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リリアになった日

焦げた匂いが鼻を刺激し、火のゆらめきを近くに感じる中、私は横たわっている。

燃え盛る炎の音を聞きながら、私の心はどこか安らいでいた。

ああ、死ぬのね…私


動けず宙を仰ぐ私の顔を、黒髪の少年が覗き込む。

ああ、この子の事はよく知ってる…

私に引導を降ろした、正義のヒーロー…

そしてかつて、仲間だった過去を持つ男。


彼の纏う黒いヒーロースーツは

炎の光を受けて赤く染まっていた。


「リリア…俺はあなたのことを一生許せないでしょう」


言葉とは裏腹に悲しそうな顔をする彼。

それでいいのよ、これは因果応報

私の弱さや愚かさが招いた、滑稽なお話。


黒髪の少年は、私の顔にそっと触れる。

それと同時に、私は深い眠りについた。


―でも、許されるなら…やり直したい


もっと、私に運命に抗うほどの力があれば

権力に立ち向かう勇気があれば

事態を予見できる知識があれば


未来は変わったかもしれないのに…!


私は、いろんな場所を彷徨って

海の中でもがき苦しむ哀れな少女を見つけた。


ああ、可哀想に…こんな深い所にいてはもう助からない

少女の手を握ると、彼女の走馬灯が私の頭を駆け巡る。


私は確信した。

この子なら…この子ならきっとあの悲惨な未来を変えてくれる!


溺れる少女は、畏怖の表情で私を見る。

大丈夫よ、ここで死んでもあなたの物語は終わらない


何故なら、あなたは…



暗い場所で、意識が遠くなっていくのを感じる…

冷たい、苦しい…ここは…海の中…?

おかしいな、さっきまで楽しく眺めてた筈なのに


あれ…何で私沈んでるの…?


こわい…何これ…

重たい水を必死に掻きながら何とか上に上がろうとするが、上手く行かない。


すると暗い中から誰かの手がもがき苦しむ私の手を握る。


…誰…?


ーーーーーーー


「おあ!?」


私は叫び声と共に目を覚ます。

なーんだ!溺れてる夢かあ、怖かった。


しっかし…何だろうこの部屋?

何だかやけに煌びやかだけど…ホテルかな?

私さっきまでどうしてたんだっけ?覚えてない…

急に誰かに呼び出されて…それで


「リリア様、そろそろお支度を」


私が何とか思い出そうとしていると、メイド服の女が私に怪訝な顔で言う。

リリア!?私の名前は真理愛だし!そもそもこの女の人誰!?


「あの…ど、どちら様…」


「何を仰っているんですか?はあ…寝ぼけているのかしら

 こちら今日着る予定のお召し物です、早く身支度をなさってくださいな」


そう言ってメイドは私にドレスやコルセットを投げつけた。


なんか…舐められている事だけはひしひしと伝わる…!

大体こんな服着た事無いんだけど!?コルセットとかどうやって着けるのよ!


状況を把握する為キョロキョロと周りを見渡していると

動揺した私と、『私』の目が鏡越しに合う。


「うわぁ!?嘘何これ!」


これ…!この意地の悪そうな釣り目!

強固な巻き髪!

私の好きなアニメ「宇宙戦隊コズミック7」の敵役

「リリア」じゃない!


「コズミック7」は所謂ヒーローもので、リリアの所属する「ブラックホール団」との熾烈な戦いが売りのアニメだ。

私はそれに出てくる「ブラック」が推しで、中学時代の青春を捧げた言っても過言ではない。


私は特にヴィラン萌えとか無かったし、

リリアはブラックをいじめてたキャラだから複雑だけど

キャラデザは可愛いと思ってたのよね…流石、アニメの通り美少女だわ!


あれ…何だか目が腫れてる?まるで泣き腫らしたみたいな…

はは、まさかね、あの強情なリリアに限って泣くなんて…


じゃなくって!何が起こってるの!?


まさか…まさかこれ…


…夢?


そうよ!きっと何かの夢!

最近ずっとコズミック7ばっかり追ってたからその夢を見ちゃったのね!


悪役とはいえ作品の中に入れるなんてラッキーじゃない!

もしかしたら推しのヒーロー達とも会えるかもしれないし!

でも、このリリア何だか幼い…?

もしかしたらアニメで見た時空より前の夢を見てるのかも。


「いつまで自分の姿を眺めているのかしら、いやらしい」


「ナルシストも度を超すと病気ね」


あと凄い嫌われてる…!


「あの、この服の着方が解らなくて…教えて欲しいのだけど…」


引きつった笑いでお願いするも、メイド達は冷ややかな目で見るのみだ。


「そんな常識までお忘れになったの?

 嫌だ、頭悪いとは思ってたけどそんなに忘れっぽいとは…

 今日は就任式をお休みして病院に行かれるべきだわ」


就任式…?

これだけいて結局誰も教えてくれないし!


