ミカゲ
「ミカゲ君と……?リリア、まさか僕のミカゲ君に色目使う気?」
「違うわ!ミカゲさんがボスになったらどうしたいかを聞いてみるの!
もし私達がボスになることでも実行できる内容なら、説得してみればいいんじゃないかと思って!」
「そう上手く行くもんかな」
ウリュウが顎に手を当てながら言う。
「何にしたってやってみなきゃわからないわ!ミカゲさんは『リリア』が好きなんだし、案外すんなりと説得できるかもしれないわよ?」
「あ!やっぱり色目使う気なんじゃないかこの泥棒猫!」
「言ってる場合!?今はナギを救えるかどうかの大事な時期なの!嫉妬してる暇なんてないでしょうが!」
私が言うとウリュウはため息を吐いた後「じゃあ、一旦君に任せるってことでいいのかな」と言う。
「ええ!大船に乗った気持ちでいなさい!」
「一応……言っておくけど」
「何よ、ミカゲさんに色目使うな、でしょ?わかったってば。」
私がそのまま去ろうとすると、ウリュウは私の手を掴む。
「……そうじゃなくて!君は僕の婚約者って事、忘れるなよ……!」
「……?ええ、忘れてないわ!ナギの為にも他の人の婚約者になるのは無し、でしょ?」
私が言うと、ウリュウは不服そうに手を放し
「まあ、今はそういうことでいい……じゃあな」と言って彼の屋敷の方向まで消えて行った。
相変らず何を考えているのかよく解らない男だ。
私はウリュウの様子を不思議に思いながらも屋敷に戻った。
ーーーーーーー
翌日、私は精一杯のお洒落をして家を出るとミカゲが在中しているであろう経理班のある場所まで向かった。
経理班のアジトに入ると、真面目そうな団員たちが方々を駆け回っているのが目に入る。
シノのラボや医療班の平和さに比べるとこちらの忙しなさが際立つな……
エントランスで部下たちに何か指示を出している男は私の探している男、ミカゲさんだった。
思ったより簡単に見つかったのはいいが……忙しそうだしまた時刻を空けて訪問しようか。
そう考えて引き返そうとすると、ミカゲさんが私に気付き凄い勢いでこちらにやってきた。
「ああ!リリア様……!美しすぎてすぐに解りました!もしや、俺に会いに来て下さったのですか!?」
ミカゲさんは太陽のように輝く笑顔でそう口にする。
この人は本当にリリアのことが好きなようだ。
しかし、私はミカゲさんが憧れてやまない人とは違う。
……私じゃない「リリア」に向けられる想いが、少し痛かった。
「そんなとこ、でも忙しそうだしまた後で顔を出すわ。」
「いえ!時間ならすぐに作らせて頂きます!ちょっと君、いいかい?」
ミカゲさんは近くにいた部下に自分の引継ぎを行うと、すぐに私の方へ戻って来て「行きましょう、ここではゆっくりできないでしょうから」と言って経理班のアジトを出た。
ーーー
私はミカゲさんに連れられるままカフェに来ると、彼は慣れた様子で席を取り私にメニュー表を差し出した。
「リリア様はコーヒーはお好きでしょうか?俺のおすすめはブラックですが……苦いのが得意でなければカフェラテがおすすめです。」
お洒落な雰囲気の店だ……カフェなのに内装は豪華で、高級感を感じる。
それにこのコーヒーの額……!一杯2000円!?どんな味がするのだろう?
「私は大人の女よ、ブラックコーヒーくらいごくごく飲めるわ!」
私が言うと、ミカゲさんは私の顔をしばらく見た後
「失礼、ブラックコーヒー2つに……念のためシロップとミルクをお願いします」と店員にオーダーした。
どうして背伸びしようとしたのがバレたのだろう?
流石は大幹部、油断ならない。
私は運ばれてきたブラックコーヒーを呷ると、すぐに自分には早い事を悟りミルクとシロップをたっぷり入れる。
ミカゲさんはその様子を少し可笑しそうに眺めていた。
「……それで、俺に何のご用だったのでしょうか?」
「えっと……選挙の事で、少し話が……」
その言葉を聞くと、ミカゲさんは分かっていたかのように頷き、私の顔をじっと見る。
「色々考えたんだけどね……?シノを味方に引き込むよりも先にあなたの話を聞いてみようかなって思ったのよ。
もしウリュウとあなたのやりたい事が同じなら、手を組むのも悪くないんじゃないかしら?」
「なるほど、あなたらしい判断だ。しかし……恐らくそれは厳しいでしょう。」
「ど、どうして?」
「ウリュウは今、地球人と異星人が敵対しない未来……ひいては、双方の和解を理想としている。
そんな話を2年前に聞きました。」
私も覚えている。2年前ウリュウはミカゲさんとシノに頭を下げ双星襲撃への協力を申し出た。
その時にウリュウの秘密や理想をミカゲさんに告げていた筈だ。
「しかし私は……あまり地球人と仲良くしたいとは思っておりません。」
ミカゲさんはグラス越しでも分かる程の鋭い眼差しを向けながら言い放つ。
それはつまり……地球人との敵対を望んでいる?
まずい、それではアニメの展開と同じ道を辿ってしまう。
もしそんなことになればこの組織は強化されたヒーロー達に蹂躙され……破滅する未来にある。
「待って……!地球人と敵対なんてしたらこの組織は……!」
「破滅、ですか。」
「!」
私は自分の言いたい事を先回りされた事で少し動揺する。
……いや、二年前の会議でもこの話題は出てきた、ミカゲさんがそれを覚えていたって何ら不思議ではない。
「前から気になっていたのですが……リリア様は何故未来が見通せるのです?そういう能力者なのか、あるいは別の理由があるのか。」
私が未来の事を見通せるのは、ひとえに「転生者」だからだ。
しかし、それをもしミカゲさんに説明すれば……「私がリリアでないこと」が彼にバレてしまう。
「予知夢を見ることがあって……2年前の双星襲撃もそこから知ったのよ。」
「予知夢……ですか。では、もう一つお尋ねしてもよろしいか」
「何?」
私は息を呑んでミカゲさんを見つめる。
彼は少し間を置いた後、何かを決心したように口を開き、
「あなた……本当にリリア様なんですか?」
と、言った。