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金額交渉

「………はっ!」


私は自室で目が覚める。

皆は帰ってしまったようで、周りを見渡すとそこにはウリュウが座っているだけだった。


「あ、起きた?君も難儀だね、ヒーローに彼女が出来たかもしれないってだけで倒れるなんて。」


ウリュウは私が目覚めたのに気づくと、本を閉じながらため息交じりに言う。


「悪かったわね、初恋の人にそういう存在が出来るのは多かれ少なかれショックなのよ。」


私は俯きながら、口を尖らせて言う。


「……解らなくも無いけど、もう少ししっかりしてくれよ。君はブラックホール団の幹部で……仮にも今は僕の婚約者なんだから。」


ウリュウは私の髪を撫でる。

婚約者など名ばかりで、この2年間こき使われた覚えしかない。

お互い異性を寄せ付けない為の肩書に利用してるだけではないか。


「お名前だけの婚約者様のくせにもしかして嫉妬してるって言いたいわけ。」


「ちょっとね」


ウリュウはあっさり答えてみせる。

私は思ってもいない回答に思わず黙って俯いた。


「まあ、それより……君に話しておきたいことがあったんだ」


ウリュウは改まって私の顔を真剣に見る。


「何……?」


「近々、僕、ミカゲ君、シノの中からボスが選ばれる。ここで僕が選ばれなければ、ナギ救出の難易度が上がってしまう。

そこで、色々考えたんだが……この選挙、『シノ』を落とした方が勝利すると思う。」


シノを……?


「どうしてそう思うの?」


「シノは恐らく、ボスの座にそこまで興味が無い。

彼がもしボスの座を狙う理由があるとすれば金を調達したいという一点に尽きるだろう。」


「……金で解決できるなら、融通が利く。」


「そういうこと、話が早いね。

金さえ提示できれば、シノは味方に付いてくれる可能性が高い。

……一方で、ミカゲ君は恐らくこの組織にくらかの不満を持っている。

ボスになってそれを改善したいという気持ちは強いだろう。」


つまり、お金を差し出しても味方には引き込めないということか。


「そして大変残念なことに、ミカゲ君もシノを落とせばこの選挙で有利になることに気付いているだろう……

つまりこの戦い、シノにより多くの資金を提示できた方が勝ちだ。」


「でも……ウリュウの医療班って、そんなにお金があるの?」


私が尋ねると、ウリュウは無言で首を振ったあと

「医療班にはない。その点ミカゲ君は経理を担当しているから、やろうと思えば組織の金をシノに割くことが可能だ。」

と呟いた。


それはまずい。

スタートラインから大分不利な部分に立たされているようだ。


「と、なると……ウリュウや私のポケットマネーを差し出すか……

『お金よりも魅力的な餌』をシノに提示しないといけないわけね。」


「そうなるね。できればポケットマネーで対応したいが、いくらまで膨れ上がるか予測が立たない。

それにシノがお金以上に好むものなんて、思いつかないな」


ウリュウは言いながら首をひねる。

私もシノのラボにはたまに料理を差し入れに行ったり掃除しに行ったりしているが、彼は本当に研究以外興味が無い。


「早速明日交渉に出向いてみるけど、かなり足元を見られる覚悟はしたほうがいいかもね」


ウリュウの言葉に、私は緊張しながら頷いた。


ーーーー


後日、私は大量の焼き菓子を焼いてシノのラボに向かう。

するとそこには既にミカゲさんの姿があった。


「ああ、リリア様……!こんな所でお会いできるとは奇遇ですね。」


ミカゲさんはそう言って駆け寄り私の手にキスをする。


「おっ!それ手作りか?流石、俺の好きなもんが解ってんじゃねえかリリア。」


シノは作業をやめてこちらに歩いて来ると、私から焼き菓子を奪い取る。


「ちゃんと手洗ってから食べなさいよ!あんたすぐキーボード触った手で食べようとするんだから!」


「わーってるよ……母ちゃんかあんたは。」


シノはそう言い捨て、手を洗いに行く。


「……リリア様……?もしかしてこの手作りの焼き菓子とやらを差し入れするのは初めてじゃないのですか?」


ミカゲさんが焦ったように尋ねる。


「ええ、シノは人の手作りしたお菓子が好きなのよ。

それだけじゃないわ、ハンバーグとかオムライスとか焼きそばも好きなんですって。

あいつ放っておくとご飯食べないからたまに作りに来てあげるの。」


「なっ………!?俺はリリア様の手料理など食べたことがないというのに………!」


「そーなの?普段からリリアちゃまラブとか言ってんのに食った事ねえんだ……ほしいか?ほれほれ」


シノは手洗い場から出てくるとミカゲさんにお菓子を見せびらかした。


「いくらだ!言い値で買おう!」


「へえ?どうしようかな」


「……ちょっと、人の作った物で商売始めないで!

意地悪しないで皆で食べましょ、じゃないともう作りに来てあげないから」


シノは「チッ、仕方ねえな」と呟くとお茶と焼き菓子をテーブルに並べる。


「……で?お二人そろって俺様に何の用?」


シノは何かを察しているかのようにニヤつきながら尋ねてくる。


「……あー……」


私とミカゲさんは緊張した面持ちでお互いの顔を見る。

相手の出方を見てから、もっと好条件で取引がしたい……!

しかし考えていることは2人とも同じだ、このままでは一向に話が進まない。


「シノ、単刀直入に言うけど……!今回の選挙、ウリュウと手を組まないかしら!?あなたが手を組んでくれたら、あなたのラボに資金援助を欠かさないわ!」


「ほお、ミカゲは」


「ほぼ同じ要件だ、君のラボの発展はこの組織にとって大きなプラスになる。俺がボスになった暁には組織の予算の多くをこちらに回そう……!俺と手を組まないか?」


やはりそう来たか、私はシノの顔色を慎重に伺った。


「で?どのくらい出せんの」


そんなの、相手の出方次第に決まっている……!

私達の心の声が聞こえているシノ相手に、出せない金額を無理に提示する事は不可能だ。

なるべく現実的な金額を提示したい。


「……年、3億……それくらいならお出し出来ますよ」


ミカゲさんが自信ありげに言い放つ。

3億!?とてもじゃないがそんな金額、私の部署からは提示できない……!

ウリュウが来る前に話を進めるべきじゃなかった。


いやしかし、私のポケットマネーを使えばまだ加算できる……!

お父様に深く頭を下げることになるが、これもナギや皆の為……!


「私からは、年に3億5000万出せるわ!」


私が言い放つも、ミカゲさんは余裕そうに眼鏡を持ち上げた後

「ならこちらは4億……加えて週休3日の休みを与えてもいい。

リリア様には申し訳ないですが、こちらは何かあった時の為に組織の金を貯金をしているのです、シノの為ならそれも惜しまないよ。」

と言い放つ。


「まじ!?最高じゃん!」


まずい……!4億なんて私だけじゃとても用意できない……!

このままじゃシノがミカゲさんに付いてしまう……!

どうしたらいい?何かいい条件を提示しなければ……


「リリア、焦んなって……俺が金だけで動く男だと思ってんのか?」


頭を精一杯動かしていると、シノが言いながら私の体を抱き抱える。


「……え?」


「リリア、ウリュウと婚約なんてやめて俺と婚約しようぜ?

そしたらウリュウに付いてやるよ。」


シノはそう言って悪戯に笑った。

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