トラウマ
ウリュウは私から離れると、フユキを見て
「それで、その後ろの白い子どうするの?
僕の家に泊めてやってもいいけど」
と言う。
「駄目に決まってるじゃない! ホワイトが汚れる! 私の屋敷に泊めるからウリュウ様は早く帰って下さい! 警察呼びますよ! 」
「はは、生意気だねえ。まあそう言う奴結構好きだよ、僕。
じゃあそろそろお暇しようかな…バイバイ。」
彼は身を翻すとそのまま私の部屋を後にした。
「だ……大丈夫だった? ホワ……フユキ! 変なとこ触られてない? 」
「あはは、俺男ですよー? そんな事される訳無いじゃないですかー!
…ところでリリア様、俺がブラックホール団に入るって話……」
「今日は聞けない、あなたが冷静に話を持ち掛けて来てるのか、私には判断が付かないの。
一旦事情は聞いた、だから今日は寝なさい。明日またゆっくり考えてあげる。」
私はそれだけ言うと、ホワイトを空き部屋で休ませた。
本当に驚いた、ホワイトはなぜ急にブラックホール団に入るなどと言い出したのだろう?
ブラックホール団……私もここの現状については多少調べさせてもらった。
私が知っているアニメの知識とは異なっている部分が多く、
……例えば、アニメでのブラックホール団は地球人からかつて譲り受けた土地、
「渋矢」を中心地として東卿全域を支配するのが目的で、地球人やヒーロー達と敵対関係にあったが、今のブラックホール団はそうじゃない。
「あるべきものを守る」というスローガンのもと、
渋矢奪還を狙うヒーロー達から防戦をしているだけなのだ。
恐らくは先程も話した通り「ボス」がアニメとは別人なのが原因だろう。
この環境の組織なら、ホワイトも虐げられずに済むかもしれない。
しかし……その後は?
……だめだ、考えても今は答えが出ない、もう寝なければ。
……
数時間後、私は夢を見ていた。
あ……れ……
目の前に、リリアの屋敷が現れる。
しかし屋敷の様子はおかしく、炎が燃え盛り傷だらけであった。
『お姉様……どうして……どうして私を殺そうとするんですの』
リリアの声が屋敷に響く。
彼女の目の前には、美しくも冷たい目をした、銀髪の女が立っていた。
『リリアはお姉ちゃんより強くなるかもしれない。
私はね……それが怖いの。』
リリアの……姉……エリヤだ。
彼女はリリアの髪を引っ張って掴み上げると
『不細工な顔……どうしてあなたなんかに才能があるのかしら。』
とゴミを見るような目で言い放つ。
『お姉様……何かの間違いでしょう?
リリアはお姉さまが大好き……誰よりも愛しているんですのよ』
震えた声でリリアが言う。
エリヤはリリアを壁に叩きつけると、
『私はきらーい』
と言って笑う。
『可能性があったって私が摘み取る、お前の幸せは私が全部壊す。
リリアはね……お姉ちゃんには勝てないの。』
エリヤが剣でリリアの首を切り裂こうとした時、
誰かがエリヤを突き飛ばし、私を抱えて逃げた。
誰…?顔がよく見えない……多分……男の人だよね?
『…はは、ミカゲ君までその子を選ぶんだ』
ーーー
目が覚めて、私は今見たこれが夢であったことに安堵する。
まさかあんな恐ろしいことが本当に起こったなんて言わないわよね?
リリア…あなたこんな辛い記憶に耐えてたの?
味方もいない中、こんなトラウマを抱えて……!
私は思わず自分の身を抱きしめる。
「リリア様~? 早く起きて下さいな! 今日も潜入なんでございましょ。」
「さっさと起きないとまた給仕服で外に出て貰いますわよ。」
使用人達が私に呼びかける。
「ええ! すぐに支度するわ! 」
私はできる限りの作り笑いで彼女達にお礼を言った。
「……なんか……リリア様……」
「ええ、そうね」
使用人たちがこそこそ話してるのを横目に、
私は粛々と朝の支度を済ませたのだった。
ーーーーーーー
私が朝ウリュウの屋敷に行くと、ナギは顔を真っ赤にしながら震えている。
それも仕方のない話……
ウリュウ様の部屋に、なぜかフユキが笑顔で立っているのだから。
フユキはあの後私の屋敷に泊まってからウリュウと朝食を摂ったらしい。
私が起きた時にはもうウリュウに連れ出されていた……
「ウリュウ様! なんでいるんですかこいつ!? 」
ナギが声を荒げる。
「昨日君達に着いて来ちゃったらしいよ? リリアはともかく、ナギまで尾行に気付かないなんて……だめじゃないか。」
ウリュウ様が笑顔で言うと、ナギはふらふらとその場にしゃがみ込んだ。
「リリアがあの金髪イキり野郎に告白するわ、白い奴が何食わぬ顔で基地にいるわ……俺この任務がトラウマになりそう。」
「だ、大丈夫よ! ここから巻き返せるわ! 」
私は床にへたり込むナギを励ます。
……しかし彼の心労の半分以上は私が原因でもあるし、複雑だ。
「昨日も言ったけど、今日は緑川の情報を掴んでくること。
あと、目立つなよ、リリア」