交渉
私は明らかに機嫌の悪いウリュウからフユキを守るように彼の前に出ると、
「いいえ! まだある! 最後に聞いて欲しい。
私の案が気に入らなければ殺してくれて構わないわ! 」
とウリュウに言い放つ。
「一応聞こうか。」
「ヒーローサイドの人間も一枚岩じゃないと思うの。
根拠は薄いけど……あなたも聞いてる筈よ、ナギの件。
明らかにフユキの言ってる所と矛盾している点がある。」
「『異星人の殲滅を望む』トップと……
『ナギが異星人だと分かってて助けた』ブルー、確かに行動が相反してるね。」
「彼らの中にも派閥や考え方の相違があるんだとしたら……
分断できる可能性があるんじゃないかって考えたの。
例えば『異星人に対して温厚な層』と『そうじゃない層』の分断とか…ホワイトの話を聞いた感じ、トップの思想に疑問を持っている人間って組織内にも結構いるんじゃないかしら。」
「全部たらればで信憑性に欠ける。」
「だから!私がレッドの補佐をしてそれを探って来るってのはどう!?
もし本当に分断が可能なら、地球人全員と争う必要はない、『組織がヒーローに壊滅させられる未来』を回避したいなら、仲間に引き込んじゃえば確実性が上がるって思わない!? 」
「君の仕事のリスクはさらに上がるけどそれでもいいの?
もし『分断できない』と判明した時、僕に何されるか想像つくよな? 」
物凄く嫌な目に逢うことだけは想像できる。
しかし、この賭けが成功すれば「ヒーローと敵対しない未来」に確実に近づくことができるだろう。
悔やまれるのは原作の展開を無視して進むので、この先の事が予測できなくなることだが…関係ない。
原作よりヒーロー達が幸せになれる未来を私が作ってみせる!
「ええ! 殺したって奴隷にしたっていい!
私はヒーローサイドを崩せそうな何かがあるって確信してるの。
ウリュウ様、私にチャンスをくれない?もしフユキを含む一部ヒーローをこちらに引き込めそうならそれに尽力するわ!」
「……解った、そこまで言うならやってみるといい。
失敗したら一生僕のペットだよ。」
私は勝ち誇った顔を青く染める。
そうなったら確実に長生きできなくなるだろう。
「ふん、せいぜいそこでいい報告を待ってるといいわ!」と言い放ちフユキを連れて彼の部屋を出る。
そして彼の家から出て暫く歩いたところでふらつき、そのまま地面にへたり込んだ。
「こわかったぁ……! 」
不意に涙が頬を伝い、私は浅くなっていた息を深く、深く吸って吐き出した。
「また無理してたんですか?あのお兄さん、多分俺より強いですよ。
もし話し合いができなかったらどうするつもりだったんです? 」
「死ぬしかなかった。」
「ええ……擁護できないくらい無謀ですね。」
「でも彼、結構話はわかる人よ。どんな状態でも一度はチャンスをくれる。」
そのチャンスをふいにした時が怖いんだけど……!
「リリア! 急にフユキが消えて……って! 何でいるんだよお前! 」
ウリュウの事を考えて震えていると、ナギがこちらに走ってくる。
ああそうか……ナギからしたらフユキが急に消えたのだ、焦りもする。
「リリア様のいるとこなら俺はどこにでも現れますよ! 」
「はあ……? 何でリリアは座り込んでるの? 」
「命がけの契約を結んだんです! 難しい仕事に失敗したら殺されるか、
ウリュウってお兄さんのペットになるらしいですよ! 」
「何だその恐ろしい契約……! リリア、何でそう無茶ばっかりするんだよ!
あの人顔はいいけど本当に容赦ないぜ? 」
「そりゃ……無茶もするわよ。私はあなた達が好きなんだもの。」
まずい、私は一体何を言っているのだろうか?
彼らはまだコズミック7のメンバーではないので、私が未来のファンだということも勿論知らない。
これではただの愛が重い女みたいではないか。
「ああ……違うの! 今のは……! 」
「違うんですか? 俺もリリア様の事好きなのに。」
ホワイトがしゃがみ込んで微笑みながら言う。
私の頭はその瞬間何か幸せになる物質で満たされ、ウリュウへの恐怖が何処かに飛んでいってしまった。
ホワイトに……好きと言われた……
「リリア! 俺の方がリリアの事……好きだよ! 」
ナギはフユキに続いて座り込むと、裏返った声で言う。
「ナギくんのは不純な『好き』でしょ~? 俺の純粋な気持ちと違うからなー。」
「はあ!? 俺だって純粋に好きだけど! お前こそリリアの事変な目で見てんじゃねーの! 」
「しあわせすぎる……」
私はそのまま脳から分泌された謎の幸せ物質により意識を失った。
「リリアーーーー!? 」