輪廻
アルの番号が呼ばれた
「条件に合うのは、ジャパンの平安時代の都ですね、他にも候補はありますがここで良ければ…申請許可を出します」
どうしますか?、とバラムーが言う
ジャパン、倭の国の後世のことだ
そこで、お願いします、と返事をする
「では、ブループリントを持って魂の洗濯をしてください」
「魂の選択?え?選ぶのですか?
違う、記憶をリセットする?
あ、洗濯って洗うほう…」
洗う?笑い事じゃない
記憶を消されるの?
全てを?忘れるなんて…
完全に人間になりきるということ
そんなことをされたら…
「記憶はずっと戻らないのですか?」
必死になって聞くアルに押され気味になったバラムーが答える
「寿命が尽きれば、記憶は戻ります」
あ、そうなんだ、とアルは少し冷静さを取り戻す
つまり、ガイアへと転生している間は忘れるのね
それでも、困る
「転生中に記憶を取り戻すことは無いのですか?」
食い下がるアル
「稀にあると聞きますが…
大概、精神を病んだ扱いになりますよ」
なるほど、人間の社会ではそうなるだろう…
とりあえず、転生してみるしかない
その間に、宇宙と接触するチャンスがあるかもしれないし
寿命が終われば、また記憶は戻る
とにかく、ここから出ないと何ともならない
バラムーたちに見張られていては下手なことはしない方がいい
バラムー族に捕まって、連行されたらお終いだ
流れ作業の最後のようだ
皆がブループリントを手にたくさんの入口の前にそれぞれ列をなして並んでいる
ポータルのような入口の前に立っているバラムーにブループリントを見せる
ジャパン、平安時代で間違いないか?
と聞かれる
はい、と頷くとブループリントを入口横の装置にスキャンする
入れ、と言われるままに進む
そこから先のことは何も覚えていない
また、戻ってきた
デジャブではない
寿命を終えたスピリットたちが、ずらりと並んでいる
思い出した
平安時代末期の身分の低い武家に生まれて、すぐに父母は亡くなり、自分の体も弱くとても苦労をした
14の年に戦いに出て、落馬をしてあっけなく命を落とした
弓だけは得意だったのは、アルの魂の経験があったからか…
生きている間は、何も覚えていなかった
前回と同じように、列が進んでいき、出身星と転生回数を聞かれる
ブループリントも同じだ
ろくでもない選択肢ばかり
今度は女性で、幾度も病気に罹患、母親に赤ん坊の時に捨てられ、娼婦として生きるが不治の病で亡くなる
「中世のヨーロッパ諸国辺りですね」
それで、お願いします、と魂の洗濯
今度こそ、思い出すように
入口へと足を踏み入れる
また、戻ってきた
転生の人生で何も思い出せなかった
また、戻る
また、駄目だった
もう、何度目?
同じ事の繰り返し
スピリットが弱ってくる
輪廻転生はもう嫌だ
しかし、転生をしなければ永遠にアストラル界(霊界)を彷徨うだけのスピリットになる
鬼とこんな所にいるのはゴメンだ
一縷の望みにかけて、輪廻転生を繰り返すしかない
あの手この手で何とか記憶を取り戻すきっかけになりそうな経験をブループリントに入れてみるのだが、上手くいかない
転生中の波動が低すぎて、宇宙と繋がることもできない
まさに、無限地獄
キリストやブッダのように、転生中に自力でアセンション(次元上昇)をして、ガイアから脱出するスターシードもいたが、本当に奇跡のような例だった
到底、できそうにない
せめて、余りにも酷すぎる転生を何とか避けるだけで精一杯だ
人間を助けるどころではない
自分が救われたいくらいだ
列に並ぶスターシードたちのスピリットの波動も、どんどんと低くなり輝きを失っていた
アルもそうだった
正気を保っていられたのは、カークサスがくれたクリスタルの光が、スピリットの奥で決して消えなかったからだ
どうしようもなく、苦しい時
もうダメだと、あきらめようとする時
心の奥の光が、美しい輝きが、アルを思いとどまらせてくれた
何も覚えていないけれど、何もわからないけれど、絶対に悪の道を選ばない
死んでも、善でありたいと願う光の力が湧いてくる
《エピローグ》
我、善なるもの
悪の存在により己を知る
万物は陰陽にて完全たる運命
悪なるかな、己の内に
善なるかな、己の内に
我、善なるもの
未来永劫、悪とは交わらざる
善なるかな
善なるかな
そうして、宇宙連合が介入する今現在に至るのである
グリッドは撤去され、ポータルは繋がった
宇宙賊は追放され、輪廻転生から解放された
宇宙の何処へ行くのも自由になった
たくさんの閉じ込められていたスピリットがガイアから旅立っている
宇宙の平和を願って
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