理想の英雄
体力測定の後、ロクタも同行してフユキの家まで向かうと、ゆかりがせっせとお茶を汲み提供してくれる。
(困ったな……焔にチップのこととか、ゆかりにロクタのこととか聞きたかったのにまさかロクタも一緒だなんて。)
「それで……話したいことって何なのフユキ?」
道中少しだけ概要は聞いていたものの、詳細は謎だった為に尋ねてみると、フユキは珍しく真剣な顔をしながら
「エリヤさんのことなんですけど……」
と切り出す。
「エリヤを失脚させる」、フユキは以前そう決意していた。
今回も「エリヤさんについて話す」とは聞いていたから覚悟はしていたのだが……とうとう動き出すのかもしれない。
「ゆかり君と隊長もいるのでまずは概要から。エリヤさんは怪人化チップの後遺症を知りながら、灰原君に怪人化チップを使うよう促したと灰原君が証言しました。」
焔とゆかりは少し目を見開いた後、「不思議ではない」と言わんばかりに眉をひそめた。
「なので俺は仲間を集めてエリヤさんの悪事の証拠を掴み、明らかにしたいと思ってます。
もし可能なら、ゆかり君や隊長にも協力してほしくて……」
言いながらフユキは2人を上目遣いで見る。
ゆかりは「勿論」と即答したが、焔は少し考え込んでいた。
「事実なら勿論手を貸す。でも情報のソースが灰原君なのが引っかかるな……」
「実際に灰原君から怪人化チップを受け取ったし、嘘でもないんじゃないか?」
ロクタが言うも、焔の表情は変わらない。
「自分で購入したって可能性もあるから何とも言えない。……そうだ、凛太郎に嘘かどうか判別して貰おうよ!」
焔が言うと、私とフユキは困ったように顔を見合わせる。
焔は知らない、以前の会議から「凛太郎が嘘を吐いている可能性がある」ということを。
しかしそれを焔に伝えるのは少々酷なことだ。
できれば今、この人の機嫌を損ねたくない。
「あの……ね、一応見てもらいはしたのよ?一緒にいたから……
でもその日、凛太郎の能力の調子がおかしくて……」
そう語る私の顔を見て、ゆかりは何かを察すると
「あいつ寝てなさそうだもんな、なんかフラフラしてるし。」
とフォローした。
焔はそれを聞いて目を瞬かせながら「確かに最近元気ないよね……じゃあ仕方ないか。」と呟く。
「あ!ねえ、私の知り合いに心の声が聞ける人がいるの!その人に協力をお願いするのはどうかしら?嘘もすぐにわかるはずよ。」
言うと、フユキは「いいですね!」と元気に言い放つ。
もう恐れることはない。ヒーロー本部とブラックホール団は提携関係、
シノが前向きな姿勢を示してくれたなら、気兼ねなく頼って良くなったのだ。
それにシノは以前からエリヤを警戒していたと緑川が教えてくれた、きっと協力してくれるだろう。
「もし灰原君の証言が真実だった時は、隊長も協力してくれますよね!」
フユキが期待の眼差しを焔に向けながら言うと、焔は「そうだね、放置できないもん。」と答えてくれた。
「でももし証言が事実なんだとして、具体的にどう動くよ?情報の収集から始めるんだろ?」
ゆかりが言うと、フユキは得意げな顔で
「はい!情報を集めて……正々堂々と上に本人の前に突き出す!これが一番精神を揺さぶれるいい方法だと思います!」
と言う。
「……あー……でもねフユキ、以前ナギが言ってたでしょ?正々堂々挑むのは危険だって。
それに、以前あなたの情報を悪意ある形で拡散されたことだってあるし……」
おずおず口を出すと、フユキは変わらず自信に満ちた笑みを浮かべながら
「そう!なので第三者を挟むって言うのはどうでしょう!」
と言い放つ。
「第三者?」
ロクタが不思議そうに尋ねると、フユキは嬉しそうに含み笑いを浮かべた。
