ヒーローになりたい
「罪を暴くって……どうする気なの?」
「エリヤさんのやったことを調べて、大勢に公表するとか!灰原君の言ってることを証明できれば少なくともヒーロー本部にはいられなくなるはずです。」
フユキはそこまで一息に言い切ると、灰原さんを見る。
「灰原君、一緒にやりませんか?」
「えっ……」
灰原さんはフユキの言葉に、目を大きく見開いて固まってしまった。
「だってほら、灰原君はエリヤさんからチップを渡された張本人ですし…証言とかしてくれたら話がスムーズになるなって。」
「な…何のために……そんな……」
「何のためってそりゃ……灰原君だってヒーローを目指してここに来たんでしょ?
正義のためにやるんです。」
「お、俺は……もう雑用係なんですよ?今更ヒーローを目指してどうとかは……」
しばらくフユキと灰原さんの応酬が続き、ナギが止めに入ろうかどうか迷った様子で2人を交互に見ていた。
そして、ナギが口を出そうと口を開いた時
「雑用係だってヒーローにはなれるじゃないですか。」
フユキが、心底不思議そうな顔で言い放つ。
「だ……だって、もうデビューは……」
灰原さんはそれを聞いて、喉の奥から掠れたような音を漏らしながら呆然としていた。
「ヒーローは、人を救う存在になった時点からなれるんです。
ヒーローデビューするからヒーローになる訳じゃないと思います。」
フユキは真っ直ぐな瞳で言う。
灰原さんはどこか後ろめたそうに俯いたあと、「……考えます。」と答えた。
「あのさ、フユキ……あんまり口出したくはないけど、エリヤさんに正々堂々ぶつかって行くのは危険だと思う。
お前には不向きかもしれないけど、もしやるなら裏でしっかり証拠を集めてから挑んだ方が……」
ナギが言いかけた所で、フユキのスマートウォッチが鳴る。
「あれ、何だろうこんな時に。」
フユキはスマートウォッチを覗き込むと、とても驚いたような顔をして黙り込んだ。
「……だ……大丈夫?」
「姉さんからだ……」
お姉さん……そういえば、以前にも少しだけ存在を匂わせていたような気がする。
しかし確か、フユキの家族は……
(フユキを拒絶してるんじゃなかったっけ?)
「あ……すみません、後で見ます。とりあえずあれですよね、証拠を集めてエリヤさんを追い詰めよう作成のチームを結成したってことで良いいんでしょ?」
「は?え、もしかして俺も入ってる!?」
ナギが真っ青な顔でフユキに尋ねる。
「えー?じゃあナギくんはエリヤさんの味方するんですか?
灰原君にチップ渡したのだってわかってるのに。」
フユキが答えると、ナギは「それは……」と何か言いかけた後で黙ってしまった。
「……勿論グリーン先生とリリア様はやるでしょ!?」
「え……ああ、まあ……灰原先輩の言うことが本当なら、エリヤを放置しちゃいけないと思うけれど……」
私はフユキの質問におずおずと答える。
「同意見だ。灰原君の言ってることがもし真実ならば協力しよう。
偽物のチップを購入するような輩は誰であろうと許さない。」
ロクタも私に続いてそう答えた。
「じゃあ2人は一旦やってくれるとして……灰原君とナギ君は前向きに検討ってことでいいですか?」
「別に前向きでもねえよ」
ナギがフユキに曖昧な答えを返すと、ふいに医務室の扉が開く。
「あれ……思ったより大勢集まってた。」
声のした方を見ると、凛太郎が医務室に入ってくるのが見えた。
「凛君……珍しいですね、医務室に来るなんて。」
「灰原君が医務室に運ばれたってゆかりから連絡受けたんだよ。
大丈夫そ?今日の更生プログラムは休みにしようか。」
凛太郎は灰原さんの元まで歩いてくると、中腰で尋ねる。
「いえ……やります。」
「オッケ。治療ってもう終わったの?」
「ああ、終わってるけど……」
ナギが凛太郎の問いに答えると、凛太郎は灰原さんを立たせた。
「了解、ありがとね!じゃあ借りてきまーす。」
そう言って凛太郎と灰原さんが医務室から出ようとした時、フユキが「待って」と大きな声で引き止める。
「凛君、丁度いい機会だし嘘かどうか判断して欲しいことがあるんです。」
「ん……何?どんなこと?」
「灰原君がさっき言ってたんです、エリヤさんから怪人化チップを貰ったって……」
フユキが言い切ると、それまで笑顔だった凛太郎の顔に一瞬、動揺の色が見えた。
「そう……それを本当か確かめろって?」
凛太郎はすぐに笑顔に戻ると、フユキにそう確認する。
フユキはそれに元気な返事をしてみせた。
「……灰原君、フユキがさっき言ってたこと……本当?」
凛太郎が尋ねると、灰原さんは静かに「はい」と答える。
そして凛太郎はそれを見てしばらく黙り込んだ後、口を開き
「嘘だよ。灰原君は嘘を吐いてる。」
と言い放った。
(また……悲しそうな顔。)
「そもそもさ、こいつがやったこと皆忘れた?真に受けんなって。
賢いフユ吉が騙されるなんて珍しいね。」
凛太郎は茶化すように続ける。
私はその様子を見て
「嘘ついてるのは凛太郎でしょ?」
と口にした。
思わず思考からこぼれ落ちた言葉に、その場にいた全員が驚愕する。
「……は……?何で俺が嘘を吐かなきゃいけないわけ……?」
私に否定された凛太郎は、震えた声でそう言い放つ。
「……凛太郎が嘘ついてる時って、私すぐにわかるの。
皆で灰原先輩の処遇を決めようとしていた時も、あなたは嘘を吐いてた。
嘘を見抜けるって能力のせいで周りはあなたを疑わないみたいだけど、私はあなたの言葉を全部は信じてない。」
言い切ると、医務室はしんと静まり返った。
「あほらし……どうせ俺が嘘ついてるって根拠も『女の勘』とか言うつもりでしょ?
俺の言うことが信用できないなら、その不確かな勘とやらで判断すんだな。」
凛太郎はそう言い捨て、灰原さんと共に医務室を出る。
「……」
私はそれを、少し複雑な心境で見送っていた。
★ ★ ★ ★
「驚きましたね、まさかブルーさんが疑われるなんて……」
リリア達から離れた後、灰原が指導室でそう口にする。
「驚いたのはこっち。何でリリアとかヒーロー達の前でエリヤちゃんのこと暴露してんのさ。」
凛太郎にそう言われた灰原は、瞳に影を落としながら「すみません」と呟いた。
「……まあでも……俺、灰原君の境遇とかって結構共感してるんだよね。
灰原君さ、俺と……禊してみない?」
「禊……?」
「味方のフリしてエリヤちゃんを騙して……失墜させんの。
ヒーロー達は多分正々堂々としか彼女に挑めないから、裏から彼女を壊せんのは、俺らだけ。」
凛太郎の提案に灰原は息を飲む。
そして、その時ふとフユキの言葉が脳裏に過ぎった。
『ヒーローは、人を救う存在になった時点からなれるんです。』
「……やり……ます。」
(デビューはできなくても……せめて、償いの意味も込めて……ヒーローに、なりたい。)
灰原はそう思いながら、拳に力を込めたのだった。
怪我、まだ痛みますがほぼ完治しました!
【⠀定期⠀】
最新の活動報告にて、この作品の挿絵についてアンケートを行っております。
もし興味があれば是非見て頂けたら幸いです




