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ナギ

「もしかして僕の事覚えてない?

 ウリュウだよ、これからよろしく」


そう言って微笑んだ彼の名前を聞いてはっとする。


ウリュウって…!大幹部の「ウリュウ」!?

アニメで最もボスに近い実力って言われてた奴じゃない!


顔は不明だったけど、こんな感じの人だったんだ、

もっとごつくて怖い奴だと思ってたのに。


ごついどころ滅茶苦茶かっこいいし…!

教育係がこの人だったのはラッキーだったかも!


「早速だけど僕の屋敷に来て欲しい

 君の初任務を言い渡すから」


ウリュウはそう言ってゆっくりと歩き始めた。

私は意気揚々と彼に付いて行ったものの、

彼の部屋に訪れて投げかけられた第一声は


「君、裏切者でしょ?」


という不穏な物だった。


「な…何仰ってるんですの!?」


急な裏切り者呼ばわりに焦る私。


「だってさ…怪しいじゃない

 君のお姉さんってウチを裏切って大勢の戦闘員と出て行った裏切者だよ?

 君も無関係だったとは思い難いなあ」


「無関係…だったと思いますわ!」


「何で自信なさげなのさ

 …まあいいよ、どっちにしたって使えるかは

 仕事ぶりで判断するのが僕の流儀

 君の初任務は『戦闘員の育成』だ

 今君の部隊には戦闘員が一人も残ってないから腕が立つのを一人付ける

 そいつを一週間の間で僕の部下に勝てるまでに育て上げて欲しい

 そうしたら君を僕の部下だって認めよう」


彼は天使のような笑みを浮かべて言った。

同行していた使用人達が「早く答えろ」とでも言いたげに冷ややかな目で私を見ている…

やりますとしか言えない雰囲気だ。


「勿論引き受けますわ!どんな人ですの?」


私ができうる限りの元気いっぱいな返事をすると、


「ナギ、入って」


というウリュウの言葉と共に顔の大半が前髪で覆われた、自信の無さげな少年が入って来た。

彼を見るなり、使用人達が後ろでニヤつき出す。


何だか彼、有名人っぽい?


「あの...ナギです

よろしくお願いします」


私は彼の手を握り


「よろしく!貴方を立派な戦闘員にしてみせるからね!」

と満面の笑みで言う。


私が言うと、堪えきれなかったかのように使用人が笑い出した。


「聞いた?あの悪趣味な出来損ないを立派な戦闘員に…ですって!」


「ウリュウ様も意地が悪いわ」


「こら!声が大きいわよ!」


「だってキアラメイド長〜!今のはリリア様が悪いですわ!」


ったく失礼な反応よねー...

何がそんなにおかしいのかしら?


「言っておくけど君の事は信用していない、

 訓練ついでに彼を君の屋敷に住まわせて監視するようお願いしたから

 くれぐれも変な動きは見せるなよ

 裏切ったら…殺す」


美しい笑みで、彼は物騒な言葉を私に浴びせる。


「ころ!?

 あ、あはは…嫌ねウリュウ様、冗談きついですわ…?」


この男…何だか感情が読めなくって不気味!


「勿論裏切ったりなんかしませんともー!

 い、行くわよナギ!」


「はい...!」


それにしても、この子誰かに似てるのよね…

顔も解らないし声変わりもしてないから誰かまでは解らないんだけど

うーん、もやもやする。


アニメを見ていたからこの世界には多少理解がある。

登場人物は全員「特殊能力」を持っていて、

それを武器にする技術を用いて戦っている。


戦闘員という事はリリアがヒーローと戦う前に彼らを消耗させてくれる役割を担ってくれるという事…

あのウリュウの部下がどのくらい強いか知らないけど、

ナギがどういう戦い方するのかは見ておかないとね。


私は訓練場に足を運ぶと、彼に

「まずは私が相手よ!かかって来なさい!」

と言い放つ。


リリアの武器はアニメでも見た事がある、魔法少女のステッキがゴスロリ化した様なデザインのワンドだ。

少し振るだけで地面が凍る…怖っ

そっか、リリアって氷使いなんだったよね。


ナギの武器は戦闘員用に支給されている何の能力も無い銃だった。

能力を使わないのかしら?

彼は銃を抜くと私の方めがけて撃ち込んで来た。


戦闘なんかした事なかったのに、体が勝手に動いて応戦する…

流石はアニメ2期のボス、天才って言われていただけあって結構やるのね。


ナギは必死に私と距離を詰めようとするが、私の発した氷に阻まれ上手く動けていない様だった。

しかし彼は軽い身のこなしで氷の上を滑りながら距離を詰めて来る。


この子…すごい運動神経ね、とてもただの医療班とは思えない!

