約束
私はその場で膝をつき、呆然と画面を見る事しか出来なかった。
「おい!?大丈夫か?あんたの様子さっきからおかしいぞ!」
嘘だ…!嘘…!だって…昨日まであんなに普段通りだったのに
どうしてこんな事になってるの?
「…なあ、何かに巻き込まれたのか?事件?事故?
適切な場所に行こう、病院か警察に…」
ナギの言葉が入ってこない…
もし…もし他の人も私を忘れてたらどうしよう…!
…そうだ…!あかりとブルー…!
彼らも狙われているかもしれない!
記憶が一度消えれば戻すのはかなり難しい、
助けに行かなきゃ…!
私は震える足で立ち上がる。
「おい!大丈夫か…?」
私は、ナギの顔を見る。
彼の顔は動揺と少しの畏怖が混ざった複雑な表情だった。
…ここを…離れて
後悔しないだろうか?
このままじゃ別の仲間が犠牲になるかもしれない…!
それに私が一緒に来てと言ったって今の彼では応じないだろう、
警察を呼ばれたりする前に一旦離れるべき、でも
ここで離れたら一生会えなくなる気がする…!
「ちょっとそこのあなた、よろしいですか?」
どうしようか迷っていると
急に私の肩に手を置かれ、振り返る。
そこには赤い隊服を着た、男性のヒーローが立っていた。
「なあ…この子…照合してくれ」
「ああ」
後ろにも2人のカラフルな隊服を着た大人が立っており、
私は思わず身構える。
「かなり似ている…」
「でも、監視カメラの子の方が幼く見えるんだけど」
「映りの問題じゃないか?」
「捜査にご協力をお願いします、
我々はレンジャー5
吉城寺の商店街で役員暴行事件の犯人に似た少女が
少年を拉致して逃げたという通報があったのですが…」
レンジャー5!?確かこの世界でかなり大御所のヒーローじゃない…!
「実はこの少女の討伐命令が本部から出ておりまして…
お話し伺えませんか?お時間は取らせませんので」
赤い隊服の男は私の手を掴みながら言う。
「えっ…いやその…!」
どうしよう…!どうしようこのままじゃ…!
濡れ衣を着せられて組織の顔にも泥を塗る事になる…!
レンジャー5はきっとコズミック5と同格かそれ以上の強さだ…
挑んでも勝機は無いだろう。
私は意を決すると、彼の手に冷気を当てる。
赤い隊服の男が驚いて手を離すと、私はその隙に逃げ出した。
「ナギ!絶対迎えに行くから…!
絶対記憶、取り戻してあげるから…!
首洗って待ってなさい!」
言い捨てると、私は全速力で走る。
レンジャー5の足は速く、何度か追いつかれそうになったが
人ごみの中に紛れると私の小柄な体格が幸いして
完全に撒くことが出来た。
今は迷ってる時間はない…!
あかり達と合流して安否を確かめなきゃ!
あかりが通う塾を通り抜けると、暗い路地に続く道の前で
男性と女性が話し合っている。
「なんか…変な音聞こえるよな、やっぱ」
「喧嘩かしら?怖いわ」
あの先に…!いるんだ、ブルー達が…!
「あっ…ちょっと君!危ないよ!」
私は二人の間を抜け、暗い路地へと駆けていく。
間に合え…!
路地にはずっと地響きのような音がしており、
音の方向へ走って行くと、龍の様な見た目に変貌した田村と
それと戦い力で押されそうになっているブルーがいた。
私は近くにあかりを見つけると、そこに駆け寄る。
「あかり!」
「リリアちゃま!」
名前を呼ばれ、安堵する。
よかった…!忘れられてない!
「…あれ、どういう状況?」
「田村さんが恐竜みたいな見た目に変身して…
めっちゃ強くなったんだよ
そっから大吾さんが苦戦してる」
「あかりは参戦しないの?」
「俺の能力知ってんだろ!
爆破だぜ!?彼を巻き込むし…
大吾さんの能力も人を巻き込みやすいんだよ」
彼女が顎で指した場所は、地面が隆起して荒れている。
そっか…そういえばブルーは地面を操る能力なんだっけ。
確かにそれなら無理に加勢しない方が良い…
何なら足手まといになる可能性すらあるというのは理解できるが
あの様子を見るにブルーはかなり疲れて来ており、
いつ田村に力で負けてもおかしくない。
どうしようか考えていると、田村の蹴りがブルーの胴に当たり
ブルーがこちらへ飛んでくる。
「大吾さん!」
あかりが咄嗟に受け止めるも、彼はかなり消耗している様子で
とても戦える様子ではない。
「…3人で…勝ちましょう」
「で…でもどうやって?一番戦える大吾さんがこんな状態なのに」
私は周りを見渡し…工事中看板に目をやる。
「ねえブルー…あんた、能力ってどのくらい使える?」
「地面…ちょっと浮かせるぐらい…」
「充分よ!いい?あんた達…」
私は小声で二人に指示をする。
「えっ…本当にそれで上手く行く!?」
あかりが焦った様子で言う。
「一発勝負よ!やってみるしかない!あ、
あかり…これ眼鏡…目、守れるかわかんないけど」
私はそう言って彼女に眼鏡を私と工事現場に開いてあった袋を手に取り、
ブルーの手を取って歩道橋に上がり、冷気を溜め始める。
「あの時」と同じように…!大丈夫よ、二度上手く行ったなら
三度目だった絶対に上手く行く!
「…あ…?なんや、あの転生者来てたん?
あかりちゃん一人にしてくれるなんてサービス精神旺盛やんか
…さ、あかりちゃん?また元のあかりちゃんに戻ろうや」
言いながら、田村はゆっくりあかりに近寄る。
「また俺に負けて泣くんじゃねえぞ?田村さん」
「負けへん負けへん…今俺…最強やから!」
田村があかりに飛び掛かる。
あかりは彼と距離を取りながら、中規模の爆風を起こした。
「だからそんなの効かへ…ゲホッ…何やこれ…!」
爆風に乗って、白い「何か」が視界を遮っていることに彼は気付く。
「石灰か…!?」
田村の周りはあかりが巻き上げた爆風に乗った石灰によって霧がかる。
それでもあかりが逃げるのを足音で察知すると、
彼は音の方へ進もうとする。
「…今だ!」
ブルーは田村進行方向にある地面を隆起させる。
田村はそれに一瞬足を取られバランスを崩した。
その一瞬の隙に、体に充満させた冷気を放出する。
…ねえ、田村
確かに原作のアニメを愛している人間とって
私のやってる事って「異端」よ。
…でも…原作以上に皆が幸せで、救われる人がいるなら…
私、それでもいいと思ってるの。
だって…私はこの世界で知り合った皆の事が大好きで…
辛い思いなんてして欲しくないって思うから。
だから…
私の仲間にこれ以上…手は出させない!
…私は、目を見開く。
「あの時」と同じように体が浮き上がるような感覚と、
体中が凍り付くような冷気が身を包む。
足元に気を取られていた田村に冷気が襲い、大きな氷の柱が
彼をあっという間に閉じ込めてしまった。