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3-竜に取り入るために

洞窟から逃げ帰ってきたマルタは、来たときよりも幾分速いスピードで戻り、村が見える辺りに到着する。


あの竜が襲ってこないであろうことはわかっているが、それはそれ。長く留まって刺激する必要もないし、何より大人達が心配している可能性も高い。


そのため彼女は、行きとは違ってだいたい道がわかるからとのんびりはせずに、大急ぎで帰ってきたのだった。

事実、村付近の森に辿り着いた彼女の目の前には……


「マルタちゃーん、どこだーい?」

「まだ冒険しているなら、出てきなさーい」

「後で俺たちが一緒に行ってあげるからー」


多くの大人たちが、同行者なしにどこかへ……間違いなく森へ消えた自分を探し回っている光景が広がっていた。

木々に隠れて全体は見えないが、声からして少なくとも10人はいるだろう。


もしかすると、村でも母親や同年代の友達が探しているかもしれない。大事件とまではいかないまでも、明らかに大事だ。木陰に隠れて、疎らにいる大人達の目を避けている少女は、顔をしかめて慎重に村に戻る道を進む。


「うひゃー、まずいわ。

おくまで行ってたってバレたら、もっとおこられちゃう。

村でお昼ねしてたことにしよーっと。

わたしはー、どこにもー、行ってなかったー」


棒読みでブツブツ呟くマルタは、そのまま誰にも見つかることなく村へ向かう。……なんてことは、やはりできなかった。


地面に落ちている枝や小石、周りの低木などにも気をつけて気配を消していたのだが、相手は日々そういう手合いを警戒している騎士である。


本部があるエリュシオンの騎士と比べ実力が劣るとはいえ、より危険な辺境にいるのだから、察知能力は負けていない。

いつの間に気付かれ、接近されていたのか、彼女は首根っこを捕まれ持ち上げられていた。


「うわぁ、なになに!? はなしておじさん!!」

「お兄さんな!」


マルタを捕まえた騎士は、顔の近くまで彼女を軽々持ち上げると、ムッとしたように文句を言う。

手足をバタバタと動かしても、まるで動じる様子はない。


その上、呼び方を訂正する余裕もあるのだから、もう逃げることは不可能だった。しつこく暴れていた彼女も、数十秒もすれば状況を理解して脱力状態だ。

猫か何かのように、ブラーンとぶら下げられている。


「おじさん、ママにたのまれた人?

でもだいじょうぶ、わたしブラブラしてただけだから」

「そういう問題じゃねーんだよ。とにかく戻るぞ。

おーいみんなぁ!! マルタちゃん見つけたぜー!!」


彼はマルタを離すつもりがないようで、ぶら下げたまま周りの仲間に呼びかけ村に足を向ける。

一度捕まった時点で、もう逃げ出す意味はほとんどなかったのだが、さらにどうしょうもなく村まで連行されていった。




~~~~~~~~~~




村に連行されたマルタは、母親を含む多くの大人たちに話を聞かれ、注意を受けてから、ようやく解放される。


外出禁止になりかねないため、森の奥まで行ったことはもちろん秘密。それに伴って、竜を見つけたことも秘密だ。

最初に決めていた通り、森を彷徨いていた時間も若干ごまかし、出てきた時にはもう夕暮れ。


似たような木造建築が立ち並ぶ村は、真っ赤に染まっていた。しかし、気持ちさえあれば何かしらできることはある。

彼女はにひひっと笑うと、まずは家に帰ってこの後の準備をするべく駆け出していく。


「おーい、バカマルタ」

「む、出たねスカしラザロ。わたし今いそがしいんだけど、何か用? 用があるなら早く言ってよね」


声をかけられたマルタが振り返ると、そこにいたのは同い年くらいの少年とその友人達だ。小馬鹿にしたような表情の彼に、彼女はうんざりした様子で話を促す。


「お前、今日森に行ってたんだろ? 竜はいたのかよ?」

「あんたには関係ないでしょ。それだけならばいばい」

「はーっ、やっぱいなかったんじゃん!

いつまでも御伽噺信じてんじゃねーよ、バーカ!」

「いなかったなんて言ってないけど?

そう思いたいなら、勝手に1人で思ってて。

何も夢見ずつまんない人生を生きればいいよ」

「は、はぁ!? 人生ってなんだよ!! おれは誰よりも‥」

「ばいばーい」


話しかけられた時点で、名前にバカがつけられていた通り、彼は最初から最後までマルタを……御伽噺を否定し続ける。

だが、彼女にとっては彼の態度も夢のような伝説を否定されることも、心底どうでもいいことであるらしい。


最初から最後まで彼を……現実的な意見に押し付けをスルーし続け、さっさとこの場を離れていく。

後に残されたラザロ少年は、同じように立ち尽くす友人達に囲まれながら呆然と立っていた。




