勝ち筋
私は少し息を飲むと、
【ごめんなさい、今度いつ予定取れる?今からでも私はそっちに向かえるわ!】
と返信する。
するとすぐに既読が付き、
【今事務所だし助かりはするけど、忙しかったらメッセージでもいいよ。】
と返ってきた。
【いいえ、あなたより私が忙しいなんてことはないわ!どこにいる?すぐにそっちに行くから!】
それを打ち込むと、すぐに凛太郎から【ちょっとそこで待ってて】と返信がくる。
(ここで……?)
不思議に思っていると、程なくして研究室の扉が開き凛太郎が入ってきた。
「おっすー!あれ、なんか初めましての人がいる!」
「凛太郎!?何で……」
「受付の人がリリアが研究室にいるって教えてくれたんだ。
あと呼び方、違うっていつも言ってるでしょ。」
私が立ち上がりながら名前を呼ぶと、凛太郎にそう言い捨てられ恐縮してしまう。
(そっか、事務所では親しげにしちゃいけないんだっけ……)
「すみません、ブルーさん……」
「ブルーくん、リリアを迎えに来たのかい?」
ロクタがブルーの顔を見上げながら言うと、凛太郎は笑顔に戻り「まあね」と呟く。
そしておもむろに手にぶら下げていた袋を机の上に置いた。
「これ、クッキー!グリーン先生甘いもの好きっしょ?」
「ああ!助かるよ!コンビニでは中々食べられないタイプのしっとりしたクッキーが好きなんだ。」
ロクタは袋の中を覗き見たあと、満足そうな笑みを浮かべる。
(この2人、接点あったんだ。……まあ、メンバーだしそりゃそう……か。)
ロクタの反応を見届けたあとで、凛太郎はシノに向き直り
「初めまして、コズミックブルーこと青木凛太郎です!」
と挨拶をした。
……しかし、シノは少し怪訝そうに目を細めるばかりで挨拶を返さない。
「あ……ごめんなさいね!ちょっとシャイな人なのよ!それより報告したいからカラオケ行きましょ!」
私が凛太郎の背中を押しながら言うと、ロクタはどこか心配そうに、シノは怪訝そうにそれを見送っている。
(シノはともかく、ロクタの様子もおかしい……?)
私は不思議に思いながらも研究室を後にしたのだった。
カラオケに向かう途中、ミカゲさんとすれ違う。
「ああ、花岡君じゃん!」
「ブルーさん……赤松さんから、お話はかねがね。」
凛太郎が挨拶をすると、ミカゲさんは意味深にそう返した。
(赤松さん?どうして今その名前が……)
「そして真理……リリア!今日も会えて嬉しいよ。シノと話していたのかい?」
「ええまあ。ミカゲさんは今日も研修に来てなかったけど、もしかして今日も……」
私が青い顔で尋ねると、ミカゲさんは困ったように笑いながら
「いや、流石の俺でもそう毎日は戦えないよ。
赤松さんに呼び出されたから話していたんだが、丁度終わった所でシノに呼び出されてね。」
と言う。
(シノに……?)
私は少し前の会話を思い出す。
『あー、なら知り合いにいるぜ、今呼ぶから待ってな。』
(グレイをこれから呼ぶ……って……!まさか!)
私はバッと顔を上げ、ミカゲさんの顔をまじまじ見る。
「な……何かな?あまり見られると……その……」
ミカゲさんの頬は灰色どころか赤く染っているが、ウリュウや私のように覚醒してから見た目に変化が出る異星人もいる。
もしかしてミカゲさんも……覚醒したら少女漫画のヒロインばりに目が大きく……?
「ほら、花岡君今忙しいみたいだしあんまり引き止めちゃ可哀想でしょ。そろそろ行こうリリア。」
私が考えていると、凛太郎が言いながら無愛想に手を引く。
「あっ……ああ、またねミカゲさん!」
ぽかんと口を開けて不思議そうにしているミカゲさんにそう言うと、私は凛太郎の後を追いかけた。
★ ★ ★ ★
「あはははははは!はらいてー…!」
私はカラオケに着くと、先程どうしてミカゲさんをじっと見ていたのか凛太郎に尋ねられ……理由を説明したら、腹を抱えて笑われてしまった。
「な……何がおかしいのよ……笑うのは説明してからにしなさい!」
「肌が灰色で目が大きいって、これのこと言ってんでしょ?」
凛太郎は涙を拭いながらスマホの画面越しに「グレイ」の姿を見せてくる。
「あ!そうよこれ!ミカゲさんもまさかこんな感じに……?」
「違うって、これ宇宙服らしいよ。だいぶ昔の型だけど……
初めて異星人が降り立った時にこの宇宙服を着てたから、リリアみたいにこれが本体だって勘違いした人が『グレイ』って呼び始めたんだって。」
宇宙服、ということは……この中に人が入ってるということ……?
私はようやく勘違いに気付き顔を熱くする。
(だって……!前世ではあの姿が本体って扱いだったんだもん……!)
「グレイは異星人の中でも割と普通っていうか……見た目に地球人とそんなに変わらない種族みたいだよ。
勉強になったね、リリア〜」
凛太郎はそう言うと、また思い出したように吹き出す。
「はいはい、教えてくれてありがとうね……」
私が口を尖らせながらそう返すと、少し落ち着いた頃に凛太郎が
「……それで、グリーン先生との戦闘はどうだった?」
と尋ねてくる。
「あ……えっと……また、負けたわ……」
視線を落としながら言うと、凛太郎は頬杖を付きながら「そっか、勝てるビジョンは見えてる?」と追加で質問を投げた。
「そう……ね。見当は付いてないけど、どういうところが強いかはなんとなくわかった!
彼は非常に反射神経が高く、加えてパワードスーツにより焔並の身体能力を手に入れている。
非常に手強い相手だと思うわ。」
言うと、凛太郎は満足気に頷く。
「確かにそうだね。彼のパワードスーツは公式にも装備品と認められているし、グリーン先生はゆかり譲りの対処力と反射神経を持ってる。
でもタイプとしてはフユキに近いかもね、彼はああ見えて戦闘では感覚で動いてるから。」
――確かに、ロクタは攻撃のレスポンスを即座に行っていた。
つまり長く思考を挟まないタイプだ。
感覚で動いてるということは……フユキと弱点が似ている……?
五感を遮ったり、地形等に手を加えて混乱を誘えば勝てるかもしれない。
「……あの……さ、凛太郎。例えばだけど、模擬戦のルールを大幅に変えることとかって……できるのかしら?」
唐突に出てきた私の質問に、凛太郎はぱちくりと目を瞬かせる。
「どしたの急に?そんなにグリーン先生との戦闘がしんどかった……?」
「ち、違うのよ!例えば特別に自分の武器の持ち込みを許可してもらったりとかは可能なのかなって……!」
凛太郎は少し首を傾げたあと
「んー……相手にもその分フェアな条件を課せば通るかもね。何を使う予定?」
と問いかける。
少し息を吸うと、私はしっかりと凛太郎を見て
「……怪人化チップを……使いたいの。」
と言い放った。




