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焼き直しのプロポーズ

緋山さん達と焼肉に行った翌日、いつものように研修が終わると、私は体育倉庫の隅に蹲った。


緋山さんの言葉が忘れられず、それがぐるぐると頭の中を回っている。


愛は与えるだけでは成り立たない……そうだ、だから……


だからウリュウから婚約破棄を言い渡されたんだ。


ずっと、ナギや焔の態度に違和感を感じていた。

彼らは私に興味があるように見えて、私の与えるものにしか興味がない。


だから虚しかった、自分が惨めに思えた。


――なのに、私はウリュウに同じことをしてしまっていたのだ。


困った時にだけ泣きついて、心のどこかで漠然と愛されていることを知っていた。

ウリュウに愛されていることを、心のお守りみたいに思ってしまっていた。


私は、ウリュウに何を返しただろう?

照れくさくて感謝の言葉1つ言えていなかったし、任務で結果すら出せていない。


……それでも、まだ愛されていたかったなんて……都合のいい、まるで子供の我儘ではないか。


また、私の頬に涙が伝う。


――情けない……いつまでも幼稚な自分が、本当に情けなくて……嫌になる。


ガラッと体育倉庫の扉が開いた音がして、私は物陰に隠れた。

こんな所を誰かに見られてはいけない。


しかし抵抗虚しく、上から覗き込んできた人物に見つかってしまう。


「あ、やっぱりここにいた。」


よりにもよって今あまり見たくない顔を見てしまい、私は膝に顔を埋めた。


「……リリアって、落ち込むといつもここで猫みたいに蹲ってるわけ?」


しゃがみ込みながら焔が私の髪に触れる。


「……いいでしょ、今はほっといて。」


「ね、リリア……渡したい物があるんだけど。」


「いらない、どうせお菓子か高級な何かでしょ!

別に、私の気を引かなくたって心配してるってこの前も………!」


「ん」


言いかけた所で、焔は私に一輪の赤い薔薇を差し出した。


「……何これ……?」


「薔薇、見たことないの?」


耳まで赤くしながら、焔は視線を逸らす。


「いやあるけど……私にくれるってこと?」


「うん。この前、怒って帰っちゃったでしょ?だからごめんの意味で。」


私は今にも爆発しそうな焔を見て差し出された薔薇を手に取ると、

「ねえ焔、これってごめんなさいって時に贈る花じゃないのよ。」と苦笑した。


「知ってるし。俺が昔君にプロポーズしたって話……本当に覚えてないけど、焼き直ししたら無かったことにならないだろ?」


焔はそう言うと、私の方をまっすぐ見て

「リリア、俺と結婚して下さい」

と言う。


「えっ……え!?」


私は動揺しながら赤面してしまった。


「海外だと、プロポーズの時に赤い薔薇を贈るんだぜ。ガキのリリアは知らないだろうけど。」


真っ赤な顔の私を見て、焔は揶揄うような表情で言い放つ。


「あ、あの焔……?急に結婚とか言われても私……」


「勿論君の答えはノーだ、俺だって別に本気で結婚したいわけじゃないもん。」


「……はい?」


「でもこれで一度君にプロポーズしたって過去がちゃんと俺の記憶に残った、痛ましい赤城焔の黒歴史として……」


唇を尖らせながら、焔が呟く。


(もしかして……プロポーズを無かったことにされて私が拗ねたから?)


なんだかそう思うと途端に可笑しくなって、私は声を上げながら大笑いした。

……やはり、なんだかんだ焔はあまり変わっていない。

こういう不器用な所も、変に真っ直ぐな所も……焔なのだ。


「……うわ、失礼な奴。俺出動待機中だから戻るね。」


顔を赤らめながら焔が言うと、私は焔のジャージの裾を掴む。


「焔、私もごめんなさい。覚えてないことでからかったりして……」


「……別に……今本当のことになったから、気にしてない。あのさ、別に俺リリアに心配して欲しいだけで気を引こうとした訳じゃないよ。」


「え……」


「今思うと心配されたからリリアが気になってるんじゃなくて、リリアが気になってたから心配されて嬉しかったような気も……してる。」


目を逸らしながら呟く焔。


(それって……私に惹かれてたってこと?)


薔薇を見つめながら、心の中でそう問いかける。


「俺……リリアのこと……」


焔が言いかけた所で、妙に緊張してつい目が泳いでしまう。


「面白いおもちゃだと思ってるから。」


「……へっ」


そして焔の斜め上の言葉に、間抜けな声を上げた。


「昨日1日考えたんだー、どうしてこんなにリリアが気になるのか!

思えばリリアは反応が面白い遊びがいのある奴だからだって気付いたわけ!

きっと灰原君と一緒にいる時モヤモヤするのも、おもちゃを取られるのが嫌だからだったからなんだよ!」


嬉々として語る焔に、またときめきに似た何かが冷めていく。


「あっそ、もういいわ。さっさと仕事に戻ったら。」


掴んでいた裾を放すと、私は冷たく吐き捨てる。


焔が「言われなくてもそうする」と言いながら出て行こうとした時、思い出したように呼び止めた。


「……なんだよ、仕事に戻れって言ったり呼び止めたり。」


「任務……気を付けてね。」


言うと、焔は急にそっぽを向いてどこかへ走り去っててしまう。


(あれ、嫌だったのかな。)


焔を見送った後、私は彼から貰った赤い薔薇をにやけながら見つめる。


焔の隊服みたいな鮮烈な赤色は、いつまで眺めていても飽きなかった。


【⠀定期⠀】

最新の活動報告にて、この作品の挿絵についてアンケートを行っております。

もし興味があれば是非見て頂けたら幸いです。

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