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エンディングを終えたヒロインに憑依したらしいけど、私が添い遂げたいのはこの人じゃない。  作者: 甘寧


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 ゼノは約束通り、次の日にはいつものようにローズの傍にいて、何もなかったように振舞ってくれている。それだけでも十分なのだが、満足だとは言えない。


 今までと変わらなければ話にならない。その為には、まず私の本気を知ってもらう必要がある。


「ゼノ、今日も素敵ね」と言ってみたり

「これ、貴方の為に作ったの」と手料理を振舞ってみたり

「ねぇ、どっちが似合う?」とまるでカップルのように聞き返してみたり、今までのローズなら絶対にしない事をしているのに、ゼノは顔色一つ変えない。


 中身は違えど、一応は乙女ゲームのヒロインなんだからゼノを振り向かせる事なんて容易いと、何処かでタカをくくってっていた節があった。だが、その考えが間違いだと今更ながらに思い知らさせた。


「……そもそも疑似恋愛しかしてこなかった私じゃ、いくらヒロイン枠でも無理がある……」


 自慢じゃないが、前世の恋愛経験値はないに等しい。現実は乙女ゲームの様に攻略法がある訳でもないし、コマンドが出る訳でもない。


 直球勝負で「好きです。結婚して」と迫っても軽くあしらわれるか、うんざりした顔をされるだけ。


「……どうすればいいのよ……」


 枕に顔を埋めながら悶々としていると、ノックの音ともに名を呼ばれた。


「ローズ、いる?」

「あ、はいっ!!」


 ドアを開けると、そこには優しく微笑むアシェルが立っていた。

 ただでさえ目を引く様な美しい容姿をしているのに、母親譲りの綺麗な碧眼と口元のホクロが色気を増幅させていて、ローズになったばかりの頃は、目も合わせられなかった。

 そんなアシェルは、忙しい父に代わり家督を務めている。元々頭のキレるアシェルは立派にこなしており、ローズにとっても頼れる兄。そして……


 ──攻略対象者。


 と言っても、元のローズもアシェルの事は本当の兄のように慕っていただけで、恋愛感情は全くない。


 ヒロインのローズが他のルートに目もくれず、レオンルートを完璧に攻略している時点で、アシェルは義兄と言うポジションで間違いない。……はずなんだが……


「どうした?なんか疲れてる?」


 コツンッと額を合わせて目を合わせてきて、驚いたローズは「だ、大丈夫です!!」と顔を真っ赤にして飛び退いた。


 そう。ローズの悩みはこの距離感。


 兄妹になったばかりの頃から何かと気にかけて面倒を見てくれていたので、それなりに距離が近かった認識はある。だが、ここ最近のアシェルの距離感は完全にバグってる。


 まあ、そうなった要因はちゃんと分かってる。


 ──唯一の血縁者だった義母の死だ。


 アシェルの母は一昨年頃から病に伏せり、昨年息を引き取った。

 レオンとの婚約が決まり、一緒になって喜んでくれた優しい義母。(ローズ)の花嫁姿を見るのが楽しみだと、弱っていく中で何度も何度も口にしていた。

 悔いがあるとすれば、その姿を見せれずに見送ってしまったこと……


 母を亡くしたばかりの頃のアシェルは何に対しても無気力で、顔からは笑顔が消えた。ローズはそんな兄の姿を見ていられなくて傍に寄り添い、支えていた。


 ローズの頑張りもあってか少しずつ表情が柔くなり、私がローズになった頃には立派なシスコンに進化を遂げていた……


 周りの人間は仲が良くて微笑ましいと言うが、親しき仲にも礼儀ありと言う言葉がある様に、仲がいいにも限度がある。


 いくら妹でも過剰なスキンシップは誤解を生みやすい。仮にも王太子の婚約者となれば尚更だ。


「お兄様。何度も言うようですが、私はもう子供じゃありません。その様な振る舞いは誤解を生むのでおやめ下さい」

「妹を可愛がって何が悪いんだい?言わせたい奴には言わせておばいい。僕が何とでもしてあげる」


 火照った顔を手で扇ぎながら諭すように言うが、アシェルは構わずローズの髪にキスを落としてくる。


 毎回、こんな感じではぐらかすんだからタチが悪い。


「それで?()()()どうしたんです?薔薇の棘でも刺さりましたか?」

「ヤダなぁ。いくら僕でも毎回は刺さらないよ」


 面倒臭そうに溜息を吐きながら言うが、アシェルの方は気にせず微笑んでいた。


「それじゃあ、何しに──?」と問いかけようとしたところで、アシェルのあまりの真剣な顔付きに言葉を飲み込んでしまった。


「ねえ、ローズ。君は本当に殿下と結婚したいと思ってる?」

「──……え?」

「少し前の君は殿下と会えば、何をしたのか逐一嬉しそうに僕に話してくれてたけど、最近の君は殿下と会ってもあまり嬉しそうじゃないよね?」


 何かを見透かそうとするように真っ直ぐ見つめるアシェルに、ローズの心臓は警告するように早鐘を打っている。


「もしかして、殿下には興味が無くなった?……それとも、他に好きな奴ができたの?……ねえ、教えて?」


 そっとアシェルの手が優しく頬に触れる。

 だが、その目は執拗に獲物を狙っている蛇を彷彿とさせるように鋭く光っていて、目が逸らせない。目を逸らしたら最後、この人から逃げられなくなる。そんな気がした。


 嫌な汗が吹き出す中、必死に言葉を紡ごうとするが上手く声が出せない。


 そんな時……


「はいはい、睨み合いしない」


 ローズを庇うように間に入ってきたのは、ゼノだった。











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