昨日の敵
「よーし、多分これで全部っ…と」
エリヤの部屋にいた秘書の男は、リリアらしき少女が映っていた写真や印刷物を全て燃やすと清々しそうに息を吐く。
彼の中には緑川が憑依しており…今まさに内部に潜入し
リリアの写真を消している最中だった。
(記憶デバイスも全部壊したし…後はデータ管理室さえ何とかしちゃえば
完全に証拠隠滅出来ちゃうんだけど
困ったなー…あそこには役員しか入れないんだよね)
ゴミ捨て場で色々と考えこんでいると、
「何をしている」
と低い声で声を掛けられる。
「げ…!」
(赤松宗次郎!?ゴミ捨て場なんかに何の用だよ!?
ははーん…さてはこっそりタバコでも吸いに来たな?)
「赤松本部長?この建物は全館禁煙ですよ」
「心得ている…マナーがなっていないのは君の方ではないかね?
勝手に焼却炉を稼働させるとは
いっぱしの秘書が偉くなったものだ」
(見てたのか…!?バレてやがる)
「…この少女の写真…残っていると君達には都合が悪いようだな」
彼は、言いながら1枚の写真を見せて来る。
「いやいや!摺り過ぎたので処分してただけですよ?」
「隠し立ては無用…この少女、以前双星で見た異星人の少女に
顔が似ている…」
緑川は息を呑む。
(逃げるか…?)
「…しかし、別人だ
私も人の親だから解るが
本人より何歳か幼い様に見える」
「…え…」
「…少女は…何者かによって濡れ衣を着せられようとしている
違うか?」
彼の問いに緑川は一瞬硬直すると
「…はは…何をおっしゃられているのか」
と平静を装って見せる。
「まだ白を切るか…ここで私とやり合う事になるかもしれないと言っても
その何も知らない演技を続けるかい?」
赤松がデバイスを取り出すと、スイッチを入れて構える。
「なっ…わ、わかりました!降参…!
そうですよ!彼女の冤罪をなんとか取り消そうと
今証拠隠滅してたんです!
あ…でももう消しちゃったんで止めても無駄ですけどね」
「やはり…ならば助太刀しよう」
(はあ!?何であんたがこっちの協力をすんだよ!
…罠なんじゃないのか…?)
「どうした、助けは不要だったか?」
(いや…どうせ気絶してしまえば元の体に戻れるんだ
リスクを取ってでもここは話に乗るべき!)
「いえいえ!丁度困ってたんすよ赤松さーん!
データ管理室に入れなくってぇ」
「…来なさい」
赤松はそれだけ言うとゆっくりと何処かへ歩き出した。
(何が狙いなんだ…?不気味な奴…)
「あのお…一応聞いておくんすけど…何で助けてくれるんですか?」
「…ちょっとした気まぐれだ、本当に信用できる
異星人とやらが存在するのか興味が沸いてね…
加えて、私は小暮君をあまり気に入っていない」
(小暮…ああ、エリヤの地球人名か)
「彼女はある日複数の異星人を引き連れ本部にやって来た」
『ブラックホール団を裏切って来た…あいつらクソなの
私も一緒に異星人殲滅を手伝ってやるからここに入れて』
「私は反対したが、彼女の能力や思想を
上層の役員の何名かが気に入ってしまい
そのままここに入る事になってしまった
正直彼女の事は好かん、異星人なのもそうだが
言い知れない不気味さを感じることがあってね」
「不気味さ…ですか」
「その彼女が被害者で、カメラに映った少女は偽物…
きな臭いじゃないか
彼女が何か悪い事を企んでいるなら
阻止したいと考えるのは悪いことじゃないだろう?」
「…なるほど」
(完全に信用は出来ないが…彼から特に敵意も殺気も感じない
本当に…味方してくれているのか?)
赤松は緑川をデータ管理室に招くと、
コンピュータ内のデータを消去してしまった。
「はは…本当に消すんですね」
「まだ、残っている仕事があるぞ」
その言葉に緑川は一瞬身構える。
赤松は懐から写真を取り出すと、ライターでそれを燃やした。
(…まじ?)
「赤松さあん…やっぱたばこ、こっそり吸ってるでしょ?
何でライターなんて携帯してるんすか」
緑川が言うと、赤松は咳ばらいをしながら
「誰にも口外しない様に」と呟いた。
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一方その頃、ブルーと新しい事務所で
凛太朗と通話していた。
【絶対おかしいよ!兄ちゃんってば急に帰って来たと思ったら
エリヤエリヤって…誰なのその人!初めて聞いたんですけど!
母ちゃんは『反抗期が治って無いじゃない』って泣き出すし…
何が起こってんの!?気持ち悪い!】
凛太朗は一息で言い切ると小さく唸る。
「エリヤさんはうちの役員だけど…
焔君とそんなに仲良くない筈なのに変だね」
少し凛太朗に気圧されながら、ブルーは笑顔で答えた。
(いや…変どころの話じゃない
能力の暴走事件があったのに
彼が自分からエリヤさんに関わるとは考えにくい
喜助の記憶改ざんによるものだろうな…)
『あんたら、なんべんも記憶取り戻してきて面倒やったから
今度は破綻の一切ない様にやっといたで
恐らく記憶を元に戻すのは…ほぼ不可能や』
面会室で、喜助はそう言って笑っていた。
「えっと…エリヤエリヤってうるさい以外は特に変化なし?」
【うん、いつもと変わらないよ】
(なら、「何か」の存在とエリヤさんを書き換えたんじゃ…
焔君がそんなに夢中になる存在なんて一人しかいない、まさか…)
ブルーが考え込んでいると、ピンクが焦った様子で事務所に入って来る。
「おす!ブルーさんいる!?…あ、通話中か」
「今、凛太朗君に焔君の様子について聞いてたんだ」
「それについては俺も話してえと思ってたんだ…
おい、今から渋谷行くぞ!
やべえことが起きたからリリアちゃまに報告しに行く!」
「…え?」