体力テスト
「体力測定!?あれ、前もやったよね?」
土曜の朝、喫茶店でアイスティーを飲みながらアンナがそう口にする。
「そうなの、凛太郎が行けないから私が測定することになったんだ!」
「前のレッド隊長に呼び出されたのもそうだけど、リリアって本当に事件に事欠かないよねぇ。
ブログやらせたら内容濃すぎてフィクションだと思われそうなくらい。
でも良かったじゃん、提携!これでちょっと居やすくなったね。」
私はアンナの言葉に笑みを返す。
ミカゲさんが頑張ってくれたお陰で、もうコソコソと任務を遂行しなくても良くなった。
最近、ミカゲさんや焔、ウリュウ達の力に頼り過ぎてる節がある。
そろそろここで結果を出さなければ……!
「ええ、この風向きを利用して、一気に目標達成を目指すわ!」
私は自信満々に言い切ると、また元気にクッキーを頬張った。
★ ★ ★ ★
体力測定の時間になると、私は体育館へ向かう。
するとどこからか軽やかに誰かが走ってくるような足音が響き、身構える隙も無く私の体に「何か」が抱き着いた。
「リリア様ーっ!」
大きな声と共に、満面の笑みが飛び込んでくる。
「フユキ!急に抱き着くなっていつも言ってるでしょ!?」
「えー?何でですか?西洋じゃ挨拶なのに……」
「ここは西洋じゃないのよ!」
私がそう声を上げると、フユキは残念そうに離れた。
「おっす!凛太郎が休みとは聞いてたけど……リリアが代わりやるんだ。」
フユキに釣られてか、ゆかりも言いながらこちらに歩み寄る。
「そ、そうなの。頑張って測定するからね!」
ガッツポーズを決めると、背後にある扉からあかりとロクタが入ってきた。
「あれ?リリアちゃまがいる。もしかして測定係?」
私があかりの問いに笑顔で「そうよ!」と答えると、あかりはロクタと顔を見合わせた後で少し不憫なものを見るような目をこちらに向ける。
「な、何……その顔。」
「測定係は毎年地獄を見るんだ。
毎年ブルーくんもやつれながらなんとかこなしている。
……まあ、頑張ってくれたまえ。」
ロクタはそれだけ言うと体育館の奥へ荷物を置きに行く。
「待ってよ、測定係が地獄を見るってどんな状況……?」
「ま、まあまあ!あんまり身構えても仕方ないだろ!今日はよろしくね!」
あかりもロクタに続き、それだけ言うと奥に消えていった。
私は最後の頼みであるゆかりの顔を見ると、彼も苦笑いをしている。
「ほら、うちのメンバーって何人か人間辞めてる身体能力してる人がいるから……測定が面倒なんですよ。
大変な仕事任されちゃいましたね!」
フユキが輝くような笑みで言い切ると、私の血の気が引いていく。
「何他人事みたいに言ってんだ、お前もその中の1人だろ。」
「あれ……須藤……さん!来てたんだ。」
ゆかりの突っ込みを唖然としたままに聞いていると、ナギが王子スマイルを浮かべながら入ってくる。
「あ、ああナギ……おはよう……」
「あれ、なんだか顔色悪い?」
ナギはそう言いながら私の顔に手を伸ばすと、頬に触れる。
少しゾクリとしたものの、手が異様に冷たくて心地よく、不思議な感覚を覚えた。
「ナギ君、勝手にリリア様に触らないで下さい!」
フユキが言いながらナギの手を払うと、ナギは涼し気に笑いながら「ごめんごめん」と呟く。
「そっか、今日の測定は須藤さんがやるんだね。
大変だろうけど頑張って。」
ナギはそれだけ言うと体育館の奥へと消えていった。
(そっか、今日は須藤が計測やるんだ……別にそれとは関係ないけど、ちょっと自己ベストでも狙ってみようかな。)
「……なんか、今日の凪人機嫌よくない?」
ナギを見送りながらゆかりがそう口にする。
「そうですか?いつもあのくらいニヤけてません?」
フユキがさらっと悪態を突くと、焔が悠々と扉を抜け、体育館の扉を閉める。
「おはよう、ホワイトにイエロー。……あれ、リリアもいる?」
「リリア様は今日凛君の代わりに計測やるらしいです。」
フユキがそう答えると、焔は少し目を見開いた後で得意気に微笑む。
「へー!そうなんだ、よろしくね?」
ご機嫌に言い放つと、焔も奥へと歩きだす。
(そっかー!今日の計測リリアなんだ!女子は足の早い男子が好きってすっごい昔に凛太郎が言ってたし、リリアがまた俺に惚れちゃうな!)
「……隊長も嫌なくらいご機嫌だな……」
「それは俺にも伝わりました……なんか、嫌な予感が……」
フユキとゆかりの真っ青な顔を見て、私も覚悟を決めたように息を飲んだ。
……
「じゃ、じゃあえっと……最初は握力と上体起こし、小休憩後反復横跳びと長座体前屈を行います。」
全員が準備体操を終えた後で、私がアナウンスを入れる。
メンバーに順々に握力測定機を握らせ数値を記録していくも、人間離れした数値に思わず顔が引き攣る。
「フユキ……握力112……112!?」
特にフユキ、ナギ、焔の記録は異常だ。
上体起こしも永遠に終わらないのではないかと不安になるほど続き、前半が終わる頃には少し狂気じみた何かを感じていた。
(ナギ、フユキはどちらも握力100超え……焔にいたっては160ってどうなってんのよ!計測器壊れてるんじゃないの!?上体起こしも全員100回超えてるし……)
私が震えながら休憩する3人を眺めていると、ロクタが心配そうな顔でこちらに歩いて来る。
「記録が本当か疑い始める頃だろうと思って、数字は恐らく誤りじゃないよと伝えに来た。」
「ありがとう……丁度疑心暗鬼に陥ってたとこよ。」
「隊長はいつも鍛えているから細身でわかりづらいが筋肉おばけだし、ホワイト君は女子のように細いがフィジカルが野生じみていて、ブラック君も人間離れした体力と運動神経を持っている。
僕は学校にも行っているから中学生男子の平均を知っているが、ここと比べると恐ろしくなるよ。」
同情するような眼差しで言い放つロクタに、私は苦笑いを返す。
一方で、ロクタの記録に目を落とすと、中学生男子の平均より少し下くらいの記録が散見された。
「言ったろ、僕はあまり頑丈じゃないから……握力もスタミナもそんなに無いんだ。」
記録を手で隠しながら、少し赤らんだ顔でロクタが言う。
(なるほど……だからパワードスーツで補強を……それでもあれだけ戦えるんだから凄いと思うけれど。)
「低いとは思わないわ、他の数値がおかしいだけ。
人間寄りかと思ってたあかりでさえ握力70キロもあるし……」
言うと、ロクタは可笑しそうに吹き出した後
「確かに皆凄いな、凄すぎる。」
と言って笑う。
その姿はごく普通の少年そのもので、私もそれに釣られて少し口角を上げた。
「まあしかし、休憩の後は少し覚悟した方がいいぞ。
恐ろしいものが待っているだろうから。」
笑顔から一変、スンと真顔に戻ったロクタがそう言い捨てて休憩に戻っていく。
私はその言葉を聞いて記録を纏めていた手を震えさせた。




