復讐
「あーもう…こんなとこに服脱ぎ散らかして…駄目じゃない」
私はシノのラボで掃除を始める。
…本来だったらこんな事絶対にしないのだが…
彼のラボは空のカップ麺とかポテチの袋とか、
脱ぎ捨てた服とかが散乱していてすごく目につくのだ。
「おい!勝手に掃除してんじゃねえ!
あーそれ触んな!脱ぎ捨ててんじゃなくて置いておいてるんだよ!」
「何言ってんの!どっからどう見たって脱ぎ捨ててるじゃない!」
言い合っていると、「いた!リリアちゃま!」と
私を呼ぶ声がして振り返る。
そこにはブルーとピンクが立っていた。
「わ…こんなとこに来ていいの!?」
私が駆け寄ると、ピンクはかなり神妙な面持ちで
「話があるんだ」
と言う。
「えっと…どうかした?」
「ショックを受けるかもだけど…」
ピンクはそのまま、自分の見た事を私に話した。
「嘘…!ゆかりや焔も記憶をいじられてるの!?」
想えば…ゆかりに関してはフユキが連絡が付かないと言っていたし、
焔も凛太朗曰く嘘の電話で呼び出されたと聞いている、
狙われていたとしてもおかしな話じゃない…か。
「凛太朗君から聞いたんだけど、昨日交番に駆け込んでからすぐ
焔君が帰って来たらしくて…
その時から様子がおかしかったらしい」
ブルーが視線を落としながら言う。
私の存在が書き換わってるって事は…彼らはきっと
エリヤを信頼している状態ね
正直心配だけど…外に出れない以上は私にはどうする事も出来ない。
でもそっか…皆との思い出が…エリヤの物に…
私は、ふと自分の頬が濡れていることに気付く。
「あ…ごめん、そうだよね…こんな話
今は聞ける状態じゃなかったよな、リリアちゃま…」
ピンクは申し訳なさそうに言う。
「え?あー!あはは!違うわ!これは…埃が目に入ったの!
嫌ね、皆が大変な時に泣く訳ないじゃない!」
「泣いていいと思うよ、今凄く辛いだろ?」
ブルーが苦しそうに呟く。
「…わ、私は別に…また…思い出して貰えたらいいし
それが無理でも皆とまた1から仲良くなればいいのよ…!」
私は精一杯に強がりながら、笑顔でそう返して見せた。
「リリアちゃま…!俺は忘れないぜ!絶対リリアちゃまの事覚えてるから!
…また…会おうな」
あかりは寂しそうに言う。
何かを感じ取ったのだろうか?私がもう外に出て行けないかもしれない事を
まるで察しているかのようだった。
そしてピンクたちはウリュウにも詳細を話しに行く、
とそのままラボを出て行った。
「…おい、俺はあんたの事気遣ったりしねえぞ」
私が笑顔で全員を見送った後、シノが呟く。
「わ、解ってるわよ!気遣って欲しいなんていつ私が言った?」
「今作業中で周り見えてねえからよ、誰もいねえと思ってくれて構わねえぜ」
「…何よ…
何よ…それ…」
「俺様に対して虚勢貼っても無駄だって言ってんだ
その無理に元気なフリ、しなくていいぜ」
私は彼に言われ、そのまま隣で蹲る。
「…陰気がうつっても…知らないから」
「俺は元々陰気だから問題ねえ」
彼はそれだけ言うと、長い作業に戻る。
暫く彼のタイピング音を聞きながら、
私は俯いていた。
「…おい」
「……何」
私が蹲ってから3時間程経った頃、
シノが声を掛ける。
「データ、多分全部消せたわ
…後はユウヤの報告待ち」
彼はぶっきらぼうに言い放つ。
私は顔を上げると、彼に抱き着いた。
「おわっ…おい!暑苦しいな!」
「…シノ…ありがとう……」
シノはため息を吐きながら、しばらくその場でじっとしていたが
携帯にメッセージが来たのに気づくとそれを見てにやりと笑う。
「…おい、へたれたおにいちゃまの方も上手くいったってよ」
「…え?」
ーーーーー
一方、エリヤは指令室で優雅に紅茶を飲んでいた。
(リリアの一番のお気に入りってどの子なんだろう…?
その子と付き合ってリリアに報告したいなあ…
皆結構可愛かったしいけそうだったら何股かするのもありかも)
彼女がそんな事を考えていると、ドアをノックする音が聞こえる。
「はい」
彼女が返事をすると、秘書が穏やかな笑顔を浮かべながら入って来た。
「ああ、あなたか…どうしたの?」
「エリヤ様…大変不躾な事をして申し訳ございませんが…
リリアちゃんっぽい彼女の記録…全て余すことなく
消しちゃった!」
彼はおちゃらけながらそう言い放ち、エリヤの眉間にしわが寄る。
「何言ってるの…?冗談なら後にして欲しいのだけど」
「冗談じゃないよ!これが最後の5枚!
さっき少年たちに配った分とー…
君が持ってた写真」
秘書は言いながら、5枚の写真をライターで燃やしてしまった。
「なっ…馬鹿言わないで!写真ならずっと引き出しに…!
あれ!?ない!」
「おやおや、もしかして忘れちゃった?
君のクラスメイトに泥棒の才能がある人間がいた事」
「…ユウヤ…!」
エリヤは鬼の様な形相で緑川を睨む。
「君って相変らず卑劣だよねエリヤちゃん、正直引くわー…
証拠は消されちゃったし?
もう一度冤罪をかけるしかないかな?…あーでも
例のシェイプシフター、君が怖くて逃げちゃったんだっけ
万事休すだねー!」
彼に煽られ、エリヤは秘書の胸ぐらを掴む。
「…何だよ?自分から仕掛けておいて負けたら逆ギレ?
カメラに映った少女の顔が忘れられる頃には…
リリアちゃんはまた外に出られるようになる
あんたの悪事は放置されない、いつ復讐の時が来るのかって
せいぜい震えながら過ごしなよ」
彼は言い切るとポケットから薬を取り出し飲み込む。
すると、少し唸った後気絶してしまった。
「この…クソ男!」
エリヤはそう吐き捨て、頭を抱えたのだった。