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番外編 ナギの災難 上

「お待たせー!ごめんね、待った?」


エリヤさんが上機嫌に言いながらこちらに駆け寄る。

今から備品の買い出しに行く予定とのことだったが、完璧なメイクにオシャレをして2時間遅れて出てきたエリヤさんに、俺は何と声をかけていいか分からず困惑する。


(これ、デートではない筈だよな……?可愛いは違うだろうし……エリヤさんも別の仕事終わりで来ただろうから「お疲れ様です」が正解かな。)


「お疲れ様です、エリヤさん。」


俺は爽やかな笑顔で言い放つ。

しかしエリヤさんの顔はすんっと真顔になってしまった。


(あれ……間違えた?)


「ナギくんさ……どうかな?この服。」


「えっ……あ、勿論似合ってます!」


「今日仕事もなかったから家から来たんだけどね?服選ぶのに時間かかっちゃった!」


(あれ……オフ?なのに2時間遅れたのか……?)


俺は余計な考えを振り払うと、

「通りで、いっそう素敵です!」

と笑顔で答えた。


2時間くらいどうってことはない。

女子は出かけるのに色々準備がいるって灰原君が言っていたし、そのくらいは許容範囲だ。


「ねえ、今日行くショッピングモールちゃんと予習してきたよね?」


「ええ、勿論。」


(何を買うかも暗記済みだ。)


「じゃ……さ。私に似合う服選んで?」


「………………んっ……」


おかしい、思っていたオーダーと違うぞ。

今日はバッシュとかジャージを買いに行く予定では……


「あれ、何?嫌なの?」


ご機嫌な様子から一気に鬼のような形相で睨みつけてくるエリヤさんに、俺はたじろいでしまう。


「いえ!喜んで選びます!」


一応、アパレルショップも調べておいて正解だった。

大体エリヤさんくらいの年代の女性に向けた服は2階のフロアに固まっている。


そこを適当に歩いて似合いそうな服を勧めよう。


「これとかどうですか?上品な感じが似合ってます。」


俺は適当な店に入ると、エリヤさんに似合いそうな服を見繕った。


「えー!ナギ君、こういうのが私に似合うと思ってるんだー!なんか、清楚系ってやつ?

女子に対する理想詰め込んでて可愛いー!」


エリヤさんは上機嫌に言い放つが、この反応が正解なのか不正解なのかいまいち反応に困ってしまう。


「ねぇ、こっちはどうかな?私に似合いそう?」


エリヤさんはふいに奥から取り出した少しきわどいデザインのワンピースを体に当てながら問いかけた。


「……ああ、そっちも似合うと思います。」


「どっちかな。」


「え」


俺はエリヤさんの質問の意図が分からずに声を漏らす。


「だからぁ、そっち『も』じゃなくて、どっちの方が似合うか聞いてるの。」


(困ったな……こういう時は大体本人が選んだ服を勧めるべきか。)


「……エリヤさんが選んだ服の方が、似合うと思います!」


答えると、エリヤさんは口をとがらせながら

「なんかなー、本人が選んだやつだしそう言っとこうみたいな感じだった、今。」

と口にする。


女性って難しいな……どうするのが正解だったのだろう。


「まあいいや!こっち買ってくる!あ、ナギ君が選んだやつ戻しといて。」


俺は少し軽い頭痛に苛まれながら服を元の場所に戻した。


……


「ナギ君、どこ食べに行きたいとかある?」


「エリヤさんの食べたいところにお付き合いしますよ。」


「何で……?」


エリヤさんは不機嫌そうに尋ねてくる。


(何でって……何だ?)


「え、今日このショッピングモールに行くことは伝えてたよね。

どこ回るかとか、全部私に任せる気だった?」


爆発寸前のエリヤさんを安心させようと、俺は微笑みながら

「違いますよ、そんな訳ないでしょ?俺が意見していいのかなって思っちゃったんです。」

と言う。


「なんか……気まずくなると思って……我慢して、言えなかったんだけどさ……なんか、一緒に楽しむ気ないのかなって。」


「まさか!エリヤさんといる時はいつも楽しもうと全力です。」


「全力出さないと楽しくないってことぉ……?」


「………………」


震えるエリヤさんを見て、もう帰りたいなと思う気持ちが湧いてきたがなんとか抑えて俺は笑顔を保つ。


「そうじゃなくて……ほら、素敵な時間を精一杯過ごしたいって意味です!

……そうだ!俺パスタが食べたいなぁ!

このお店オシャレなんですよ、行きません?」


言うと、エリヤさんは機嫌を直したかのようにニコニコと笑い

「そうなんだ!あ、でも私パスタ苦手なの。」

と返す。


「あー……じゃあ」


「なんかさ、しゃぶしゃぶの気分じゃない?食べたいよね?」


「はい!」


(結局決まってたなら何で選ばせたんだ……)


ご機嫌なエリヤさんの後ろで、俺は頭を抱えながら思考を巡らせていた。


★ ★ ★ ★


(昨日は酷い目に遭った。)


翌日、俺はため息を吐きながら事務所の廊下を歩いていると、エントランスで佐倉さんと話している須藤を見つけた。


「ねー、行きましょうよ!このヒーロー映画すっごくすっごく楽しいのよ!?」


(へぇ、須藤もそういうの見るんだ。俺ヒーロー映画好きなんだよな……あれ、丁度見ようと思ってたやつ。)


俺は盗み聞きなんてだめだと思いつつ興味のある話題だったのでつい耳を傾けてしまう。


「えー、パス!私フィクションのヒーローには魅力感じない派。」


「そう……残念。」


「今度男性アイドル主演の超エモいやつあるからそっち今度見に行こ!じゃあ私仕事あるからこれで!」


須藤は佐倉さんをしょんぼりと見送りながら手を振っている。


「……なあ。」


「うわっ!いつからいたの!?びっくりした!」


俺が声をかけると、須藤はまるでうさぎのように跳ねる。


「……その映画、俺も気になってたんだ……けど……?」


ぱちくりと目を瞬かせる須藤。


「……そう。面白そうよね!」


「明日……丁度休み……だから……行こうと思ってん……だよなあー……」


「いいわね、楽しんできて!」


そう言うと、須藤はどこかに去ろうとした。


(何故だ……!イケメンが同じ映画を見たいって言ってるんだから、そこは一緒に行こうって流れになるだろ!)


「まっ……」


「……あれ、私もしかして今誘われてた?」


呼び止める前に、須藤が振り返って尋ねる。


「あっ……まあ、一緒に行ってあげてもいいよ!俺隣の映画館のプレミアム会員だからちょっといい席取れるし……」


目を逸らしながら言うと、須藤は笑顔で「そう!なら見に行きましょ!」

と答えた。


「予約、お願いしてもいい?」


「うん、取っといてやる……」


「楽しみね!また明日!」


須藤はそう言うと笑顔で帰っていった。


(……楽しみ……まあ、そうだよな。コズミックブラックと映画に行けるんだし。)


「おっすー、お疲れ。」


ふいに通りがかったゆかりが、俺の顔を2度見する。


「うわっ、なんでそんなにやけてんの!?」


ゆかりに言われ、俺は自分の顔に触れた。

口元は緩み、頬は熱くなっている。


「……いや、ちょっと思い出し笑いを……」


俺は言いながら、必死に顔を引き締めたのだった。

【⠀定期⠀】

最新の活動報告にて、この作品の挿絵についてアンケートを行っております。

もし興味があれば是非見て頂けたら幸いです。

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