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 ──頭が重い……


 そう思いながらローズが瞼を開けると、見知らぬ天井が目に入り、重い体をゆっくり起こして部屋を見渡してる。


「ここ、どこ……?」


 そこは全く知らない誰かの部屋だった。しかも、調度品はどれも上等なもので、あきらかに上流階級の屋敷だという事は分かった。


「え……なんで……?確か、兄様とお茶をしてたはずじゃ……」


 この状況に頭が追い付かず、狼狽えるローズが身体を動かすとジャラと重々しい音が耳に聞こえた。


 見るとベッドの足に、右手に一つ。左足首に一つずつ鎖が繋がられていた。


「──……は?」


 更に状況が分からなくなり、困惑している所に「ああ、起きたかい」といつものように優しい声が聞こえた。


「兄様……」


 いつもと変わらない笑みでローズを見てくるアシェルだが、逆にその変らない笑顔がローズの恐怖心を煽ってくる。


「何が何だか分からないって顔してるね」

「当たり前です。どういうことか説明してください。ここは何処なんです?この鎖は何ですか!?早く外してください!!」

「ふふ、まあ落ち着きなよ」


 アシェルは落ち着いた口ぶりでローズの元に寄り、傍に腰かけた。


「何から話そうか……そうだね。最初に、僕は君の事を妹と思ったことは一度もないよ」

「え?」

「勘違いしないでね。一人の女性として見ていたと言う意味で、嫌いと言っているんじゃないから安心してね?」


 そう言いながら手が伸びてきて、髪にキスを落とされた。別にいつも通りのアシェルなのに、その瞳の奥には狂気じみた闇が見え隠れしていて、ローズは思わず肩が竦んでしまった。


「殿下との婚約は正直許せなかったよ。僕がいるのに他の男の元に嫁ぐなんて在りえないってね。何度潰してやろうと考えた事か……まあ、その都度母さんに止められたんだけどね」

「お義母様に?」

「そうさ、ローズの幸せを壊すんじゃないってね。確かにあの頃のローズは本当に幸せそうで、流石の僕でも躊躇しちゃってね。だけど、その幸せをローズ自身が壊したんだ。なら僕が奪っても咎める者はいないでしょ?」


 この時、ローズは酷く後悔していた。

 元のローズの記憶だけを鵜呑みして、アシェルはいい義兄という印象を持ち続けていた。気づこうと思えば気づける点はいくつもあった。それを重度のシスコンだからと決めつけたのは、紛れもない私。


 本人(ローズ)が気づかない内に好感度を上げていたんだ。それも、闇落ちという最悪の形で……


 だけど諦めるにはまだ早い。ここが何処か分からないけど、ゼノが戻って来れば異変に気付いてくれるはず。それまで時間を稼げば……!!


「ああ、君についていた護衛だけど、殿下の元に帰ったよ」

「え」

「なんでも、君の奔放ぶりに嫌気がさしたって言ってたかな?丁度いいから殿下の元に帰るってさ。そのついでに婚約破棄の件も殿下に伝えてくれるって」

「そんな……」


 ゼノがそんなことを言うはずない……そう思うが、もしかしたら本当に嫌気がさしたのかもしれないとも思ってしまう。

 だって、私は困らせる事しかしていない。ゼノにとっては面倒な女で最低な女だ。見限られたって仕方ない……


 必死に堪えていた涙が溢れてくる。


「可哀そうなローズ。大丈夫だよ、僕はずっと君の傍にいるから」


 アシェルは優しく包み込むようにローズを抱きしめた。


 ああ、これはこの世界の秩序を乱した罰だ。

 郷に入っては郷に従えと言う言葉があるように、エンディングを終えたのなら、大人しくその相手と幸せになるべきだった。

 自分のわがままで、ローズの気持ちを無視するべきではなかった。


(彼女はこの世界の柱だもの……)


 今更後悔した所で遅い。


 ハッピーエンドを終えたのに、自分のせいでバッドエンドにしてしまった。ローズに謝罪してもしきれない。この結果が、私の郷だと言うのなら……


(受け入れよう)


「いい子だね。もう僕らを邪魔するものは何もない。一生二人きりだよ」


 大人しく腕に抱かれるローズに語りかけるが、もう喋る気力さえないようで黙っている。


 今のアシェルはローズの知っている優しいだけの兄ではない。歪んだ愛に飲まれ、まともな思考など最早ないに等しい。


(狂ってる……)


 だが、アシェルを咎める権利は私にない。


 生気を失った目に映るのは、愛おしそうに微笑むアシェルの姿。ローズはそのまま身を委ねようとしていた。


 ──と、突如


 ガシャン!!!!


 大きな音を立てて窓が割られた。


「迎えに来たよ」


 その言葉と同時に降り立ったのは、ゼノだった。





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