第6話 二人っきりの時に、誘われたんだが⁉
啓介は彼女と共に、部屋でせんべいを食べる事になった。
一応、喫茶店では店員の亜佑奈から奢って貰ったケーキを食べていたのだが、やはり、夕方頃になると、もう少し食べたくなるものだ。
啓介は莉子から受け取ったせんべいを手にして口に運んだ。
彼女が部屋に持ってきたのは醤油系のせんべいだった。
せんべいの美味しさが口内に広がっていく。
久しぶりに食べて事も相まって、不思議と美味しく思う。
やはり、女の子と一緒の空間で食べているからこそ、そう感じるのかもしれない。
部屋では、二人がせんべいを食べる音が響いている。
せんべいは少々硬めだったが、十二分に食べ応えはあった。
「ねえ、難波君は、私としてみたい事ってある?」
「し、してみたい事⁉」
せんべいを食べ終わった事で、隣に正座して座っている莉子から突然、意味深な発言をされた。
変に心臓が高ぶってくる。
緊張感が増してきて焦っていたのだ。
「何かないの?」
彼女から首を傾げられる。
「それは……」
啓介は言葉選びに迷っている。
「だって、付き合うことになったんだし。私になんでも言ってもいいからね。出来る限りの事は出来るし。今後、私からも難波君にしてほしい事をお願いするかも」
莉子が急に距離を詰めてくる。
体との距離が近づくにつれ、啓介は冷や汗をかき始めていた。
あ、焦ったら駄目だ。
多分、卑猥な誘いではないはず……。
莉子はビッチだとされているが、彼女もいきなり如何わしい事をしたくて、そう言った発言をしたわけではないと思う。
でも、この緊迫した環境下では、冷静さを保つことなど出来なさそうだった。
啓介は、その場に立ち上がったのだ。
「お、俺、今日は用事があったんだった」
「え? そうなの?」
「う、うん」
啓介は焦りすぎて嘘をついてしまった。
そのまま通学用のリュックを手にし、彼女に急いで挨拶をして部屋から立ち去って行くのだった。