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天才と天才

灰原さんと別れた後、私は何となくロクタとシノが心配になり研究室を目指す。


(今日はシノが来るからこっちにいるって言ってたし、きっと今話してる頃よね……心配だわ、物凄い条件出されて面食らったりしてないかしら?)


シノは決して悪い男ではない。

しかしどうも第一印象が悪くなりがちで、本人の信用を得るまでは中々コミュニケーションが取りづらいのだ。

故に今回のロクタとの話し合いも少しだけ心配していた。


研究室の扉に手をかけ、ゆっくり開くと……微かに紅茶の上品な香りが漂ってくる。


不思議に思って部屋の奥に目をやると、いつもくたびれたボーダーのカットソーに白衣のシノが、ガチガチのスーツを着てロクタと優雅にお茶を嗜んでいた。


「あれ……話し合い、もう終わったの?」


挨拶も忘れ、言いながら2人の元に歩いていくとロクタとシノはこちらに気付きすこし目をやる。


「おう、元々ウリュウから手を貸せとは言われてたからな。」


あのシノが、今日はやけに素直だ……一体どんな話し合いをしたのだろう?

ふとロクタを見ると、彼は彼でいつもの落ち着いた様子ではなくニコニコと嬉しそうにお菓子をつまんでいた。


「須藤君、君のお陰でシノザキ氏が僕の研究に協力してくれることになった!感謝するよ!」


お菓子を飲み込むと、ロクタがご機嫌に言い放つ。


「何言ってんだ、俺は別にリリアに言われたから協力を決めた訳じゃねえ。」


シノは無愛想に言うと紅茶を呷った。


「あの、シノザキ氏も良かったらケーキ食べて下さい!」


「この見た目の男が甘いもんなんか好むと思うか?お前が食べていいぞ。」


シノが頬杖を付きながら言うとロクタは「それは失礼」と言いながら嬉々としてケーキに手を伸ばす。


(何かっこつけてんだか……甘いもの大好きなくせに。)


私が少し笑いながら心の中で呟くと、シノはギロリとこちらを睨んだ。

その様子を見て異様に思ったのか、ロクタが焦ったように口を開く。


「あ、あの……シノザキ氏、伺いたいのだが!

異星人化を打ち消すワクチンを作るとなったら、あなたであれば設計を思いつくのだろうか?」


ロクタが尋ねると、シノは難しい顔で

「ああ……そりゃ現時点じゃ無理だ。」

と言い放つ。


「そうなの!?だってあなた、作りたいものの設計がわかるって能力じゃ……」


「万能じゃねえんだよ、薬とかの話になれば余計にな。

俺の能力は……例えば、空を飛びたいってなった時にそれをする為の発明を思いつくって『物』を開発すんのに適した能力なんだ、

だが薬ってなると話が変わってくる。」


「そうなの?」


「風邪の薬とか、解毒薬なら材料さえありゃ作れるが……未知のウイルスとか解明すらされてねえもんを打ち消すことは難しい。」


「つまり、怪人化が如何にして発現しているかの仕組みを理解しないことには打ち消す薬の作り方を思いつくのも難しい、と。」


ロクタが補足すると、シノは「そういうこった」と返事をした。


「なら、ロクタはチップの作者なんだし怪人化の仕組みならわかるでしょ?シノにその仕組みを教えれば……!」


私が言いかけると、ロクタはバツが悪そうに俯く。


「それが……父の手が加わって、怪人化の仕組みがかなり複雑になっているんだ。

僕もまだ解析の途中で……」


そう言いながら肩を落とすロクタ。


「なら、最初にやることは解析だな。

どこまで進んでるんだ?」


シノが尋ねると、ロクタは

「半分くらいといった所でしょうか……正直未使用チップや被験者のデータが少ないので手探り状態です。

被験者に名乗り出た人も、いましたが……」

ロクタはそこまで言いかけて口ごもる。


「被験者に名乗り出たっ……て、え……怪人化してるヒーローがいるってこと?」


「いいや、未使用のチップを自分に使って欲しいと、そう申し出た人がいたんだ。

しかし倫理的にそれは厳しい。

だから異星人の研究を並行して行い、種族ごとにワクチンを作るのが現実的だろう。」


未使用チップを使って欲しいと申し出るなど、余程覚悟が決まっている人間に違いない。


(一体誰がそんなことを……?)


気になりつつも話は進んでいく。


「なるほど、ならまずは研究だな。1番地球人から人気があるのはどの種族なんだ?」


シノが尋ねると、ロクタは顎を抑え

「最もポピュラーな、『グレイ』という種族が1番多いのではないでしょうか……?」

と口にする。


(グレイ?肌が灰色で目の大きなあの……?ブラックホール団にはいなかったけど、外には案外沢山いたのかしら……)


「あー、なら知り合いにいるぜ、今呼ぶから待ってな。」


シノは言いながら携帯を取り出し誰かと連絡を取り始めた。


「ええ!?」


私はシノの言葉に思わず声を上げる。


「んだよでけえ声出して……」


「ご、ごめんなさい!続けて!」


(シノってグレイの知り合いいるんだ……)


私が言うと、シノはまた携帯に目線を戻しまた何かを打ち込み出した。


「……えっと、そういうことだから……暫くまた僕は研究に戻るが、再戦を希望する場合は声を掛けてくれ。」


ロクタは少し凛太郎を気にした後こちらを見ながらそう言い放つ。


「あっ……ああそうね!準備ができたらすぐにでも声をかけるわ!」


元気に言うと、ロクタは顔を伏せ、ふいに

「……すまない……」

と呟いた。


「何よ急に……どうして謝るの?」


「元はと言えば僕の発明が引き起こしたことに君を巻き込んでしまって……君は君でやることがあるようだったのに。」


私は少し黙り込み、ロクタを見ると

「違うわ、今世間で問題になってる怪人化はあなたのせいで流行った訳じゃない。

あなたの発明に悪意ある改変をして……それを売った人のせいよ。」

と言い放つ。


「それは……でも……」


「よく聞いて、こんなに若いのに一時的とはいえ体を作り替える物を作れるなんてあなたは凄いわ。

それだけじゃない、パワードスーツだって凄い発明だと思ってる。

……あなたの発明は凄いの、もっと誇っていいくらいね。」


言うと、ロクタは

「それを言ってくれたのは……君で3人目だ。」

と恥ずかしそうにはにかむ。


(そっか……良かった、彼の周りにちゃんと理解者がいて。)


「それにシノも言ってたでしょ?シノが協力を決めたのはウリュウに言われたからで私は関係ないの。

だから……謝らなくていい。

負い目とか無しにまた戦いましょ!」


言い切ると、私はロクタに拳を差し出す。

ロクタは戸惑いながらその拳をそっと突き合わせた。


そこで、私の携帯がピロンと鳴る。

少しロクタに断ってから画面を見ると、

「報告、忘れてるでしょ。」というメッセージと共に炎を背にした黒猫のスタンプが倫太郎から送られてきていた。


「あっ」


(そうだ……!ロクタと戦ったあとに報告するって話だったのに何の報告もしてないじゃない!)


震えた指先を画面に置きながら、どうしたものかと必死に考えていたのだった。

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