「ちょっと!いつまで支度に手間取っているの!?」


少し凝ったデザインのメイド服を着た女の人がそう声を上げながら部屋に入って来た。


「げっ…キアラさん…!

 リリア様がふざけるものだから準備が進まなかったんですう」


「キアラ」と呼ばれた彼女は少し地位の高いメイドの様だ。

おずおずとしながらメイド達が告げ口する。


「そうなんですか?リリア様」


「違う…!その、服の着方を忘れちゃっただけ

 聞いても誰も答えてくれなくて」


「…貸して」


キアラさんはため息を吐きながらも淡々と私に服を着付けてくれる。


「あの…ありがとうございます」


私がお礼を言うと彼女は驚いた顔をして


「言葉だけって解っているのよ

 自分でも弁えていると思うけれど…あなたのお姉様が『あんなこと』

 になって誰も貴方を支持する人間なんかいない

 今更尻尾を振ったって無駄」

と淡白に返した。


あんな事?ここまで敵意を向けて来るってよっぽどのやらかしよね?

やらかしたのは「姉」なんだから、もうちょっとリリアに優しくしてくれてもいいのに。


しかし、彼女は言葉こそ冷たいものの

他の使用人達とは違い手を貸してくれた…

この人ならまだ味方と認識していいのかも。


「キアラさんって本当に甘いわよね、私達には鬼の様ですのに」


それにしても、リリアってば嫌われ過ぎでしょ!

彼女ってアニメでは性格大分歪んでたけど

全然愛されてる感じしないな…結構可哀想な奴なのかも


訳も分からぬままおしゃれをして屋敷を出ると、

連れてこられたのはアニメでも見た事のある

「ブラックホール団」の基地だった。


近未来的な雰囲気とバロック調の建造物を融合させたかのような独特な内装は、

私の中にある厨二心をくすぐって来る。


大きな広間には軍服のような妙な服装の人物達が並んでおり、私たちの到着を待っている様だった。


ー私は、周りを見渡す。

 恐らくこの人達は幹部なんだろうけど…

 知ってる顔が1人もいない。

 やっぱりこの夢はアニメ以前の出来事みたいだ。


そしてこの場にいるほぼ全員が、使用人達と共に入って来る私を

冷ややかな目で見たり、嘲笑したりしている。

何だか嫌な雰囲気…


「きょろきょろしないで、ボスが来たわ」


キアラさんの言葉で真っ直ぐの方向を向くと、

見た事も無い威圧感のある老人が、広間の真ん中へ歩いて来るのが見えた。

アニメで見たボスと違う、誰だろうあの人?


凝視していると老人はゆっくり私を見て


「悪の令嬢リリア・グレイシャ、前に出なさい」

と威厳たっぷりに言い放つ。


「あ…はい!」


やけに静まり返った場に私の足音のみが響き、

雰囲気の悪さからか足が少し重く感じた。


私は老人の前まで来ると、体が勝手に彼の前に跪く。

きっとリリアの体が、「この人に逆らってはいけない」

と覚えているのだろう。


「この席には代々グレイシャ家が就任する決まりだ

 お姉さんとは違い君には誠実さがある事を期待しているよ」


彼はそう言うと私の手を取って左手の人差し指に指輪をはめた。

きっとこれが幹部の証か何かなのだろう。


しかしお姉さんと違ってってどういう事…?そっか!

リリアの姉はブラックホール団を裏切ってヒーロー側に付いた人だった筈…!


リリアは姉に捨てられた恨みと味方がいない事への孤独さからヒーローを憎むようになった…そんな設定だったわよね…?

きっとこの就任式はお姉さんが裏切った後の物なんだ。


ひゃー、そりゃこんな空気にもなるよ!

私がお辞儀したって拍手してるのは数人だもん。

私だったらこんなとこ飛び出して行っちゃうかも…


「リリアの教育係にはウリュウを付ける、

 初任務の話は彼から聞きなさい。それでは解散」


彼の言葉で全員が散り散りになる。


「はー、やっと終わった」


「怠かったー」


何よ…!聞こえるように言わなくたっていいじゃない!

揃いも揃って悪人面しちゃって…!


リリアって…もしかして苦労人?

お姉さんが罪を犯した後でこんな若く幹部に就任させられるなんて

しかも周りは愛想の悪い使用人達に自分をよく思って無さそうな幹部たち。


いつも高飛車で意地悪そうな高笑いをしている彼女に本当にこんな過去があったんだとしたらちょっと同情しちゃうわ。

だからってブラックを虐めてたのは許さないけど!


そういえばさっき教育係がどうとか言われたわね

色んな事に気を取られてしっかり聞いてなかったわ

そうだ、確か…


「やあ、リリア

 会うのは久しぶりだね」


頭を悩ませていると、誰かがリリアを呼ぶ。

咄嗟に振り返ると、そこにはとても綺麗な顔の男性が立っていた。

息を飲むような美形だが、それでいて何か視線の奥に冷たさの残る男性は、

他の悪人面の幹部達とは何か違うものを感じる。


この人が…さっき言われてた私の教育係?


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