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本当の愛

私は、気付くと緋山さん、灰原さん、アンナに囲まれて焼肉を食べていた。


(あれ……何この状況。)


「ほら、リリアー?あーん!」


アンナが私の口元に肉を持っていきながら微笑む。

私は頭も追いつかないまま、それを頬張った。


「美味しい?」


「お、美味しい、ありがとう……じゃない!」


私はそこで、やっと正気を取り戻す。


「ちょ、ちょっと待って……何このメンバー、なんで私焼肉をご馳走になってしまっているの!?」


言うと、緋山さんがため息を吐きながら

「元気が無いと思ったからスタミナのつく食べ物を奢って差し上げたのよ。

現にお肉を食べたら正気に戻ったじゃない。

本来ヒーロー志望なら自分のコンディションくらい自分で管理するものよ、2度目は無いわ。」

と言い捨てる。


突き放しているように見えて、緋山さんの行動や言動には優しさが滲んでいた。


「俺までご馳走になって良かったの?」


灰原さんが尋ねると、緋山さんは彼を睨みつける。


「……あら、誰があなたに奢るなんて言ったかしら。私が出すのは後輩の分だけ、甘えないでよね。」


緋山さんにそう言われ、灰原さんは穏やかに微笑んだまま黙り込んでしまった。


「あのー……緋山先輩、どうして急にリリアに奢ろうと思ったんですか?後輩のこと……その、嫌いなのかなって思ってたから……」


アンナがビクビクとしながら尋ねる。


「嫌ってるとも言った覚えありませんの。私はただ不要な馴れ合いが嫌いなだけ。」


淡々と答える緋山さんを見て、私とアンナは不思議そうに顔を見合わせる。


「それより、須藤さんはどうして落ち込んでいたのかしら。今日だけ私が特別に対策を考えて差し上げてもよろしくてよ。」


肉を焼きながら、緋山さんは無愛想に提案した。


「あ……いや、大したことじゃ」


言いかけた所で緋山さんはこちらを鋭い目つきで睨む。

私はそれに恐縮して、「あ、相棒的な人に昨日、急に別れを告げられて……」と青い顔で答えた。


「それって……前言ってた婚約者?」


灰原さんに図星を突かれ、私はビクッと身体を震わせる。


「まあ……はい。」


「え、ちょ、ちょっと待って?灰原先輩と付き合ってるのに婚約者っておかしくない?」


アンナが動揺したように言うと、緋山さんは呆れながら「どうせまた、次の彼氏が見つかるまでの……とか、言い寄られない為に……とか言って勝手に恋人を名乗ってるだけなのでしょう。所謂、偽装交際ってやつかしら。」とため息混じりに言う。


(え……前にも、そんなことがあった、って……こと?)


「バレた?リリアがストーカーに悩んでるって聞いたから彼氏のフリして守ってるだけ。」


灰原さんが悪びれもせずに言うと、緋山さんは「毎度よくやるわ」と興味なさげに答える。

一方でアンナは安心したように胸を撫で下ろしていた。


「でもそっか、婚約解消なんて辛かったよね。……でも、リリアがストーカーに追われて辛い時に婚約破棄するような人って、本当にリリアが好きなのかな。」


「え……」


「俺だったらリリアが辛い時こそ傍にいて守ってあげるのなって、思っちゃった。

だからいつでも俺のこと頼って、辛かったら甘えていいんだよ?本当の彼氏みたいに思ってくれ……いって!」


灰原さんが言い切る前に、緋山さんは彼の脇腹に渾身の肘鉄を食らわせる。


「騙されちゃ駄目、そんなのは本当の愛情ではないわ。」


「本当……の、愛情……?」


真っ直ぐ私を見て言い切る緋山さんの言葉にどこか惹かれてしまい、無意識に反芻する。


「愛って、与えるだけじゃ成り立たないの。

愛されるということは与えられること、愛するということは与えること。

どちらかの均衡が崩れたら、それは愛じゃなくなる。」


(このセリフ、知ってる……)


「2期8話の……ピンクの……セリフ……」


言いかけて、私は焦ったように口を塞いだ。

どうして緋山さんが、原作に出てくるセリフを知っているのだろう?


恐る恐る緋山さんの顔を覗き込むと、彼女は目を丸くしながら固まっていた。


……そして、ぐっと唇を噛むと

「成程……あなた、『私と同じ』なのね。

リリア様の偽物ってわけ。どおりで高貴さの欠片も感じないと思っていたのよ。」

と震えた声で吐き捨てる。


「あ……いや、その……」


緋山さんのがっかりしたような様子を見て、私は言葉を失う。

その異様な光景に灰原さんとアンナは戸惑っている様子だった。


「もう結構、答えなくていいわ。

お金は灰原の以外支払っておくから、後はよろしく。」


「あの、ごめんなさい!私……!」


「なぜ謝るのかしら?非もないのに謝罪しないで、迷惑よ。

……それから……あなた、男を見る目が無いかもしれないわ。

『愛情』と『依存させる為の浅い優しさ』くらい、区別なさいな。」


緋山さんは一切振り返らずに言い切ると、そのまま去っていってしまった。


もしかして……緋山さんは「転生者」で、リリアのファンだったのではないだろうか?

だからリリアの雰囲気に似ているし、私に優しかったのかも知れない。


……それならばきっと、かなり落胆させてしまっただろう。


「……俺も、ちょっと用事あるから先に抜けるね。

二人で焼肉楽しんで。」


灰原さんも緋山さんに続いて席を立つ。

私は何となく気まずくて、彼の顔を見れずにいた。


俯いていると、アンナが気を遣った様子で

「あー……っと!せ、せっかくだし時間いっぱいまで食べよ?ねっ!」

と言う。


私はその後暫く、放心状態で肉を貪ったのだった。


★ ★ ★ ★


一方その頃、ミカゲはとある居酒屋で黒髪に少しガタイのいい男と食事を共にしていた。


「ジムで何のマシンを使ったらいいか悩んでいたところにご指南頂きありがとうございました。」


「いいのいいの!俺も初心者の頃は先輩会員に教えて貰ったんだから!

それに美味しいご飯もご馳走になったしね!」


男は、太陽のような笑みで言い放つ。


「……しかし、『有斗』さんが元ヒーローだったなんて、素敵な巡り合わせですね。」


「俺はもう辞めてるけどねー!君はどこの研究生なの?」


「コズミック7です。」


「え、まじ!?俺の弟もコズミック7の研究生!

じゃあ多分お世話になっちゃってるだろうなー、俺の弟ちょっと天然だから。」


その言葉を待っていた、と言わんばかりにミカゲは目を細める。


「……もしかして、灰原先輩のお兄さんですか?通りで、面影があると思いました。」


そう言って、ミカゲはにやりと笑ったのだった。


【⠀12月中は定期にします。⠀】

最新の活動報告にて、この作品の挿絵についてアンケートを行っております。

もし興味があれば是非見て頂けたら幸いです。

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