ロクタの能力のみを解禁しなかったか。

武器とセットでなければ能力を使いようもないからだと納得できた。


「ありがとう若葉さん!いい作戦が練れそうよ!」


そう言って立ち上がると、若葉さんは大きな声で「待って!」と声を張る。

少しびくりとしながら若葉さんを見下ろすと、彼女はとても悲しそうな顔をしていた。


「……ねえ、リリアちゃん。こんなことするなんて間違ってるって自分でも思うんだけど……

ちょっとした昔話に付き合ってくれないかな?」


私は彼女の言葉を不思議に思いつつも、「……どうぞ」と静かに返したのだった。

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