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「いい加減にしやがれ若造ども!」

 怒鳴り声が梱屋敷に響き渡った。「ひっ」と二匹の妖怪が稔の剣幕に身体を縮こまらせる。いや、稔の居た場所には、一匹の古狸があぐらをかいて座していた。

「こんなもんで、にっくき狐どもに敵うとは思えん。性根を叩き直さんといかん」

 古狸の前で、露と耕助は顔を見合わせ、くるりと宙返りをした。たちまち若狸の姿となり、二匹は神妙な面持ちで正座をする。膳や箸は、数枚の木の葉に変わっていた。

「山奥から見知らぬ男がやって来たんだ、名も聞かずに入れるやつがおるか!」

 古狸の一喝に、耕助だった狸が「時期が図れませんで……」ともじもじする。「どうせ化かせちまうなら、気にならなんで」

「阿呆! 山奥で女子供二人きりだぞ、気にならんわけがない!」

 叱られている仲間を横目で見てにやつくもう一匹を、古狸はぎろりと睨む。露だった狸は、ぎくりと身を震わせた。

「旦那が留守だなんてくだりもやめんか! 余計に怪しまれるってもんだ」

「で、でも、男がおらん方が、同情して油断するんじゃないですかい」

「不審だと言うとるんだ。山奥に綺麗に着飾った女なんぞ、わしゃ妖怪ですって言うとるようなもんだぞ。もう少し化けるもんを考えんといかん」

 ぐうの音も出ず、若狸はしょんぼりと肩を縮めた。

「大体、同情を誘うんじゃない。正々堂々と勝負せい」

「化かすのに、正々堂々もありゃしませんぜ」

 耕助狸の言葉に、「ばかやろう!」と古狸は喝を入れる。

「正々堂々の化かし合いに決まっとるだろ! 余計なことばかり言いよって。人魚の肉は偽物だあ? そんなこといちいち言わんでええ!」

「すいやせん、親分。信憑性があるかと思いやして……」

「大体、最近の若い狸は性根が弛んでおる。ちっと様子を見に来れば、この体たらくだ。わしがおめえさんらの頃は、狐なんぞ目じゃなかった。この山は我ら狸一族の天下だった。だのに狐どもと人間を化かし合う程に落ちぶれるたあ情けねえ」

 二匹の若狸は、俯けた視線をこっそり交わす。また始まったよ。年寄りの説教は長いんだ。

「わしは梱屋敷なんて名付けにも反対したんだ。なにが狐狸屋敷だ、狸屋敷にせえとな。けんど、狐どもも住まう土地だからとは、長にも弱ったもんよ」

「狸屋敷は、あまりに間抜けですぜ」

「なんだと」短気な古狸の額に、毛皮でも隠せない青筋が浮く。「もう一遍言ってみろ」

「ですから、間抜けだと言うたんです」

「狐屋敷でも我らはかまわんと思とりますんや」

 耕助狸と露狸がくすくすと笑いだした。

「なんだてめえら、それでも狸の端くれか!」

「いややな、狸の親分。さっき自分で、狐の土地とも言うたったやないですか」

「ここに入り込むんは、あんたら泥臭い狸だけとは違いますわ」

 けけけと笑う二匹の狸は、口元を三日月に歪め、そのままくるりと宙返りした。

 畳に降り立ったのは狸ではなく、紛れもない二匹の狐だった。

「化かし合いは、今回はあんたの負けでさあ」

「年寄りは帰って茶でもすすってな」

 呆気にとられた顔をしていた古狸は、その言葉ににんまりと笑った。二匹が疑問を口にする間もなくこちらもくるりと回り、一匹の狐に姿を変える。

「おうおう若造ども、すっかり騙されおったな。狸のふりして騙されに来てやったんだ。なにもわしに合わせて狸に化けるとはな」

 ぐぬぬ、と二匹は顔を見合わせ、えいやと再び宙返りし、狸の姿に化ける。すると残る狐も元の古狸に姿を変えた。

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