迷い
「……何……言ってるの……?」
「もしも、の話さ。
それでもウリュウを支持してくれる団員はどのくらいいると見積もっている?」
「……っあなた!友達を売るつもり!?そこまでしてボスになりたいわけ!?」
私が声を上げると、ミカゲは顔を顰める。
「何も言いふらすとは言っていないだろう、でも……もしそうなればどうなるかくらい解るよな?」
私は動揺しながら俯く。
そんなことになれば選挙でウリュウが勝つ可能性は途絶えてしまう。
「これはなにも選挙中に限った話じゃないよ、もしウリュウがボスになって……何者かの手によって秘密が暴かれでもしたら……彼はどうなると思う?」
――最悪、命を狙われかねない。
「ボスともなれば鼻を明かそうとこそこそ嗅ぎまわる人間は後を絶たないだろうね。
俺の言っていることが現実味の無い事ではないと君も解るはずだ。
彼がボスになるのは少々リスクが大きいと思わないかい?
理想を掲げるのはいいが、君のやろうとしている事はウリュウを危険に晒す行為なんじゃないだろうか?」
「それ……は……」
「……俺がボスになればウリュウの事を守ってあげられるよ、約束する。
もう意地を張るのは終わりにしよう、地球人との和解は諦めて俺の下に付きなさい。」
……少し考えればわかる事だったのに、どうして気付かなかったのだろう……?
ウリュウは地球人とのハーフ……この男がわざわざ言いふらさなくとも、ボスになれば彼の秘密を暴こうとする人間は必ず現れる。
ウリュウが狙われるようにでもなれば、私は彼を守れるだろうか?
私のやっている事が……ウリュウの身の破滅を招くかもしれない……
「ああ、その顔……君はウリュウのお飾り婚約者だと思っていたが、彼のことを本気で信頼しているんだね。
大切な人間は誰にだっている。……俺にだって……
一緒にウリュウを守ろう、真理愛……僕はいつだって君の味方だよ。」
ミカゲさんの優しい声を聞いて心が揺らぐ。
「まあ……すぐに返事をくれとは言わない、来週の月曜には選挙が始まるのを知っているね?
だから日曜にまた君を迎えにくる……その時また君の答えを聞かせて。」
ミカゲさんはそう言って私の頭を撫で、
「帰ろうか」
と言って手を差し出してきた。
私はその手を握ると、ミカゲさんの車に再び乗り込み帰宅した。
ーーーーー
――翌日、私はウリュウの家に出向き、シノに未来の事を教えることを条件に仲間に引き入れられないかを交渉したいと話した。
「……まあ、シノと協力できるのであれば僕は構わないけど……
シノは本当にその部分に価値を感じていたんだろうか」
ウリュウは首を捻りながらそう口にする。
「と、いうと?」
「緑川から聞いたんだけど、君……シノに料理を作りに行ったり掃除しに行ってたりしたらしいな?」
「だってほっとくと不摂生ばっかりするのよ、あいつ」
「これは立派な浮気だ」
ウリュウは怪訝な顔で言い放つ。
「はあ!?うわ……何よそれ!別に私はそんなつもりで……」
「と、いうのは半分冗談にしても!シノは中々他人に心を開かないんだよ。
……ましてや、ラボの物を勝手に触られても怒らないなんて……あり得ない。
ただの憶測だが……シノって君に気があるんじゃないか?」
シノが……?
絶対にありえない!私が掃除してる時、シノが口にするのは
「あー」とか「おー」とかで、やっと人間らしい言葉を発したと思ったら
「今日の昼メシ何?」等と子供みたいなことしか言わないというのに。
「リリアが金になるから欲しいと口にはしていたけど……シノの欲しいものって本当に君の能力?君自身だったりしないよな。」
「まさか………」
「何度でも釘を刺しておくけど、君を誰かに渡すことは絶対にない。
どんなに詰め寄られても他と婚約したいとか言い出すなよ?」
「解ってる……ねえ。」
「どうした?」
「……本当に……貴方がボスになったとして……
その、誰かに命を狙われるようになったら……どうする?」
私の問いにウリュウは不思議そうな顔をする。
「別に今更そんなの気にしないよ。何回殺されかけたと思ってるのさ。」
「そ、それでも……!大勢の人があなたを狙うようになったらどうするの?」
「急になんなんだ?僕が簡単に誰かに殺されると思うのか?
僕の能力、君だって知ってるだろ。」
確かにウリュウを殺せる人間なんてそうはいない。
……でも、もし……もし、油断を突かれたり弱みを握られたら?
強いウリュウだって死んでしまうかもしれない。
「様子がおかしいけど……まさか君、ミカゲ君に何か吹き込まれたりしてないよね?」
「えっ!?いやそんな……!そんなわけないじゃない!」
まずい、咄嗟に嘘を吐いてしまった……!
「……ならいい、少しでも変な事されたら僕に報告しろよ。」
ウリュウはそう言ってため息を吐いた。
ーーーーーー
私はウリュウの屋敷を出ると、焼き菓子を持ってシノのラボを尋ねる。
「うっわマジか!流石に天才だなお前さん!」
私がラボに足を踏み入れると、シノは誰かと電話をしているようだった。
「おう、おう!まあ前向きに考えとくわ……じゃあな」
シノはそう言って電話を切ると私に気付く。
「リリア-!俺と協力してくれって持ちかけに来たのか!?
いいぞ座れ、今機嫌がいいんだ」
シノは言いながら私をソファに座るよう促す。
「……何かあったの?」
私が恐る恐る尋ねると、シノは浮かれ気味に
「ミカゲからさー!10億調達出来たって電話が来たんだよ!
いやー、最高だな!」
と言い放った。
じゅ……10億………!?