無謀なリリア
「あの……全然身に覚えがなくて……すれ違っただけのような。」
「は? 口答えすんの? 」
「いえ! そんなつもりじゃ! 」
怯える生徒を恫喝するヒーロー。
その様子を見て、私は怒りを覚える。どちらの主張が正しいかは置いておいて、自分より立場が下の人間をあんな風に威圧する等、ヒーローがやることではない。
私がうずうずしていると、フユキが
「駄目ですよ、関わっちゃ。」
と悲しそうな笑みで言う。
ヒーロー志望である以上、ああいった輩が許せないのはフユキも同じだと思っていたのに、フユキはあくまでも冷静だ。
それでも未来ホワイトなのだろうか?もどかしい。
「お前俺の事知らねえの? 『サンダーファルコン』のグリーンだぜ?
隣は『ピュアマジカ』のピュアステラ。俺達に喧嘩売ったらお前らヒーローとかなれないけど。」
「いや……その……す、すみませんでした。」
生徒達は圧に押され、謝罪する。
「ねー、せっかくだから土下座させて写メ撮ろうよ?
こいつらが大物になった時揺すれるかも。」
スマートフォンをいじっていた少女が半笑いで提案した。
「いいじゃん! やれって土下座……ほら早く! 」
男子生徒達がしゃがみ込みそうになった時、私の体は勝手に動いてしまう。
「やめて! この子達ぶつかってないって言ってたじゃない! 」
やってしまった……!思わず前に出てしまった。
この男女、やめろと言っても従うようには見えない。
どうすればいいのだろう?
「何だ……?あれ、何かマスクしてるけど結構可愛い感じじゃん!何年生?」
「うわきも、あんたロリコン?絶対中学生とかでしょ」
「俺もまだ17なんだし未成年が未成年に手出す分にはいいいだろ別に! 君可愛いね! 今度俺んち来てくれたらそいつら見逃してもいいよ! 」
男がそう言って私に触れようとした時、白い手がそれをはねのけた。
「……あ? 」
「お久しぶりです、鷹野先輩! 」
フユキは、私を守るような体制を取り、いつもの純粋そうな笑顔で彼に笑いかける。
「げっ……! 真白……! 」
鷹野と呼ばれた男は冬樹の顔を見るなり真っ青になってしまった。
知り合いだろうか……? もしかしてこの男、フユキをいじめてたとか?
にしてはやけに縮こまって目も合わせようとしないが……
「俺のクラスメイト、何かしちゃいましたか? 謝ります、ごめんなさい!でも見てたけど土下座とかはやりすぎだと思いますよ。
やめた方が良いと思います、この録音ネットに晒されたくないですよね! 」
フユキはそう言ってスマートフォンで一連の出来事の録音を流す。
口では関わってはいけないと言っておきながら裏でこんなものを撮っていたとは……
いつも朗らかに笑っている印象なのに、やることは意外にも容赦がない。
「何この白い子? 私この子タイプかも」
スマートフォンを触っていた少女がフユキに関心を示すが、
「馬鹿! こいつは手出さねえ方が良んだよ! 気色悪い化け物なんだから! 」
鷹野はそう少女に言い放つ。
フユキは黙ってその言葉を浴びていた。
なんか心がキュッてする……何でだろ……
鷹野は女の手を引くと、そそくさとどこかへ消えてしまった。
「もー、駄目じゃないですかリリア様! ところ構わず喧嘩売っちゃ! 」
いつもの態度でフユキが言う。
あんなひどい言葉吐き捨てられて、どうしてそんな明るく振舞えるのだろうか?
「助けてくれてありがと……」
「いーえ! リリア様なら俺喜んで助けますから! 」
「でも……何でもっと怒らないのよ……あんなこと言われて。」
フユキの顔が一瞬真顔になる。
「あ……あー! 真白君! 俺怖かったなー! 助けてくれてありがとう! なんか怖がってたら喉乾いたなー! 」
「俺も! 」
フユキの異様な様子に気付いたのか、恫喝されていた男子生徒達がそう言って彼に訴えかける。
「え……ああ、じゃあ俺何か買ってきます! 皆さんはあっちのベンチで待っててください! 」
そう言ってフユキはどこかに走り去ってしまった。
「えっと……須藤さん? 真白君はちょっと色々事情のある子で……あんまり深く事情を詮索しない方が良いよ、悪い子じゃないんだけど……キレると怖いから。」
男子生徒はバツが悪そうに言う。
フユキが……? そんな風には見えなかったけど。
「おい、あんたらベンチで待ってろって言われたろ。人に頼んどいてどっか逃げる気? 」
「うわ! 黄瀬君見てたの!? 」
「ああ、さっさと言う通りにしろ」
「は、はい! 」
男子生徒達はそう返事をするとベンチの方へそそくさと走っていった。
私が説明して欲しいと言わんばかりにゆかりを見つめると、彼は何かを察したように話し始める。
「……あいつな、去年もここに来てるんだよ。」
フユキが……ヒーロー本部に?




