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見えない場所

「兄ちゃーん、ご飯食べる気無くしたとか言うから作ってやったのにいつまで寝てんだよ。」


焔の家で、凛太郎は兄の体を揺する。


「今日のご飯なにー……?」


「梅ご飯といわし、あと味噌汁。」


「やったー!ありがとう!」


凛太郎が答えると、焔は飛び起きて机に飛びつく。


(ガキ……)


呆れつつも、焔の様子を見てフッと笑うと凛太郎は席に着く。

そしてご機嫌にご飯を頬張る焔を見て微笑んでいた。


「なんかあったの?またエリヤにパワハラ発言でもされた?」


「ううん、違う……リリアとデートしてたらなんか急に怒りだしてさあ。」


どうせ、兄が何かして拗ねさせたんだろうと察した凛太朗は、「何か言ったの?」と尋ねる。


「別に?『焔は昔と変わらない』とか言って笑うし、覚えてないっつってんのに『昔求婚された』とか言い出すから、覚えてないから無効じゃんって言っただけ。」


それを聞いて、凛太朗は絶句する。


(思ったより特大の地雷踏み抜いてた……忘れてるし仕方ないっちゃ仕方ない……か?)


「リリアが大人っぽいのが好きって言うから大人なデートコース考えてたのに、結局クレーンゲームではしゃぎだすし……花岡君のほうがスマートだったし、途中で帰っちゃうんだもん。

あーもーやだー!こんなつもりじゃなかったのに!」


焔はぼやきながらリンゴジュースを飲み干す。


「……ま、一応謝っておいたら?」

凛太郎が言うと、焔は不貞腐れたように黙り込む。


「そもそも兄ちゃんは何でそんなリリアに拘るんだよ。」


「リリアは俺のこと心配してくれるから。」


「……それだけ?」


「だけじゃねーもん、大事なこと!強すぎる俺にとって心配してくれる人は貴重なの。」


凛太郎はため息を吐くと、頬杖をつきながら

「……心配して欲しいから優しくしてるなんて不健全でしょ、そんなんならもうこのままリリアに関わらない方がお互いの為かもね。」

と無感情に言い捨てる。


「は……なんで。」


「いやふつーに。何か与えられたいから自分も与えるなんて不健全だって言ってんの。

例えば兄ちゃんは俺が見返りを求めて飯作りに来てるとでも思ったわけ?」


凛太郎の正論に、焔は黙り込んでしまった。


「リリアを怒らせたくないなら、もう関わらないか謝るかのどっちかしかないと思うよ。

……んじゃ俺、もう帰るわ。」


言い切ると、ゆっくり立ち上がりその場を立ち去ろうとする凛太郎。


「凛太郎……母さんと上手くやれてる?」


去り際、焔がぽつりと疑問を投げかける。


「……当たり前じゃん!超絶順風満帆だっての!」


凛太郎は振り返りながら答えると、そのまま焔の家を後にした。


――――――


凛太郎が帰宅すると、リビングで母が缶チューハイを飲んでいるのが目に入る。


「あれあれ、出る前に一缶開けてたよね?なんでまた開けてるのかな。」


缶チューハイを取り上げながら凛太郎が言うと、母親は「それ一缶目なの!返して!」と喚く。


「はい嘘、没収〜。明日も仕事でしょ、早く寝ないと駄目じゃん。」


「凛ちゃん……焔に、焔に会わせて……」


「また期間伸びただろ、暫く会っちゃダメなの。ほら早く部屋戻りな。」


凛太郎が促すと、母親はフラフラと立ち上がりながら凛太郎に箸を投げる。


「うお……あぶね!酔いすぎだから!」


そして母親は「何で……」とブツブツ何かを呟きながらリビングを後にした。


凛太郎はため息を吐きながら母親の投げた箸を拾い上げる。


(離婚してからずっとこんなかんじ。……俺がいない時にも兄ちゃんにこうやって当たってたんかな。

……俺、本当に何も知らねえでのうのうと守られてたんだ。)


【リリア、兄ちゃんとなんかあったらしいけど大丈夫?】


洗い物を終えると、凛太郎はリリアにメッセージを打ち込む。


【気にしてないわ。焔が忘れてることを話しちゃった私が悪いの、気味悪がらせたかもしれないから、今度謝っておく。】


程なくして、リリアから返信が返ってくる。


(……いいなあ……『あっち側』は。)


ふと心の中で呟いた後で、凛太郎はそれを深く後悔するように、そっと机に伏せたのだった。


★ ★ ★ ★


リリアは研修後、まるで電池が切れたかのように呆然としていた。

それを研究生とゆかりが心配そうに見つめている。

この日はフユキとロクタが多忙で、若葉とミカゲのみが不参加だった。


緋山もスマートフォンをいじりつつ、少し離れた所からチラチラとリリアの様子を伺っている。


「おーい」


ゆかりが顔の前で手を振るも、リリアは反応を示さない。


「……なんかあったの?」


ゆかりがアンナに尋ねる。


「いや……よく知らないです。」


「昨日、花岡さんや焔隊長と一緒に帰ってませんでした?」


琉進が言う。


(かねっちがイエローさん以外に敬称付けてる……そんなことってあるんだ。)


アンナが驚いていると、灰原が

「今日は花岡さんもレッド隊長も出動日だからいないですよね、何かあったのかな?」

と疑問を口にした。


「リリア、何か美味しいものでも食べに行こうぜ。皆にも奢るよ。」


ゆかりが言った途端、彼のスマートウォッチが鳴る。


「うわ……ごめん、俺行かないと。琉進も来て。」


「は、はい!」


琉進はリリアを気にしつつも、走り去るゆかりを走って追いかけた。


「……変なの、前までホワイトさんばっかり出動してたのに、今日は皆忙しいなんて。」


ふいに灰原が呟くと、アンナは首を傾げながら

「それが本来のバランスじゃないんですか?変じゃないと思いますけど。」

と切り返す。


灰原は、それを聞いて少し動揺したように目を泳がせた。


「……いつまで、やってますの。」


どこか、痺れを切らしたかのように緋山が3人の元に歩いてくる。


「緋山さん……どうしたの?珍しいね、そっちから声を掛けてくるなんて。

レッド隊長に同行しなくていいの?」


「今日は特別危険な任務らしくて司令から同行するなって言われたのよ。何、文句でもある訳?」


やけに喧嘩腰の態度で灰原を睨みつける緋山に、アンナは動揺する。


(前から思ってたけどこの先輩2人、仲悪くない?コワ〜……)


「……別に無いよ。リリア、落ち込んでるし俺が家まで送って行くね?」


灰原が言いながら、気の抜けたリリアの手を引こうとする。


「待ちなさい、どうしてあなたがそんなことをするのかしら。」


緋山が止めると、灰原は微笑み

「俺、リリアの彼氏だから。」

と返した。


「か……彼氏ぃ!?」


アンナはそれを聞き、思わず大声を上げる。


「……駄目よ、勝手に連れ回すなんて許さないわ。

須藤さんはこれから、私と焼肉に行くのだから。」


「「………え?」」


緋山の言葉に、アンナと灰原は目を見開いた。

【⠀12月中は定期にします。⠀】

最新の活動報告にて、この作品の挿絵についてアンケートを行っております。

もし興味があれば是非見て頂けたら幸いです。

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