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「リリア……自分が何言ってるかわかってんの……?」


凛太郎は冷や汗を浮かべながら言う。


「……あ!違う、私が使いたいのは『本物』の方なの!知ってる!?世の中に流通してるチップは偽物なのよ!」


「勿論知ってる、グリーン先生が開発したのに手を加えられてああなったんだろ?」


凛太郎は水を飲みながら自分を落ち着かせるように胸を撫でた。


(あれ……知ってるんだ、メンバーには周知の事実なのかな?)


「そ、そう!だから私……本物の怪人化チップを使ってロクタに勝ちたい。

ロクタの発明品は凄いんだって、教えたくて……」


少し前、凛太郎には「脇道に逸れすぎだ」と怒られたばかりだし、きっと反対するだろう。

……そう思って彼の顔を見ると、意外にも穏やかな表情をしていた。


(怒ってない……?)


「……いいと思うよ、俺もグリーン先生の発明は凄いと思ってるんだ。

悪用されて、こんなことになっちゃったから彼は自分を責めてるけど……

強く肯定してくれる人が現れれば先生もきっと、救われる。」


思ってもみなかった言葉に呆気に取られていると、凛太郎はこちらを見て

「特例の話は兄ちゃんに、ロクタとの模擬戦のことならゆかりに話してみるといいかも。

……それと……リリア、今度コズミック7の体力測定があるのは知ってる?」

と言いながら微笑む。


「し、知らない……あれ?前にも実施してなかった?」


アンナの炎上事件の渦中だったから、4月の中頃ぐらいだっただろうか?

1度研究生と合同でコズミック7の体力測定もやった記憶がある。


「そう、再度実施することになってさ……ゆかりとフユキの不調が回復して今、バリバリ働けてるっしょ?

上から『コズミック7は測定で手を抜いているんじゃないですか?』って突っ込まれちゃったらしい。」


なるほど、フユキとゆかりの再評価は喜ばしいが傍目から見るとそういう風に映っても仕方がないのかもしれない。


「……と、いうことで!リリアもスタッフとしてそこに参加しよう。」


その言葉に私は目を輝やかせ、

「いいの!?」

と笑顔で凛太郎に詰め寄った。


「……何そのファンみたいな反応。ロクタのパワードスーツは兄ちゃんの筋力を参考にしてるから……兄ちゃんの記録と動きを見て参考にして欲しくて言ったんだけど。」


呆れたようにこちらを見下ろす凛太郎を見て、私はすぐに冷静になり肩を小さくする。


「ごめんなさい、つい……」


「俺、体力測定の日に計測任されたんだけど仕事で行けなくなっちゃって……俺の代わりにやってくれない?」


少し可笑しいものを見たように笑ってから、凛太郎がそう口にする。


「やるわ!絶対やる!」


これはロクタのみならず後に戦うナギや焔の動きを調べられるいい機会だ。


それに……!あのコズミック7の体力測定並びにナギのちょっとかっこいい所が見られそうなイベントに参加しない理由は存在しない!


「……あーもう、またニヤけてるし……」


凛太郎は私の緩んだ顔を見て呆れたように笑った。

そしてふいに時計を見やると

「ごめん、もう行かなきゃ」

と言って立ち上がる。


時刻を見て、というよりは……通知を見て動いたような、そんな挙動だった。


「ああ……ごめんなさい、今日くらい私が払っておくから出ていいわよ。」


「まじ!?助かるー……今度返すから!それじゃあね。」


凛太郎はそう言って焦ったように部屋を出る。


(あ……灰原さんのこと聞けなかったな。)


私は凛太郎を見送りながら、そんなことを考えていたのだった。


★ ★ ★ ★


凛太郎はリリアと別れた後、灰原の家を尋ねインターホンを押す。

すると、少しやつれた様子の灰原が凛太郎を迎え入れた。


灰原の部屋は汚くもなかったが非常に簡素で、寝る場所はおろか、食卓すら見当たらずテレビとラジオのみが置かれている。

その生活感の無さが彼の精神状態を表しているようで、凛太郎は少し悪寒を感じていた。


「どうだった?仲間とは……話せた?」


和室に通され、出された座布団の上に座ると凛太郎はそう灰原に切り出す。


「話せましたよ。全員もうヒーロー本部には在籍していないので、後遺症については知らない様子でした。」


「大丈夫?顔色悪いよ。本物の怪人化チップは用法用量さえ守れば身体への負担は小さいけど、差はあるだろうし……灰原君、ただでさえ寝れてないでしょ。」


凛太郎が心配そうに尋ねると、灰原はゆっくりと首を振り

「いえ、精神的な疲れですから……」

と小さく呟く。


しかしその土色の頬を見て、凛太郎は普通の状態ではないことを察していた。


「もうやめよう。灰原君せっかくかっこよくて頭もいいんだから、普通の生活に戻ろうよ。

俺がなんとかして君の所在を隠すから、プログラムが終わったらすぐにここを辞めた方が……」


凛太郎が言いかけたことを遮るように、灰原は「やらせて下さい!」と大きな声で言う。


「俺……デビューに目が眩んで……ありもしない正義を信じ込んで……結局、大した処分もなく許されて。

リリアにさえあまり恨まれてないような……気がして……

このまま本部を辞めたりしたら、きっと一生後悔する……から。」


灰原は膝に置いていた手に力を込める。


「自己満足なのはわかってる。だけど一瞬でも……自分はヒーローだったんだって思える何かを成したいんです。」


そう語る灰原の脳裏には、本物のバラを愛しそうに見つめるリリアの姿が浮かんでいた。


「……わかった、でも無理はすんなよ。俺が『もうやめろ』って言ったら素直に手を引くのが条件。

それを守れるならまだ続けようぜ。」


凛太郎が灰原の肩に手を置きながら言うと、灰原は「はい!ありがとうございます。」と元気に返事をする。


(まるで、自分を見てるみたいだ。)


凛太郎は灰原の浮かべる笑みにどこか痛々しさを感じながら、そう心の中で呟いたのだった。

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