再起の祈り
「へー、ウリュウが勝ったのか」
私達は体育館で待機していたシノたちにも報告に行く。
体育館は迎撃に成功したと知らされた生徒達の歓喜の声で溢れ、
シノは暑い日の猫のように溶けて行った。
「なあ~…オレサマ早く帰りたいんだけどよー…」
「ああ…!そうね!そろそろ皆で帰りましょうか!
…っと!その前に!」
私は時計を見るとウリュウ達の顔を見て
「ちょっとだけ待ってて!」
と言いながら走り去った。
まだいるかしら、あの二人…
私が西口付近を探していると、プラチナプロンドの兄弟の姿が目に入った。
「カグラ!」
カグラは少し嬉しそうにこっちを見て手を振る。
「リリカ…!その様子だと勝てたんだね、良かった…!」
「そうなの…!貴方のおかげ!…貴方のおかげついでに…
もう一個だけ、お願いがあって」
私はもじもじとした様子で彼を見る。
「何?」
「その…実はね、私の大事な友達が…今、凄く弱ってて…
あなたの能力で治したいの
力を貸してくれないかしら…?」
「勿論いいけど、どこにいるの?」
「それが…ブラックホール団のアジトにいるの…」
私が照れ臭そうに言うと、二人は目を丸くする。
「えっと…一緒に来いって言ってる!?」
「だめ…?一瞬だけでいいのよ!」
二人は顔を見合わせるとクスクスと笑いながら
「いや…俺達親もいないし…構わないよ」
と言った。
親がいないっ…って…いや、余計な詮索は野暮ね。
「ありがとう!行きましょ!」
ブラックホール団の一同は、
そのままネメシス団員と共に渋谷の基地へ戻る事になった。
これは余談だが…この日の働きが評価され、
ウリュウ達のファンが双星内で爆増したんだとか。
ウリュウの地球人と異星人の溝を埋めるという作戦は、
図らずも水面下で順調に進みつつある。
ーーーーーー
「やあ!ネメシス団員諸君~!
目覚めはどうだい?」
双星防衛に成功した翌日、
ブラックホール団のホール内で、ウリュウが呼びかける。
ホールにはクロを始め複数人の団員が顔を並べていた。
手を縛られた団員たちは、不機嫌そうに彼を睨んでいる。
「最悪に決まってんだろ!アホか!」
クロが顰め面で言い捨てる。
まあ、負けて縛られて拉致されたら気分悪くするわよね普通。
「君達の処遇について一晩ボスの元で議論したんだが…
血気盛んで戦える人間も多そうだし!
若くて使えそうな団員はブラックホール団の戦闘員に迎えることにした!
…あ、反逆しようとか考えるなよ?
君達の首に付けられたその首輪…
僕達に逆らうと爆発する様になってるから」
ウリュウが天使の笑顔を浮かべながら言う。
「デスゲームかっ!えぐい事しやがってこの人で無し!」
クロが顔を真っ青にして言う。
「こほん!…それから!
ここに呼んだ団員の経歴は把握済みだ…
やむにやまれず地球人に反旗を翻した者
家族を傷つけられた報復に剣を取った者…
実に様々な事情があった事が解った」
少年たちは彼の言葉に黙り込む。
「地球人を許せとは言わないが…
地球人の中にも見込みのある人間はいる…と、思う
僕はここに身を置くことで
それをおいおい知って貰えたらいいと思っている
いい働きをしてくれよ
裏切ったら…殺す」
ウリュウの天使の笑みから放たれる物騒な言葉に
彼らは恐怖の表情を浮かべる。
あー、懐かしい…私も最初言われたっけねアレ。
大丈夫よ、本気じゃないわって言ってあげたいとこだけど…
こいつの場合殺すより残酷な嫌がらせもしてきそうだし
冗談冗談って無責任に笑い飛ばせないのよねー…
「先輩のリリアからも一言どうぞ」
私はマイクを渡されると、言葉に迷う。
あまり楽観させても可哀想だし…そうね…
「あー…あんたたち…運が悪かったわね」
残念そうに言い放つ私を見て、クロたちの顔は絶望の色に染まったのだった。
ーーーー
「へー…その集会、
参加しなくてよかったかも…」
クロ達新人への挨拶を済ませると、
私とウリュウは医療班のアジトにいるカグラと合流する。
「どうして?いい会だったのに…
ねえリリア!」
私はウリュウにそう振られて目を逸らす。
いい訳あるか!!
…とどめを刺したのは私だった気もするけど…
お通夜みたいな空気だったわよ!
「…カグラ君はもう能力を使っても問題なさそうなの?」
「はい!一晩寝たら力が戻ってきた気がして…!
多分いつも通り使えます」
彼が言い切ると、ナギの眠っている部屋に到着する。
ナギは前より苦しそうにもしておらず、
本当にただ眠っているだけのように見えた。
「この人を…治す、ん…ですか…?
怪我人には見えませんけど…」
カグラは不思議そうに尋ねる。
「恐らくだけど…生命力が無くなっちゃってるのよ
私とウリュウを身代わりにしていいから、
彼を治して欲しい」
私が言うと、カグラは頷いて祈り出す。
お願い…!お願い!上手く行って…!
―ねえ、ナギ…私ね、気付いた事があるの。
あなたがいない何日かの間、本当に寂しくって、心細くって
でもあなたの顔を思い浮かべたら…またあなたと話したいって思ったら
不思議と元気が沸いたんだ。
前世でもそう。
辛い時、勉強が上手く行かない時、友達と喧嘩した時…
貴方の出て来るシーンを思い浮かべたら
不思議と負けてたまるかって気分になれたの。
ずっと…貴方がいたから私、今まで頑張れたのよ。
だからね…だから…!
目を覚まして欲しい…!
祈りが通じたかのように、窓の陽がナギに差す。
それと同時に、体に酷い倦怠感が襲った。
そして、ナギの浅い息遣いと共に、「ん…」と声が漏れたのが聞こえる。
彼は、陽に照らされながらゆっくり起き上がり
喜ぶ私とウリュウを見て、不思議そうに目を瞬かせた。