プランB
「あんたねえ……!今そんな冗談聞きたくないわ!」
「冗談じゃねえよ、ちゃんと狙いがある。
あんたはヒーローサイドとの繋がりもあるし、あんたの部下は皆使い勝手のいい能力を持ってる。
それに何より……本当にたまにだが未来の出来事を予知する事があるよな?
その上金持ちだ、あんたは存在自体が金になるし利用価値が高い、だから嫁に来いよ。」
「考えうる限りの最低なプロポーズね。」
「そうだよシノ、そんな事言われて はいじゃあ結婚しますと言う女性はいない。」
ミカゲさんも私に続きシノを批判する。
呆れていると、ウリュウがラボに入って来て目を見開いた。
「え、何……この状況。僕の婚約者が友達に口説かれてるように見えるんだけど」
「見ての通りそういう状況だ、シノがリリア様と婚約したいと言い出した。」
ミカゲさんがため息混じりに言うと、シノは得意げに
「だってよ、ウリュウとリリアの陣営じゃ4億なんて払えないだろ?このままなら俺はミカゲに付く。
だからリリアを俺にくれ、どうせお飾り婚約者だろ?それで全部解決だ」
と言う。
シノはこのウリュウという人物をよく知っている。
この男は目的達成の為なら天使のような笑顔で「どうぞよろこんで」と言うだろう。
このままでは私はシノの婚約者に……!
「すまないが、それはできない。」
「………えっ?」
私はあっさり答えたウリュウを驚いた顔で見る。
彼の表情は涼し気で、うまく感情が読み取れなかった。
もしかして、私と婚約者でいるの……意外とまんざらでもないのかな?
「でも4億ね、そのくらいの金額になると思って資金を調達してきたよ。
……僕からは年5億出す、ミカゲ君はこれ以上調達できないよな?」
「5億!?」
私は耳を疑う。5億なんて一体どうやって調達したのか。
「嘘じゃあないみたいだが……そんな金どっから持って来た?」
「言わば、投資の貯金分だ。ボスが退任すればこうなる事は解っていたからね、この2年間投資で個人的に金を貯めていたんだ。
……何か文句でも?」
そうか、この中でウリュウは唯一3年以内にボスが退任する事を知っていた。
だからその時点からずっと準備を進めてくれていたんだ……!
「ねえよ、そうか……お前さんにはリリアがいるからボスの退任も予測済みってわけ。
そりゃ手放したくないわな、余計欲しくなった。」
「リリアはまだ利用できるんだから譲るわけないだろ」
ウリュウが怪訝な顔で言い放つ。
この男に期待した私が馬鹿だった。
よくよく考えれば、確かに転生者として漠然とした未来であっても先の事を知っているのは強みだ。
ウリュウにとって私はまだ味のするガム、利用価値のある婚約者なのだろう。
……待てよ?この構図、一見私の取り合いのように見えるが、
この中で唯一私をちゃんと好きなのってミカゲさんだけ………?
しかもミカゲさんは私ではなく、原作のリリアに恋をしている上
今私が本物のリリアではないことを知らない。
……なんか、虚しくなってきた。
「それで?シノ、僕と協力してくれる?」
ウリュウがシノに尋ねると、シノは少し考える素振りをした後に
「今すぐ答えられないね、まだ選挙期間はあるのにすぐに決めたら勿体ねぇ。
ミカゲがその間どのくらい金を調達できるかにも興味があるしな」
と笑顔で言う。
つくづく食えない男だ。
確かに5億で話が纏まるとなれば、ミカゲさんは何とかしてそれ以上の資金を調達しようとするだろう。
「……仕方ないな、今日は帰るよ。
リリア、行こう。」
私はウリュウに手を引かれラボを後にした。
「どうするの?ミカゲさんが5億以上調達したらこっちに勝ち目はないわ。」
私は帰り道、ウリュウに訴える。
「そんな額用意できっこない……と、言いたいところだけど。
ミカゲ君ならやるかもしれない、彼はそれだけ優秀だ。」
ウリュウは少し参ったように頭を抱える。
「あの………さ」
「何?」
「私……シノの婚約者になってもいいわよ」
私が言うと、ウリュウが足を止める。
「だ、だってほら!私がシノの婚約者になったってナギの救出には行けるし、貴方の支援ができなくなる訳じゃないわ!
お飾り婚約者から別のお飾り婚約者に変わるだけじゃない!
すぐに事が決まるなら私はそれでも問題ないの、だから……」
私が言い切る前にウリュウは振り返ると、私を睨みつけ顔を引き寄せた。
「え……」
「それじゃナギの気持ちはどうなる」
思ってみもなかった言葉に私は目を見開く。
「僕はナギに『暫くリリアをよろしくお願いします』って言われてるんだ、少なくとも彼の記憶が戻るまでは君にも手を出さないし他にも渡さない。
……利用価値だけで執着してると思ってた?」
「……その、言い方だと……ナギの記憶が戻ったら私に手を出そうと思ってるみたいに聞こえるんだけど。」
私が言うと、ウリュウは少し視線を逸らした後
「そう言った……子供じゃないんだからいちいち確認して来るなよ。」
と言って少し赤くなりながら俯く。
「そう……もう子供じゃない……んだ、私。」
赤面したウリュウを見て、何故かこちらまで恥ずかしくなってしまう。
「まあ!まだちんちくりんなのは変わってないけどな!16歳の癖にいつまでもチビだな君は!
あと何くっついてんだ離れろ!」
「あんたが顔掴んで来たんでしょ!」
私たちはどこかいたたまれない空気の中沈黙する。
「コホン!……そういうことなら、プランBよ」
沈黙を破り、私が言う。
「プランB?」
「シノよりも先に……ミカゲさんと協力関係を結ぶ!
そうすればこの選挙は勝ったも同然よ!」