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リプレイ

ナギはお返しに私に海水をかけると

「俺はブルベ夏だから、黒髪より茶髪が似合うんだ。

ついでに俺の見立てで行くとあんたもブルベ夏だ、黒髪よりもネイビーやグレーが似合う。

昨今のヒーロー業界はビジュアル命なんだから少しは勉強したらどう?」

と言い返した。


「あと、あなた達ヒーローはいちいちデートにお金かけすぎなの!たっかいケーキに移動は全部タクシーなんて金銭感覚おかしいわよ!」


ナギに言い返された悔しさで今度は手で水をかけると、彼は顔を引き攣らせながら

「金にものを言わせるのは紳士の嗜みだ!普段は節約してるから問題ない!」

と答え私に水をお返しする。


「笑顔作りきれてないのも一人称がたまに変わるのも中途半端ね、やるなら徹底的にやったらどうなの!」


「やってるよ、あんたにだけ手を抜いてるだけだ!

ぱちぱちアイスで満足しているようなお子ちゃまに全力で王子を演じ切るなんて勿体ないからな!」


私たちは暫し喧嘩しながら水をかけ合うと、疲れで息をあげる。

そして、ナギは少し息を整えた後

「……だから、もうあんたには優しくしてやんない。

どんなに俺がかっこつけても灰原君ばっか気にするわレッド隊長といる時の方が楽しそうだわで意味ないからな。」

と呟いた。


「後半は間違ってるわ、私は焔といても別に楽しくないから。

……やだ、暗くなってきた……そろそろ本当に帰らなきゃ!ナギ、話はまた今度……」


言いかけた所で、ナギは焦ったように私の腕を掴む。

突然のことに体が反応できずに、私はバランスを崩して倒れ込んでしまった。


ばしゃん、と水の音がして、私はゆっくり目を開ける。

すると、私に引っ張られたまま一緒に倒れ込んだナギの姿が目の前に飛び込んできた。


……なんだか、いつかの再現みたいだ。


(って!そんなこと考えてる場合じゃなかった!)


私はハッとしてナギに謝罪する。


「ご、ごめんなさい!クリーニング代出すわ!」


「いいよ、急に腕掴んだ俺が悪いんだし。」


私の上体をゆっくり起こしながらナギはそう口にした。


「えっと……まだ、やりたいことがあったの?元、まだ取れてない?」


尋ねると、ナギは少し私を見た後で

「いや、そういう訳じゃないけど……反射的に掴んじゃった、ごめん。」

と、言いながら顔を赤らめる。


自分でも分かっていない感情で行動するなんて、いかにもナギらしい。

高そうなブランド服をびしょびしょに濡らして小さくなっているナギが急に愛らしく見えて、私は思わず声を上げて笑ってしまった。


「……須藤さ……」


「あ、ごめんなさい!失礼だったわよね。違うのよ、バカにしたかった訳じゃなくて……」


言いかけた所で、ふいにナギの手が私の顔に触れる。


「やっとしんどそうじゃなくなった。」


ナギはそう言って優しく微笑んだ。


私の顔もそれに釣られたように綻び、そして涙が頬を伝う。


「は!?何で泣くんだよ!」


「……嬉しかったの。」


びしょ濡れになったナギの胸に頭を寄せ、私はどこか安心していた。


――良かった、この人は……ちゃんと、「ナギ」なんだ。


ナギは何がなんだかわからないと言った様子でで私のことを見つめた後、

「……なあ、何であんたは『俺』がいいの?皆から好かれる俺より、口が悪くて、陰気で、潔癖症のつまらない俺といて……嬉し泣きまでするんだよ。」

と尋ねてくる。


「私は、『優しくしない』とか言っておいて結局優しいナギが好き。」


言うと、ナギは何も言わずに立ち上がり海から上がった。


「……着替え買いに行ってくる。」


一切こちらを見ずに言うナギの耳は、真っ赤だった。


「ナギ!」


私は立ち去ろうとするナギをふいに呼び止める。

ナギは何も言わずに立ち止まった。


「……迎えに行くから。絶対……絶対、貴方を連れ出してみせる。」


その言葉が聞こえた聞こえなかったのか……ナギは何も言わず静かに去っていったのだった。


★ ★ ★ ★


「それで、帰りが遅くなったと。」


帰宅すると、キッチンに立っているミカゲさんが落ち着き払った様子で言う。

しかしその目は笑っておらず、こちらを一切見ようとしていない所から若干の怒りを感じさせる。


「……ごめんなさい……」


「いや、いいんだ。真理愛が無事で良かった……しかし時期が時期だろう?あまり心配させないでくれ。

ヒーロー相手でも油断しないこと、いいね。」


ミカゲさんはそう言って私に微笑みかけると「ご飯にしようか」と言って作ってくれていた料理をテーブルに並べた。


……


「そう言えば、2日後に渋矢に行くことになっていたが、準備は大丈夫かい?」


食べ終わった後で、ふとミカゲさんが口にする。

……明後日は、ウリュウとの婚約を解消するとお父様に説明しに行く予定だ。


「ええ、休みも取ったし問題ないわ。なんてお伝えするかも考えたし、ウリュウへのお祝いの品も用意済み!明日渋矢に行くことになったって対応できるくらいよ!」


笑顔で言うと、ミカゲさんは少し悲しそうに「そうか」と呟いた。


「そうだ、ミカゲさんにも見て欲しいの!ペア用の花束とー……今地球で流行ってるミサンガ!アンナが教えてくれたの、一緒に身に着けるとずっと一緒になれるならしいわ!

ウリュウはこういうの付けそうにないけど、一応買ってみた!」


「……俺に見せても、ウリュウの反応は図れないと思うよ。」


はしゃぐ私とは対照的に、まるで子供を見守るかのような眼差しで静かに口にするミカゲさんを見て少し恥ずかしくなり、私はそっと席に戻る。


そして、ミカゲさんの顔を見てから

「こういう……子供じみたとこがだめだったのかな。」

と呟く。


なんとはなしに出てきたその呟きが、暫くしてから自分に刺さり、胸が苦しくなった。


「な、なーんて!冗談!言ったでしょ、私とウリュウはお飾り婚約者なの。

何とも思ってないわ!」


まるで、自分の痛みを誤魔化すかのようにおどけて言い放つと、私は「ご馳走様」と1 言って食器をシンクに運ぶ。


――そうだ、ウリュウとは元々好き同士で婚約したわけではない。


素直に受け入れて、相手がいるなら祝福すればいいだけのことではないか。


大丈夫……大丈夫だ。


私は、自分の心に言い聞かせながら無心で食器を洗ったのだった。

【⠀定期⠀】

最新の活動報告にて、この作品の挿絵についてアンケートを行っております。

もし興味があれば是非見て頂けたら幸いです。

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