彼はそのまま私に近付き、手を伸ばして来た。


刹那、異様な違和感が体を走る。

何だろう…この人に触られちゃいけないような気が…!


私は咄嗟に彼の足元を氷で固めると、大きく後ろに下がる。

彼が氷に足を取られている間に私はワンドを彼の額に押し付けた。


「あら、こんなもの?」


「…参りました、流石…お強いですね」


彼はそう言って両手を上げると、残念そうに笑う。


「距離を詰めようとしていたのはどうして?

 もしかして能力と関係があるのかしら」


「俺の能力は触らないと発動しませんので…」


「へえ!ど、どんな能力?」


さっきこの身を襲った違和感がどうしても気になってしまう、

彼に触れられそうになった時のあの不気味な感じ…一体何だったのかしら


彼は私の膝の擦り傷に触れる、私は思わず体をビクッと強張らせたが、

警戒とは裏腹に、彼の手は私の傷をゆっくりと癒して見せた。


「…もしかして…治癒能力?」


「はい」


凄いけど…近付いてどうこうできる能力でも無いような…

メイド達が笑っている様子を思い出し、合点がいく。

この子は戦闘向きの能力じゃないのにこんな任務に就かされたんだ…!

だから「勝てる筈ないのに」と嘲笑していたのね!?


「貴方、何でその能力を持っているのに医療班のメンバーじゃないの?

 ウリュウ様は確か医療班のトップでしょ?」


「俺の趣味のせいで…ウリュウ様に目を付けられてしまって…」


趣味?たかが趣味で目を付けられるなんて…ちょっと気になるけど

人の趣向を詮索するのは野暮よね。


しかし…!あの男、顔はいいけど大分意地が悪い様だ。

治癒能力を持った人間を戦闘員に配属するなんて!

私がもしヒーローだったらぶっ飛ばしてやるのに…!


「気にする事ないわ、ナギ!

 あんな奴の部下なんて余裕で勝てちゃうくらい強くなりましょう、

 あなたなら出来るわ!」


「…」


「何よ、幽霊でも見たような顔して」


「いえ、事前知識と違ったものですから…

 リリア様はお姉さんが出て行ってからというもの

 ずっと部屋に籠って泣いておられたと聞いていたので」


え!?そうなの!?あの高飛車なリリアが部屋に籠って泣くなんて想像つかない…


「思ったより前向きで…強い方なんですね」


「そ、そう…?褒めても何も出ないわよ…?」


でも良かった、ブラックホール団の人達はみんな悪人顔でやな奴らだと思ってたけど、ナギはその中でもいい子そうで安心した!

この子とならうまくやって行けるかも…!


そう安堵していた矢先、その日家に帰って出て来た食事は

あまりにも奇怪だった。


ピクピクと脈を打ちながら、ゼリー状の何かを吐き出す緑色の塊…

肉なのか魚なのかそれ以外なのか、見た目からは全く判断が付かない。


「あのー…メイドさん?この食べ物って何かしら…?」


「宇宙食虫植物の…種らしいですわ」


らしいとは!?

リリアっていつもこんな物食べてるの!?

いや…アニメでは普通に美味しそうな物食べてたはず!

じゃあこれは嫌がらせで…?


「黙って食べられては如何ですの?

 メニューは使用人たちが一生懸命考えてますので…

 何もせず料理が出てくれば食べるだけのリリア様に

 不満を言われるのは心外ですわ~」


なんてむごい…このリリアが何歳なのかは解らないけど

見た感じまだ子供よ!?

大人たちが寄ってたかってこんな…!


私は意を決すると皿の上のものにフォークを突き立てる。


「不満を言う気なんてありませんでした、早とちりですわ

 とても美味しそうな食べ物ねって伝えたかったの」


私はそう言って精一杯笑うとその未確認植物を平らげた。


「ご馳走様、失礼するわ!」


「ねえ見た?あんな訳の分からないものよく食べられるわよね…」


「意外と美味しいんじゃないの…?」


酷かった…!なによアレ!?

ネトネトしてるのにしつこい苦みがあって、絶対毒とかあるわよ!?

ああ、早くお茶か何かで口直ししないと…!

あの場を離れた後、私は急いで自室に戻ろうと駆け足で廊下を移動していた。


「何のつもり!?こんな物を持ち歩いて…!」


すると、キアラさんの凄まじい怒号が耳に入った。

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