~~~~~~~~~~




自分を馬鹿にしてくる友達をスルーしたマルタは、母親より先に帰宅する。別に、そうしなければ目的が達成できないということはないが、自由に動けるに越したことはない。


誰もいないのに部屋のドアを締めて、お小遣いを広げて何やら考え込んでいた。


「あの竜が不機げんな理由はわからないけど……理由がなんであっても、美味しいものをあげれば喜ぶわよね!

え付けして仲良くなーろうっと。うーん……でも、相手は竜。

何を買えばいいのかなぁ……?」


マルタはまだ12歳なので、全財産を引っ張り出したとしても大した額にはならない。さっきの少年と比べれば、おそらくまだ無駄遣いをしない方だとは思うが……


それでも、御伽噺や伝説などが好きでよく物語を買っているため、何でも買えるなんてことはないだろう。


おまけに、餌付けしようとしているのは、あの神と変わらないくらい強大な竜なのだ。下手なものを渡せば、逆に自分が餌になってしまうこと確実である。


たくさんの本や本棚、少しばかりの探検道具や外遊びの道具で溢れている部屋の中で、彼女は命懸けで買い集めるご飯について思考を巡らせていた。


「肉食っぽいし、お肉はいるよね。

お野菜はきらいかな……? でも、決めつけも良くない。

お肉を多めにして、お野菜お米もちょっとずつ。

こんな感じでいこっかな。よし、そうと決まれば……」


思いの外さっくりと決めたマルタは、素早くお小遣いをかき集めると、母親が帰ってくる前に家を出るべく立ち上がる。

仮に母親がいたとしても、間違いなく止められるという訳ではないが……


1人で森に行った前科があるため、確実に食料を買うためには、最低限バレないうちに出ることが必要だ。

なぜ食べ物を買うのかという部分で怪しまれる可能性も高いので、もう日が暮れるというのに彼女は夜を駆けていく。




~~~~~~~~~~




竜を見つけ、彼を餌付けするための食料を集めた翌日。

昨日よりも大きなリュックを背負ったマルタは、昨日とは違って母親の目を盗むように家を出る。


理由はもちろん、目的地が森の奥深くだから。

仮にそれを伝えなくてもリュックで怪しまれ、絶対に止められることがわかり切っているからだ。


同じように、村の大人たちや同年代の友達、騎士のお兄さんにも見つからないように、彼女はコソコソと森を目指す。


その行為自体は、昨日も同じことをやっているので難しくはない。巨大なリュックを背負った少女という、明らかに怪しい存在ではあるが、なんとか無事にバレることなく森に入ることに成功していた。


その後の道……竜がいた洞窟までの道のりなら、まだはっきり覚えているためさらに簡単だ。昨日よりも速いペースで迷いなく道を進み、半分ほどの時間で辿り着く。


余計な刺激を与えないよう、前回よりも慎重に洞窟へと入る彼女の目の前には……


「……」

「ありゃりゃ、また眠ってる」


昨日起こす前に見たのと同じように、微動だにせずに無呼吸で眠っていると思しき黄金の竜の姿があった。



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