黒幕
「脱げってば!」
医務室に着くと、扉の奥から叫び声がする。
(ナギの声だ。)
私は灰原さんを1度ロクタに任せると、恐る恐る医務室の扉を開けた。
「心臓の音聴くだけって言ってんだろ、まじふざけんな……!」
「ただの頭痛だって言ってるじゃないですか、そんな調べなくてもいいでしょ!俺人に裸見られるの苦手なんです!」
部屋の中を覗くと、医務担当者もピンクもおらず、代わりに何故かナギとフユキがいた。
そして何やらナギがフユキの服を脱がせようとしている。
「何かあったのかい?」
ロクタに尋ねられ、すこしびくりと体を揺らすと「何も無いからちょっとそこで待ってて!」と答えた。
「ちょっと、何してんのよあんたたち……」
呆れ気味に言いながら2人に歩み寄ると、ナギとフユキはいっせいにこちらを見る。
「げっ……須藤。なんだよ、怪我でもしたのか?」
ナギが怪訝に言うので、私は腕を組み顔をしかめた。
「違う、私じゃない。灰原先輩が体調不良になったからここに来たんだけど……医務担当の方はいないのかしら。」
周りを見回しても、やはりそれらしき人影は見当たらない。
「灰原君の体調なんかほっとけばいいのに。どうせ仮病なんじゃないですかぁ?」
冷たく言い放つフユキを肘で押すと、ナギは
「今外してるから俺が代わりに診てたんだ。灰原君も見ようか?」
と言ってくれる。
「助かるわ。ロクタ、入って大丈夫よ。」
扉の方へ呼びかけると、ロクタが顔色の悪い灰原さんを連れて入ってきた。
「うわっ……本当に顔色悪いですね。」
「貧血かな……?灰原君、ご飯ちゃんと食べた?」
灰原さんを座らせると、ナギが彼の顔に手を当てながら言う。
灰原さんは呼びかけにも答えず浅く息をしながらどこか宙を眺めていた。
「うーん……疲労から来る症状にも似てるかな?フユキ、ちょっと借りる。」
ナギはふいにフユキの腕を掴むと、まるで消しゴムでも借りるような感覚でフユキの生命を吸う。
「痛い痛い!気軽に俺の生命力吸わないで下さい!」
ぐったりとした灰原さんにナギが手を添えると、程なくして灰原さんの表情が和らいだように見えた。
「灰原君、平気?」
改めてナギが呼びかけると、やっと灰原さんは「大丈夫です」と呟く。
「ご飯抜いたり睡眠時間削ったりした?」
「すみません、意図的じゃないけど……中々食欲湧かないし、寝れなくて……」
弱々しく言い放つ灰原さんを見て、フユキとロクタは不思議そうに顔を見合わせた。
「言葉は悪いかもしれないが、一連の報告を聞いた限り君は正義感に従って暴走したのだろう?にも関わらずなぜそこまで追い詰められているんだい?
クビから暫く経ってその症状が出るならまだ納得できるが、その様子だとその前から食べても寝てもいないように見える。」
ロクタの鋭い指摘に、灰原さんは
「いえ……純粋に、ゲームのしすぎだっただけです。」
と顔を伏せながら答える。
「なーんか……怪しいんですよね。それ凛君もナギ君もよく言うやつじゃないですか。
話し合いの時も2人はやけに灰原君を庇ってましたよね?何か繋がりがあったりして。」
フユキの追求に、灰原さんは言葉を失い黙り込んでしまった。
その様子を見て、ナギがゆっくり口を開き
「もういいんじゃない?」
と口にする。
灰原さんは、それを聞いて大きく目を見開いていた。
「だってほら……元々俺たち、外部に対する守秘義務があるだけで内部の人間に対して明確にルールがある訳じゃないでしょ?
エリヤさんの個人的報復はあるかもだけど、灰原君にはもう落ちる立場もないしさ。
……コズミック7の事務所関係者になら話していいんじゃない?」
ナギが続けると、灰原さんは少し躊躇う素振りを見せた後で
「……俺は、司令に言われてリリアを監視してました。」
と小さく呟く。
「え……それっ……て……」
やはり、エリヤが1枚噛んでいた、ということだ。
「ああ、でも勘違いしないで下さい。別に任務を受けるかどうかの決定権がなかった訳じゃないんです。
こんなことしておいて今更『本当は辛かったんです』なんて被害者面する気はないので。」
灰原さんは言い切ると、組んでいた手に力を入れる。
「じゃあ、どうしてそんな弱ってるんです?」
フユキが尋ねると、灰原さんはおもむろにポケットから「何か」を取り出す。
よく見るとそれは、「怪人化チップ」だった。
「え……?うそ……」
私は思わず後ずさりしながら声を漏らす。
まさか、使ってしまったのだろうか?
「それ……忌々しい偽物、しかも龍族のチップじゃないか!まさか買ったのか!?」
ロクタが顔を赤くしながら言う。
灰原さんは静かに首を降ると
「貰ったんです……エリヤさんに。まだ、使用はしてません。」
と言い放った。
「貰ったって……それ……エリヤさんが怪人化チップを買ったってこと……?」
ナギは先程の灰原さんのように顔を青くしながら、震えた声で尋ねる。
「はい。しかもエリヤさんはチップの後遺症を知っていながら渡したみたいです。先週金曜日の夜渡されたので。」
何かを諦めたように言う灰原さんを見て、その場にいた全員が戸惑う。
「その頃なら間違いなく司令は報告を聞いている。
なんてことだ……!ヒーロー本部の役員が研究生にチップを渡すだなんて。」
ロクタはそこまで言うと何かを考え込み、押し黙る。
ナギは震えながら冷や汗を流していたが、程なくして崩れるように床に崩れ、膝を付いた。
「ナギ君!?」
フユキがそれに気付き、しゃがみ込むとナギに呼びかける。
「嘘だ……あの人がそんなことするはずない……だって、どんなに変わっても、エリヤさんは……」
ナギはフユキの声が届いていないようで、呆然と何かを呟いていた。
「俺、灰原君のこと信用してないから嘘か本当か定かじゃないですけど。
もし本当なら大問題ですよ。見てる限りエリヤさんから直接任務受けてるのはナギ君と凛君もですよね?
凛君はそれ、知ってるんですか?」
「俺がチップを貰ったことは話してないけど……以前、『もしチップを貰ったらすぐグリーン先生に相談して』とは言われました。
何か……知っていたのかも、しれないです。」
「だが君はすぐに相談しなかった。まさか使う気だったのか?」
ロクタが不機嫌に言う。
「入手元を話したらエリヤさんがチップを買ったのがバレますし……どう説明したものかと迷っていまして。
どうぞ、俺は使う気ありませんので研究に使って下さい。」
灰原さんはそう言うなりロクタにチップを差し出した。
「 未使用品は初めて見たな……ありがとう、研究の糧にしよう。」
ロクタは興味深そうにチップを眺めた後ポケットにしまった。
「……許せないです。」
フユキは突然立ち上がると、見た事もない程に険しい顔でそう口にする。
「え?」
「元々エリヤさんのことは個人的に苦手でしたけど、今度という今度は限界です!
……俺……!エリヤさんの罪を暴きます!」
フユキはアニメで何度も見たような、真っ直ぐな瞳でそう言い放つ。
それまでただ呆然としていただけのナギはその姿を見上げ、憧れとも悲しみとも付かない表情を浮かべていた。
現在怪我により右手が動きにくい為、次回から更新止まります。
いつも更新止まる時に限って暗い展開になってしまってすみません……
1週間程療養にお時間下さい。




