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幸せの分岐

休憩を終えると、各々がまた体育館の中心に集まり出す。

私は凛太郎から貰ったマニュアルを見て寒気を覚える。


「次はシャトルランです……」


私が言うと、やけに張り切った様子でナギと焔が並び、目が合ってから睨み合う。


他メンバーも2人の異様な雰囲気に圧されながらも位置に着く。

全員が並んだのを確認すると、ゆっくりとラジカセの再生ボタンを押した。


……


少し時間が経ち、私は最後に残った3人の記録を一心不乱にカウントし続ける。


あかりは私の後ろで、どこか恐れているような、呆れているような顔でフユキ、ナギ、焔を見ていた。


3人の記録はそろそろ、200回を越えようとしている。


(なんか……かっこいいを通り越して怖くなってきた。)


私は内心そう思いながらも3人の姿を目で追っていた。

あの3人は何を考えながら走っているのだろう……?


(須藤に見られてる気がする……いつもフユキに僅差で負けるし、今日くらいは本気出すか……!)


(シャトルランは得意な方だし、1番になったらリリアが俺に惚れちゃうんじゃない!?)


(お腹空いたなー)


……なんだか、表情を見るにフユキだけが無心で走っていそうだ。


そして、200回を超えた頃にフユキが急にピタリと走るのをやめ、程なくしてナギも脱落。

焔もナギが脱落したのを確認して、やっと動きを止めた。


(全員、余力がありそうなんだけど……?)


記録を付け終わると、タオルで汗を拭いながら焔がこちらに歩いてくる。

珍しく少し息が上がっており、流石に少し疲れているようだった。


「リリア!俺の走るとこ見てた!?凄かったでしょ!」


笑顔で尋ねられるも、私は何も言えずに黙り込む。


「記録の測定だから仕方ないけども、残った3人を見てあんまりキャーかっこいー!とはならんと思うよ……」


後ろにいたあかりが言うと、焔は「ええ!?」と声を上げた。


(これから私、あの3人の内2人と戦うの……?頭痛くなってきた。)


「90分休憩の後に50メートル走と100メートル走を測定するから、ちゃんと食べて休むのよ。」


私は焔にそう言い放つと、身を翻す。


(あれだけ走った後に90分休んだ所で……って思うけど、ヒーロー達には十分なんでしょうね。)


するとこちらに向かって来ていたであろうナギと目が合った。


「あ……!あの……どうせあんた、いいもの食べてないんだろ?

良かったら俺が美味しい物奢って……」


ナギが言い切る前にフワリとナギの横をフユキが風を起こしながら通り過ぎると、私の手を掴む。


「リリア様、俺お腹空きました!ハンバーガー食べに行きましょ!ポテトシャカシャカしたいです!」


「あらいいわね!……えっと、ごめんなさいナギ、ちょっと聞こえなくて……なんて言おうとした?」


ナギは少し震えた後で拳を握ると、「ハンバーガー食べたいって言った!」と大きな声で言う。


「じゃあナギも一緒に食べましょ。」


「じゃあナギ君は梅シーズニング担当で!俺はバーベキュー味頼むのでシェアしましょうよ!」


「……まあ、たまにはいいか。」


ナギが首を縦に振ったので、私はフユキとナギの後に続いた。


……


「ナギ君!俺の分までラッキーセット頼んでくれてありがとうございます!」


ナギフユキの2人と合流するなり、フユキがご機嫌にそう言い放つ。


フユキの前には黒いビニールに包まれたおもちゃらしきものが置かれていた。

ナギはそれをじとりと睨みながら「まあ……いいけどさ……」と呟く。


「あら、フユキは何を集めてるの?」


「ケサランっていうゲームキャラのマスコットが今ラッキーセットで出てて……姉さんが好きだから俺も集めてるんです!」


フユキが目線を向けた先には、白い綿毛のような犬のキャラクターがディスプレイされていた。


(やば……ちょっとフユキに似てる。)


内心そう思いながらくすりと笑うと、フユキは「なんか今、ちょっと失礼なこと考えませんでした……?」と言って怪訝な顔をする。


「可愛いと思っただけよ!私もラッキーセット頼むからおまけはフユキにあげる!」


「やったー!ありがとうございます!」


私は喜ぶフユキに癒されつつ列に並んだ。


……


「変だよ、絶対に変。」


食べている途中で、ナギが唐突にそう口にする。


「何が?あまりハンバーガー好きじゃない?」


「……そうじゃなくて、須藤ってフユキといる時楽しそうじゃんか。それが変だなって。」


ナギはハンバーガーを頬張った後でフユキを見ながらそう言い捨てる。

フユキはそれを聞いてムッと口をへの字にした。


「何でよ、フユキって元気だし……なんて言うかその……」


私は言いかけて、フユキの顔をちらりと見る。


(可愛い、とか……男性に言ったら気味悪がられるわよね。)


「楽しい人……じゃない?」


そう言うと、フユキはご満悦そうににこりと笑った。


「でもほら、須藤に奢るどころかポテトシェアしてるし、ラッキーセット貢がせてるし……なのに俺が高級な店に連れていった時より幸せそう……」


「なんだ、つまらない嫉妬ですかー?そりゃそうです、親しくもない人に高級なご飯奢られてもびっくりするだけでしょ。」


フユキが意地悪な笑みを浮かべながら言うと、ナギは少し目を見開いた後で黙り込む。


(まあ、今回に関してはフユキが正しい……)


「……私別に、お金がかかるから必ず楽しいってわけじゃないのよ。

ごめんなさい、ちょっと貧乏性で……」


ナギを慰めると、彼は少し顔を上げてこちらを上目遣いで見た後

「誰かに何かしてもらうよりしてやる方が好きそうだもんな、あんた。」

と言って再びハンバーガーを頬張った。


「そう、そうなの!だから無理に高級なご飯を奢ろうとしたりしなくていいわ!」


やっと真意が伝わって嬉しくなった私は、笑顔で頷きながらそう言い放つ。


ナギはハンバーガーを完食して少し口を拭った後、

「……別に、奢りたいとも思ったことないけどね。」

と言い捨ててトレーを片付けに行った。


「ナギ君、なんかまた雰囲気変わりましたね……」


フユキは不思議そうにナギを見送った後でラッキーセットを鞄にしまう。


「……そう言えば、この前のお姉さんからの連絡どうだった?

お姉さんの為にそのマスコット集めてるらしいし、楽しくお食事でもしたのかしら。」


尋ねると、フユキは満面の笑みで

「はい!姉さん、俺に会いたかったって言ってました!

久しぶりに会ったら凄く優しくて……!楽しかったです!」

と答えた。


「……良かったじゃん、元々不仲だったんだろ?」


トレーを片付けて帰ってきたナギがそう言って再び席に着く。


「そうだったんですけど……なんか急に、不仲じゃなくなりました!」


「最近テレビとか出て頑張ってるのを見かけて会いたくなったのかもね。」


ナギは無関心そうに口にすると、スマートフォンをいじり始める。


(ナギも、最近のフユキが『頑張ってる』って思ってたんだ。)


私はその様子を微笑ましく思いながら眺めていた。


そして全員が食べ終わった頃、ナギはフユキの背中を見ながら

「フユキは俺と同じだと思ってたのにな。」

と呟いたのを耳にして、ナギに目をやる。


ナギの横顔は少し寂しげで、とても普段の王子様と同一人物だとは思えなかった。

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