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 2万8507人。償い総数ランキング不動の一位M.J.の数値が動いた。


「2年は動いて無かったのにな」


「償い終わったんだとしたら、コイツはデカいな」


 償い斡旋事務所の掲示板前は沸いていた。


 そんな様子を見ながら、俺は手汗が止まらなくなっていた。体が冷たくなる。まるで死んだ様だ。


「コウさん」


 そんな俺の横から、いつの間にカウンターから出て来たのか事務員が声を掛けて来た。


 事務員は、固まって動きの悪い俺の首を両手でグッと自分の方に向けると、右目の下瞼を捲ってコードを勝手に読み取る。出て来た用紙をカウンター内の別の事務員から受け取ると、俺に渡した。


「どうぞ」


 俺は無言でそれを受け取ると、顔の向きを戻して総数ランキングを指差す。


「あれ、ナニ?」


 若干震えた声で俺は聞いた。


「総数ランキングです」


「・・・知ってる」


「・・・では」


 会釈して戻ろうとする事務員の首根っこを掴んで止めた。


「手荒な事はお辞め下さい」


「M.J.の数増えたんだけど」


「はい。3日前に1人償われました」


 3日前。


 それって、そうなのか?


 そう言う事なのか?


 考える俺を置いて、事務員はもう一度会釈して戻って行った。


 俺は渡された用紙を見る。


 簡単な償い一件。条件他無し。


 まだ何も頼んで無いのに、欲しい情報を受け取っている。


 背筋を冷たい物が流れた。


 俺は、今一体、何をやらされているのだろう・・・。




「償っても償ってもすぐ金が無くなるんだが」


 事務員に向かって愚痴を言う。


 この世界に来て大体一年になるだろうか。


 仕組みを飲み込むのに約1ヶ月。以来順調に償いを行うもの、必要経費やら何やら出て行くモノの方が多くて毎度毎度の自転車操業状態。


「コウさんの場合、毒物を多く使われますからどうしても経費が嵩みますね」


「そうなのよ」


「もう少し総数が増えれば安定して来そうですが、いっその事毒物を自作されては?畑付きの物件をご紹介致しますよ」


「面倒な事は苦手なのよね」


「あっ、では。今条件付きの償いが一件発生しました。長期的な条件になりそうですが、良ければ如何でしょう?」


 条件付きは、まだ受けた事が無かった。


「俺に行けそう?」


「コウさんなら」


「金貰える?」


「上手く運べばかなりの額の給与になるかと」


 俺は右目の下瞼を捲り、ついでに舌も出した。事務員はコードを読み取り用紙を渡してくる。


 それが、ジェイとの出会いになった。




 登録名、ジェイ。


 日時、本日なるべく早く。


 場所、南東工業地区廃〇〇ビル3階。


 条件、本人に会い直接交渉。


 報酬、給与の他本人所有の資産の全て。


 追記、場合により『目』譲渡。


 条件の交渉次第では内容に差異の発生する箇所が御座います。




 本人所有の資産の全て。凄そうだ。


 『目』って何だか分からんがとりあえず貰った方が得そうな気がする。


 軽く考えた俺は、早速向かった。




「やあ、来たね」


 優男。それが俺のジェイに対する第一印象。


 ジェイと、横に事務員らしき男が1人いた。


「『目』が絡みますので立ち合わせていただきます」


 事務員はそう言って会釈。


「で?条件付きは初めてなんだけど、どうしたらいいの?」


 俺は単刀直入に聞いた。ケツのナイフを意識しながら。


「僕のお願いを叶えてくれる?そしたら、素直に償わせてあげる」


 上から目線の言い方が癪に触ったが、とりあえず聞くことにする。


「そのお願いって何だよ」


「『ある人』がね、後2人で償い終了になるんだ。その人に償いを終了させて、アナタがその人を償ってくれる?4週間以内で」


 ・・・。


 聞いた感じ、そこまで難しくは無さそうだ。


「僕の償い方も指定させて」


 ジェイは黒いスーツのポケットに手を入れる。俺はナイフに手を掛けた。だが、ジェイの手が掴み取り出した物は武器では無く、小さな小瓶だった。


「これ、特別仕様のカプセル。中には即死レベルの毒物が入っているんだけどね、マイクロチップが内臓されているんだ」


 小瓶の中には、確かに小さなカプセル薬が一つ入っている。


 ジェイは反対側のポケットから、キーホルダーの様な物を取り出す。


「こっちがスイッチ。押すとマイクロチップがパチンと弾けて即死。これ渡しとくから、さっき言った『ある人』を償ったのと同時に押して」


 そう言って俺にそのキーホルダーを投げて渡してきた。


「カプセルは4週間で溶けちゃうんだって。だから4週間以内に終わらせて欲しいんだけど、出来る?」


 首を傾げるジェイ。出来そうだ。出来そうだけど・・・。


「何でそんな面倒臭い事すんの?」


 疑問がそのまま口から出た。


「だって、1人残ったら辛いでしょ?」


 笑顔で言うジェイ。


 そういうの、無理心中って言うんじゃないのか?


 まぁ、俺には関係無いからいいけどさ。


「やるよ」


 俺は、請け負う事にしたんだ。

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