後悔の重さ
「あーあ…凹むわあ、当たり前の様に記憶取り戻してまあ
また消さんとあかんくなったやんか」
「消えるかよ…!俺の後悔と…絶望は!
簡単に消せるもんじゃねえのよ!」
俺は、そう言って彼の手を掴んだまま遠くに投げる。
彼は体制を崩す事なく後ろに飛んで着地すると、にやついた顔で俺の事を見た。
「おい!若葉ちゃんまだ動けるだろ!?
建物の中に隠れてろ!」
「で、でも…」
「いいから!俺の能力知ってるだろ!
人が周りにいると邪魔なんだよ!」
彼女は頷くと、緑川を抱え建物の中に入って行く。
俺は彼女を見送ると思い切り田村さんに殴りかかる。
そして思い切り爆風を彼に浴びせるが、
彼はよろけるのみであまり効いていない様だった。
…流石、この威力でよろける程度とは…!
やっぱりこの人、異星人の中でも…強い!
「そんなん効かんわ!威力が足りん!
…それになあ、あかりちゃん
俺かて後悔は人一倍してきとんのよ!
こだわりの強さなら負けへんで!」
彼の反撃の拳は重く、受け止める度腕に衝撃が響き圧倒される。
段々と、彼の蹴りや拳を受け止める手が震え始めた。
このまま肉弾戦が続けば、確実に俺の方が先に消耗するだろう。
どうすりゃいい…!
「なあ、聞いていいか…
あの2人は相思相愛なんだ、
幸せで何よりじゃねえか
なのに何でぶち壊すんだよ!
原作と違うからか!?」
俺は何とか彼の隙を見つけようと、
彼と撃ち合いながらそう尋ねる。
「それもそうやけど…不公平やんか」
「あん?」
「緑川君なあ、アニメには出とらんねや
あんたも知っとるやろ?
多分アニメの時空じゃ死んでいて…
なのにこっちでは
若葉ちゃんと結ばれて
めでたしなんて事になったら…
あの子は どうなる?」
…あの子?
誰の事だ…?
「あんたら転生者が暴れてくれよったお陰でな!
アニメで生きていた筈の人間が
命を落としとるんや!
なあ、なあ、
なのに何であんな異星人庇わなあかん!
そんなん…ずるいやんか!」
田村さんの拳は震えている。
それまで飄々としていた態度とは打って変わって、
彼の動揺や絶望が伝わって来た。
転生者が暴れて…原作に出てくる誰かが死んだ?
俺は心当たりねえし、
リリアちゃまはそんな事する様な子じゃねえ。
まさか…リリアちゃまや俺以外にも転生者がいて…未来を最悪な形に捻じ曲げたのか?
「…言いたい事は解った
だがな、あんたの言ってる事って
要するにただの僻みじゃねえか!
他のクソな転生者の事は擁護しねえが
それはそれ!これはこれだろ!
誰かが原作よりハッピーになれるんなら
それに越した事は無いね!」
俺は持ちうる力で彼の震えた拳を押し返す。
「俺は決めたぞ、
この世界の森羅万象のてぇてぇは俺が守る!
愛の戦士ピンクの怒り…
受けてみろゴルァ!」
拳を押し返されると思っていなかったのか、田村さんは一瞬だけよろける。
…今だ!
俺は力を込め、今まで出した事無いくらいの威力の爆風を田村さんにお見舞いする。
煙立ち、遠くにあった建物のガラスは割れ…
砂埃と火薬のような匂いで咳き込む。
彼の身体は宙に浮き、
そのまま強く地面に叩きつけられた。
勝…った…!
勝ったよ…!寛也…!
ーーーーー
ー喜助は爆風に巻き上げられている中、
誰かに思いを馳せる。
(涼子ちゃん、あんな…俺
君が生きてたら伝えたかった事があるんよ
好きやった、がまず一番やろ?
それから
…幸せでいてくれ、って言いたかってん)
「あかりちゃん!」
割れたガラスの扉から、若葉と緑川が顔を出す。
「おー、緑川君も目覚めたんだ」
「お陰様で…あの、ありがとうございます
僕たちを守ってくれて…」
緑川はそう言ってピンクに頭を下げる。
「いーのいーの、俺の因縁の相手でもあったからさ」
「…あの人…どうします?今のうちに縛った方が…」
「ってへん…」
「え?」
地面に伏せていた喜助は、ゆっくりと立ち上がりピンク達を睨む。
その目は爬虫類の様に瞳孔が縦に走っていた。
「まだ…終わってへん…
俺ぁ立てるで…!
ハッピーエンドで終われると思たんか!?
竜族の頑丈さ舐めんなや!」
彼はそう声を上げながら立ち上がる。
ピンクがもう一度身構えた、その時
「いえ…もう終わりにしましょ
来ますよ、そろそろ」
と若葉が呟く。
「…?」
耳を澄ませると、何者かの足音が地面を揺らしながら近づいてくる。
砂埃の中現れたのは…
クマにゴリラ、ライオンにゾウと言った、
とても普通の人間では相手に出来ないような猛獣だった。
「まてまてまてタンマ!
どっから連れてきたんこいつら!」
「劣勢だったので鳩さんや虫さんにお願いして
動物園から呼んでみたんです!
檻はお猿さんとかカラスさんが
頑張って開けてくれたんだー!
あかりさん、時間を稼いでくれてありがとう」
「えっ!?あー…はは?」
あかりは真っ青な顔で若葉を見る。
その口元はピクピクと痙攣していた。
「そして田村さんも!
緑川君をいじめてくれてどうもありがとう
死ねとは言わないから…地獄に堕ちて?」
若葉が鬼のような形相で言い放つと、猛獣達が田村に一斉に襲いかかる。
「ぎゃあああああ!」
田村の悲鳴は、虚しく空に響き渡った。
「若葉ちゃん!」
田村がむごいことになった後で、みつばが若葉の元に駆けつける。
「あらあらあらぁ!
大丈夫!?酷い怪我じゃない!
誰にやられたの?
お母さん締めてきてあげる!」
「大丈夫だよお母さん!
この傷負わせて来た人は
ゾウさんの足の下で眠って貰ってるから」
みつばが見ると、田村はぐるぐるに縄で縛られ、ゾウの足の下で転がされていた。
「あら、イエローちゃん楽しそう〜!
きっとゾウさんが夢に出てくるわね!」
「そういえば…一緒に赤松さんも来てたけど
あの人はどこに行ったんだろう?」
ピンクが冷静に尋ねる。
「あら…イエローちゃんは赤松君のツレだったのね!
私も気になるわー、どこに行ったのかしら?」
「あー…全然わかんないや」
「そう…人の娘にこんな傷負わせといて、
何の責任も取らせない訳にはいかないわ
しっかり…地獄を見せてあげないと」
みつばはそれだけ言うとどこかへ消えて行った。
「おい君…あれが母になるわけだけど
本当に後悔してないの?」
ピンクは緑川に小声で問いかける。
「まあ…はい…」
緑川はピンクの顔を見る事なく、俯きながら呟いたのだった。