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嵐の前

凛太郎達が医務室から出ていった後で、残された私、ロクタ、ナギ、フユキの4人はどこか気まずいままに沈黙していた。


(根拠もなく「嘘だ」なんて言い切ったりして……悪いことしたかしら。

凛太郎には私もお世話になっているのに……)


程なくしてフユキが「あっすみません……!俺もう定時みたいなので上がります!」と声を上げ医務室を出ていくと、ナギも「僕も仕事に戻るね」と言って医務室のデスクと向き合い始めた。


「……そうだ、須藤君。この前の話だけども……」


少しナギを見つめた後で、ロクタが口を開く。


「えっ?えっと……どの話かしら。」


「模擬戦の件だよ。研究も一区切りついたし、良ければ明日1戦やらないか?体を動かしたいんだ。」


「本当!?やるやる!明日の研修後でもいい?」


「いいよ、暫くは暇だからね。」


(やった!これで5人目に挑戦できる……!)


私は心の中でガッツポーズを決めると、意気揚々と医務室を出たのだった。


★ ★ ★ ★


――翌日、事務所内にあるロクタの研究室に足を運ぶと気怠そうにホビー雑誌を読みながら何かのプラモデルを作成しているロクタの姿があった。


「ロクタ、約束通り来たわよ!……何作ってるの?」


「史上最高のヒーロー、3代目レンジャーグリーンだ。彼はスーツを改造していたので他よりも重厚な隊服を着ていてね。凄くかっこよかったのだ。」


(ちょっと大人っぽい振る舞いをいつもしているけど、この子もこういうので遊ぶことあるんだ。)


私はヒーローのプラモデル作りに浮かれているロクタが可愛くて、少しその様子が微笑ましく思えた。


少し箱に目を落とすと、そこに「遺伝子学からヒーロースーツの設計まで、多岐に渡る発明を生み出した笹木八角の……」という文言が記載されていることに気付く。


(笹木……あれ、ロクタと同じ苗字……でもまあ珍しい名前でもないし偶然かな?)


「どうした?プラモデルを見に来た訳じゃないだろう。早くグラウンドに向かうぞ。」


「あ……ああ、うん。」


私は少しの違和感を覚えながらもロクタに促され研究室を出た。


……


「なあ、賭け事をしないか」


グラウンドに着くなりロクタが自信ありげに言う。


「ヒーローが賭博でもするつもり?」


呆れたように返すと、ロクタは首を振りながら

「賭けるのは情報だ。僕が今回勝ったら君の情報を渡して欲しい。君は……能力が『発明』の異星人の存在を知っているかな?」

と問いかけた。


(能力が発明の……異星人……?)


「裏では有名な話だ。名前は『シノザキ』、彼はこれを作りたいと考え付けばすぐにそれを作るための公式を思い付ける。

彼の作品はあまり地球で流通しないので異星人なのではないかとまことしやかに囁かれているのだが……」


シノザキ……まさか、シノのことでは?

能力がふたつあることも発明が得意なのも知っていたが、能力自体が発明だったとは驚きだ。


「その様子だとやはり知っているようだな。僕が勝ったら彼の情報……ないし、知り合いであれば紹介して欲しいのだが。」


「それ、教えないと戦ってくれないわけ。」


「勿論だ。」


あまり組織を巻き込むようなことは避けたいのだが……

しかしこの作戦は今私が何よりも優先すべきもの。

灰原さんの件で周りに迷惑をかけた分、覚悟を持って挑まなければならない。


私は少し悩んだあと、ロクタの申し出を了承した。


(負けなければいいんだから……!)


そう心の中で言い聞かせ、カメラをセットする。


「……よろしくお願いします!」


「よろしく頼む」


挨拶を終えると、ロクタの周りに黒いプラスチック片のような何かが集まりだし……あっという間に目の前の少年が大男になってしまった。


「あー!ヒーロースーツは着ちゃダメなのよ!」


「これはヒーロースーツではない。『パワードスーツ』だ。

僕は14歳のいたいけな少年だからして、大人と戦うにはそれを補う為の補助が必要でね。

公式の見解によれば、これは『服』なのでルールは破っていない。」


(そんなのってあり……!?)


「因みにこのパワードスーツを作る際レッド隊長の筋力や体格を参考にさせてもらった。

まさか、小柄でか弱い男の子を歳上のお姉さんがボコボコにするつもりだったわけではないよね?」


バカにするように言い放つロクタを見て、私は少しムッとする。


(焔は14歳だろうと関係なく生身で大人と戦ってたのに……!)


そんなことを考えながら、私はロクタにダガーの刃を構えた。


★ ★ ★ ★


リリアがロクタと戦っている頃、フユキは駅を早足で歩いていた。

そして「何か」を見つけると、大きく口を開く。


「姉さん!」


フユキに呼ばれた女性は、フユキを見て少し恥ずかしそうに微笑む。

白い髪に白い肌の彼女は、フユキにそっくりな顔をしていた。


「急に連絡が来たからびっくりしたよ、どうしたの?今冬海道に住んでるって聞いてたのに……」


少し警戒したような様子でフユキが尋ねる。


「ちょっと色々あって東鄉(とうきょう)に帰って来たの。そしたら、まず家族に会いたくなって……真っ先にフユキに連絡入れたんだよ。

これからは定期的に会えるね。」


その言葉を聞いて、フユキはとても嬉しそうに笑う。


「東鄉のどこに住む予定!?もう引越しは済んでるの!?」


「もう引越しは終わって……今霜北沢のアパートに住んでるんだ。」


「あ!それなら俺の家から近いね!俺の住んでる寮は北千十(きたせんじゅ)だから歩いて3時間くらい!」


フユキはそう言いながら目を輝かせる。


「それ近いかな……お姉ちゃんには遠く思えるんだけど……」


「今日は食事行くんでしょ?俺ね、今テレビとか雑誌とかいっぱい出てるんだ!だから姉さんにもご馳走してあげる!」


フユキは輝くような笑顔で言う。その様子を見てフユキの姉は可笑しそうに笑った。


「声おっきいよ。ふふ……」


そして、フユキが姉の手に触れようとした時、フユキは何かにハッとして少し躊躇った後で俯く。


「あっ……ごめん……調子乗って……」


申し訳なさそうに言い放つフユキの手を、姉はゆっくりと優しく握った。


「お店、行こうか。」


姉はそう言ってフユキの手を引く。

フユキは暫く呆然と握られた手を眺めた後、少し泣きそうな、それでいて本当に幸せそうな顔をしながら「うん!」元気に返事をした。

ストックが無いので毎日同じ時間に更新は難しいのですが、定期的に上げて行きます。

少し穴が空いたらすみません。


【定期】

最近の活動報告にて、この作品の挿絵についてのアンケートを実施しております。

もし良ければご参加お願いいたします。

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