衝突
アンナに連れられ研修室まで来ると、そこには焔が焦ったような表情で立っていた。
「リリア!概要は聞いてる?」
「アンナから聞いたわ。……なんだか、凄いことになってるみたいね……」
答えると、焔は困ったように笑いながら
「花岡君……最近やけに野望に燃えた目をしてるなとは思ってたけど、まさか一人で怪人組織の迎撃をしてしまうとは、凄いことするよね。」
と口にした。
「来てすぐに制圧したって報告があるから、来ることを予めリサーチした上で迎撃してるみたい……
昨日今日休んでたのもきっとこの為だったんだね。」
アンナも焔に続く。
ミカゲさんはやけに裏で動く人だとは思っていたが、まさかここまでのことを誰にも悟られず成し遂げてしまうとは。
「今トップと花岡君が話し合いしてるらしいんだけど…もうそろそろこっちに戻ってくるみたい。
別に悪いことした訳じゃないから怒る理由もないんだけど、説明くらいは欲しいでしょ?
リリアもここで一緒に待とう。」
そう言って焔は私とアンナに座るよう促すと、携帯で誰かと連絡を取り出した。
(忙しそう。まあそれもそうか。これってかなりの大事だもんね。)
心配しながら焔を見つめていると、アンナが私に一言「ねえ」と声を掛ける。
彼女は期待に満ちたような、そんな顔をしていた。
「これでリリアがこそこそ正体隠してここにいる必要、無くなったって思わない?思う存分ここで頑張れるね!」
アンナは言いながら二カりと笑う。
確かに彼女の言う通りだ、ブラックホール団がヒーロー本部と提携すれば私もかなり動きやすい。
ナギ救出にまた一歩近付いたとあって、私も嬉しくなりアンナに笑みを返した。
暫く待っていると、焔が目を見開いた後で私に「リリア、ヒーロー本部に行こう」と声を掛ける。
「な、何で急に……」
「話し合いが少し難航しているみたい。一緒に行って君も話し合いに参加して。
……佐倉さん、ここまで付き合わせて申し訳ないんだけど……」
「大丈夫です、私じゃ聞けない話なんですよね!」
アンナは元気にそう返事すると、私の耳に顔を近付け
「いい結果報告期待してるね。」
と囁いた。
私はアンナに別れを告げると、焔と共にヒーロー本部へと向かう。
(一体どんな話をしてるんだろう……)
少し緊張しつつも、覚悟を決めて焔の後を追った。
………
ヒーロー本部の最奥部まで歩いて行くと、重そうな扉の奥で何名かの大人の話し声が聞こえる。
(あ……ウリュウの声もする……来てるんだ。)
焔がゆっくりと扉を開けると――
広々とした、それでいて重厚な作りの部屋が目の前に現れる。
まるでSF映画で見たような、近未来的な見た目の部屋に似つかわしくない軍事的な旗やトロフィーが飾られた部屋は、いかにも「最高司令室」という名前にぴったりの様相だった。
部屋にはミカゲさんとウリュウ、その後ろでSPのように佇むシノ……
そしてそれに向かい合うように青柳さんと見たことのない黄色い派手なスーツを着た色黒の男性が立っており、部屋の奥では赤松が眉間に皺を寄せながら座っていた。
「思ったより大勢で話し合いをしていたんですね。」
焔は言いながら、緊張感の張り詰めた部屋に悠々と入っていく。
私も戸惑いながらそこに足を踏み入れた。
「当たり前だ、こんな決断は前代未聞だろう……!赤城君、なぜ君はそんなに落ち着いていられるんだ!」
青柳さんが険しい顔で言い放つ。
どうやら彼はあまりブラックホール団との提携に前向きではないようだった。
「いい加減折れなって~、青柳君だけ渋ってるせいで話し合いが終わんねんだよ……おじさんのこと、暇人とでも思ってるの?」
黄色いスーツの中年が、ひょうきんかつ威圧的に青柳さんに言う。
副本部長である青柳さんにこれだけの口を利けるのだ、この黄色いスーツの男もかなりの重役と見ていいだろう。
青柳さんは彼の態度に少し気圧されながらも、意見を続けた。
「……数年前の、『異星人は徹底的に殺せ』という姿勢、私はあれに猛反対してきました。
しかし、今回の『提携』は容認しかねる!異星人組織とは付かず離れずの距離感を守るべきだと思います。
それこそ、こうなる前に被害を被ってきた異星人組織に対する態度にだって矛盾が生じるでしょう。」
青柳さんの言っていることは至極真っ当だ。
確かに3年前の状況から考えれば、今回の提携は今までの姿勢を覆す判断のように思える。
今回の判断を下したのは……赤松か黄色いスーツの男性、どちらかなのだろうが。
一体どういった心境の変化なのだろうか?