「実は……俺!今度『御三家』の黄村さんとご飯行くことになったんです!」
「まじ!?」
フユキの言葉に、ゆかりが声を上げる。
……「御三家」……以前少しだけその存在を耳にしたことがあった。
ヒーロー本部には本部長「赤松宗次郎本部長」と「青柳慎之介副本部長」、「黄村ヒロミ副本部長」の三人がいて、今はその3人がほぼ実権を握っている。
だからヒーロー達は彼らを「御三家」と呼ぶのだ。
その中の一人がご飯に誘っている……これは組織のトップに理解してもらうにはいいチャンスだろう。
「うん……しかし、黄村さんか……」
ロクタが曇った表情で呟く。
「どうしたのロクタ、黄村さん……って人、信用できない?」
尋ねると、今度はゆかりが口を開き
「信用できないかはともかく、得体が知れねえとこはあるよ。ちょっと前からヒーローのタレント化を進めてたり……結構革新派だから。」
と口にした。
「……ほら、覚えてない?最高司令室に行った時いた黄色いスーツのおじさん。」
焔に言われ、私はハッとする。
あの人が黄村……たしかに底の見えないような雰囲気はあった。
しかし彼は、ブラックホール団との提携に協力的だったこともあって悪い結果にならないようにも思える。
(大きいことをするには、味方が必要だし。)
「……いいんじゃないかしら、とりあえず仲良くしてみるに越したことないわ。」
私が言うと、フユキは元気に「はい!」と返事をした。
「じゃあとりあえず最初はリリア様のお知り合いを説得するところから始めた方が良さそうですね。じゃあ今日はこれで解散にしましょ。」
フユキが言うと、全員散り散りにフユキたちの部屋を出る。
私は帰ろうとする焔を追いかけ、
「ねえ焔!ちょっとこの後話せないかしら!」
と声を掛けた。
★ ★ ★ ★
リリア達が話し合いをしている頃、エリヤは機嫌が悪そうな顔でヒーロー本部の「副司令室」に足を運んだ。
最高司令室との雰囲気とは似ても似つかない金の装飾だらけの部屋に、少しエスニックな甘い香りがエリヤの鼻を刺激する。
(成金趣味、理解できない。)
エリヤが心の中でそうこき下ろすと、部屋の奥で南国的な音楽をうっとり聞いていた黄村が彼女の存在に気付き、「来てくれたか」と言い放つ。
「……ご要件は。」
エリヤが無機質に尋ねると、黄村は指を組みながら
「怪人、何人まで集まってる?経過を聞きたいんだ。」
と質問を返す。
「5人です、最近『灰原透』が加入したので戦力は大幅に上がったかと。」
黄村はそれを聞いて、満足そうに拍手を送った。
「いーじゃん!有斗君の弟ね!彼も惜しかったよなー、俺の秘密にさえ気付かなければ……ま、今それはいいか!
ならそろそろ、動き出せそうかい?」
黄村が朗らかな笑みから一変、真剣な顔で尋ねると、エリヤは少し息を飲みながら
「はい、準備は進んでます」
と答える。
「それはいい!……ああ、早く見たいなあ、『俺の理想の英雄』を。」
目を閉じながら何かに思いを馳せるように口にする黄村を見て、エリヤは怪訝そうにしながら
「理想の英雄の『素材』なら、真白冬樹ではなく赤城焔が適任では?」
と疑問を口にした。
「焔君は強いよ?……でもね、彼は絶対に、『自我』を手放さない。
その点冬樹君は最高だ、確たる自分がいるようでいて……己を構成するものを手放した時、完全に崩れてしまう。」
黄村は言いながら、積み上げてあった角砂糖の塔を崩してコーヒーの中に放り込む。
「以前は無気力すぎて誘いに乗らなかったが……前を向き始めた今なら、崩せる。」
黄村は言いながら、不気味な笑みを浮かべた。
エリヤはそれを見て首筋に軽い冷たさを感じつつも、恐れているのを隠すように微笑んだ。




