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「好き」


 その一言を発した後、我に返ったローズは慌てて口を詰むんだが、ゼノは信じられないものを見る目でこちらを見ていた。

 次第にその目は鋭くなり、怒りを含んでいるようにも感じる。ゼノはその場にローズを下ろすと、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと口を開いた。


「それ、本気で言ってんの?」


 いくら気持ちを落ち着かせようとしても、湧き上がってくる怒りを隠せることは出来なかったらしく、ローズを見る目は酷く冷たい。

 この時になってローズは自分の仕出かした失敗を後悔したが、時すでに遅い。


「純粋そうな顔して他の男に媚びんの?結構な性悪だねぇ?」

「──ちがッ!!」


 慌てて否定しようとしたが、ゼノから見たらそう捉えられても仕方なく、言葉を詰まらせた。

 そんなローズを見てゼノは更に嫌悪感を増したらしく、分かりやすく顔を顰めている。


「殿下もとんだ女に引っかかった訳だ。遊ぶにはあんたみたいな女が丁度いいけど、生憎と主である殿下には恩があるんでね。あんたには手は出せないの。と言うか、出すつもりもない。殿下と婚約までしといて、今更他の男に手を出そうとするなんて、怒りを通りこして呆れるよ」


 ゼノはレオンに死に損なっているところ助けられた恩がある。王太子相手に平気で軽口を叩いているが、忠誠心は忘れていない。それを分かっているからこそ、レオンは咎めるようなことは言わない。


 完全に私は男にだらしない女と認識されたようで、そんな女に優しく接するつもりは無いらしく、蔑むような視線を向けられる。


「今回の事は聞かなかったことにする。身の振り方一つで人生ってのは簡単に落ちるってのを忘れない事だね」


 ゼノは諭すように言いながら踵を返した。


 こちらを振り返りもしないゼノの背中を見ていたら、堪らず手が伸びていた。


「……なに?」


 考えもなしに服を掴んでしまい、引くに引けない状態になったローズだが、地を這うような低く冷たい声と共に振り返ったゼノの顔はとても見れず「あ、あの……」と呟くのが精一杯。


「いい加減にしてくれる?流石の俺でも怒るよ?」


 声色だけでも額に汗が滲むほどの威圧感。

 だが、ここで手を離してしまったらこの人はもう二度と自分の目の前に現れないと思う。

 こうなってしまったら腹を括るしかない。


 握りしめている手をギュッと握り締めると顔を上げた。


「わ、私の事を信用しろとは言いません!!けど、私の()()()だけは本物です!!」


 真っ直ぐ見つめる先には、惹き込まれそうなほど綺麗な琥珀色の目が睨みつけるように自分を映しだしている。


「は、何が本物だって?俺が何も知らないと思ってんの?馬鹿にするのもいい加減にしろよ」


 ドンッと大きな音と共に壁に追いやられ、逃げられないように囲われたが、ゼノは眉間に皺を寄せて必死に苛立ちを抑えている。


「あんたの事は最初から知ってんの。嬉しそうに殿下に寄り添う所や頬を染めて殿下に愛を囁いているのもね。それは何?本物じゃないの?あんたの言う本物って一体なに?」

「それは……」


 嫌な汗が頬を伝うのが分かる。


 レオンを想う気持ちだって本物だ。それは自信を持って言える。ただ、中の人物が違うだけ。


 私の記憶()にあるローズは、レオンを心から愛していた。中身が入れ替わった今でも、レオンを見ると胸が高鳴るほど身体に染み付いている。


 こんな事、正直に話した所で頭のおかしな奴だと思われるだけだけど、このままでは完全にゼノに節操のない女だと思われた挙句に嫌われたまま。


(それだけは死んでも避けたい)


 推しに嫌われるなんて、どんな苦行よりも堪える。


「答えれない事を軽々口にするもんじゃないよ」


 俯いている私の頭上から冷たい声がかかり、ゆっくり離れて行くのが分かる。けど、もう引き止める事が出来なかった……



 ◈◈◈



 ゼノと言い合った次の日。昨夜は中々寝付けず、ローズは酷い顔で目が覚めた。


 あれからゼノは一度もローズの前に姿を現していない。いつもなら寝付けないでいると、ゼノがやって来て他国の話やレオンの話を聞かせてくれてくれた。その時間が何よりも幸せで至福の時間だった。


 そんなことを思い出していたら、目に涙が滲んできた。


(このままじゃ、駄目だ)


 自分の気持ちを言ってしまった事に後悔はあるが、悔いはない。これからは秘めていた気持ちをぶつけて、自分の気持ちが本物だと分かってもらいたい。


 それにはまずゼノに会う事が必要条件なのだが、その本人に会えない。


「ゼノ様?いつも通り木の上にいましたけど……いませんか?」

「ゼノさんか?今日は見てねぇな」

「あれ?今までそこにいたんですけど」


 もしかしたら城に戻ったのかと思ったが、屋敷内にいるのは間違いない。ただ、相手は暗躍に長けた者。見つけることはおろか、言葉を交わす事すら難しい。


 このまま嫌われたまま、顔を合わせることもできず一生を終えるのは嫌だ。……そう思いながらテーブルに手を置くと、カツンと指に果物ナイフが当たった。


(……推しに嫌われて生きていくのは辛いな……)


 無意識にナイフを手に取り宙にかざし、自身の首目掛けて勢いよく振り下ろすと、ローズの目の前は真っ赤に染まった……








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