「……君の言うことは最もだ。それに関しては私に大いなる責任があると考えている。
3年前の私は……少し行き過ぎた判断をヒーロー達に下していた。
今更提携などと虫が良すぎることも理解している。」
赤松は深く眉間に皺を刻みながらそう言って宙を睨む。
「ならば……!」
「しかし、今回異星人組織の協力を得ようとするのには、事情がある。
あまり彼らの前で言うのも失礼かもしれないが……」
赤松が言いかけた所で、ウリュウが涼しい笑みで「構いません」と言い放つ。
「私が異星人組織の力を借りたいのは……近年問題になっている『怪人』の件があるからだ。」
「怪人……」
赤松の言葉を聞いて、青柳さんは少し目線を落とす。
「今怪人チップについて一番研究を進めているのは現コズミックグリーンの笹木緑太君なんだが……
彼が言うには、怪人化を打ち消すワクチンを作成するには異星人の研究を並行して行う必要があるらしい。
捕まえた異星人に協力を仰いでも種族に偏りがあり、限度がある。
ならば比較的友好的な組織と提携し、研究に協力してもらうのが良いと考えた。」
「し、しかし……それならばブラックホール団も種族に偏りがあるのでは?」
青柳さんの問いかけに、ウリュウが穏やかな笑みで
「3年前討伐した『ネメシス』の多くはブラックホール団にて収容し、監視しております。
彼らは様々な組織が寄せ集まってできた団体ですので実に様々な種族が在籍しておりまして……必要であれば彼らに協力を仰ぐことも可能ですよ。」
と答える。
「そういうことで、一時的にでも協力するのはありでしょうよ、話は終わりでいいかい?」
金色の腕時計を見ながら黄色いスーツの男が言うと、青柳さんは「まだあります!」と声を上げた。
そして私の方をゆっくり見ると、
「彼女は……!経歴詐称をしながらコズミック7の研究生として潜り込んだと聞いております。
彼女だけではない、今回ヒーロー本部を救った花岡君も同様に、経歴詐称をしてここに入って来たと小暮君が先程証言してくれました!
今回の迎撃、本当に彼の『功績』なんでしょうか?」
と口にする。
「と、言うと。」
赤松は低い声で目を光らせながら呟く。
「自作自演の可能性もあると言いたいのです。本当に友好的ならば、黙って潜入する理由なんてない筈だ!
私達は騙されていて、異星人組織が内部に入り込むのを今、許してしまっていると……そうは思いませんか。」
青柳さんの訴えに、私の足が震えだす。
やはり、問題になってしまったか。
いつかは追求されることだと覚悟はしていたし、ここに呼ばれた時点で嫌な予感もしていた。
しかしこんなタイミングで足を引っ張ってしまうとは……
(私が護衛を頼んだせいで、ミカゲさんにまで疑いの目が向いてしまった……!何て返そう?なんとかこの話し合いを収束させないと、組織に迷惑が……!)
迷っていると、隣にいた焔が穏やかな声で「大丈夫」と呟き、こちらに笑いかける。
私はその笑みを見て、少しだけ心がふわりと楽になるのを感じていた。
【定期】
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